第17話 コアラ
次の日も、手掛かりを探す。当てずっぽうに探しても見つからないだろう。
白鳥の像とカエルの像を結んだ線、その間を僕たちの人数四分割して並んで歩いていく。まるで田植えのようだ。
じりじりと進んで十分ほど、僕はあることに気づいてしまった。
「あれ……。もしかして、これが三つ目の像かな」
壁際に花が植えられているプランターのすぐ横隣。小さな女の子の像が影に隠れるようにして置かれていた。
倉野さんも近づいてきて、つぶやく。
「これは盲点」
本当にただの庭の彩りのひとつのようにしか見えなかった。
素通りしてしまうはずだ。持ってみようとするが、見た目よりも重く、特別な理由もなければ移動させたりはしないだろう。
「えっと、とりあえず三つ手がかりが見つかったわけだね。ガチョウとカエルと女の子」
「それで、どうする」
地面に台形型の中庭の図を描いて、像があった場所に三つ星を描く。
「星が交わるだから、三つの像から線を引いたらいいんだろうね。だけど、どう引こう」
「それぞれの星から真ん中に向かってかな?」
水上くんが棒で真ん中に向かって線を引く。だけど、定規を使うわけでもない線は上手く真ん中で交わることはない。少しずつ、ずれてしまう。
「うん。カエルの王様を思い出してみよう」
津川先輩が水上くんから棒を受け取る。描いていた線を消して、星の横に翼と女の子とカエルの絵を簡単に描いた。
「グリム童話の金のガチョウは知っているかい?」
「えっと、確か金色のガチョウに触った男は手が離れなくなって、その男に触れた人も離れなくなって王様の元まで行く。みたいな話だったような」
「少し違うかな。ガチョウに触れて手が離れなくなったのは、ガチョウの羽根を欲しがった娘で、娘に触れた人が離れなくなっていく。男はガチョウを持って、城に行って一度も笑ったことないお姫様を笑わせるのさ。大体の大筋はこうかな。詳しくは図書室の本を読んでみてよ」
津川先輩は物語の内容を思い出したように笑む。そう言われると、いつもは興味のないグリム童話が気になってしまう。
この謎が解けたら、読みに行ってみよう。水上くんが棒で卵の形を足す。
「えーと、じゃあ、カエルの王様に例えて。ちょっと強引だけど、金のガチョウが生む卵が金の鞠だってとらえていいのかな」
「ああ。じゃあ、女の子とカエルが真っ直ぐ出会って、そこに鞠が落ちて来ると考えると……、こう」
僕は棒を借りて、女の子とカエルの像を線で結び、ガチョウから直角に真っ直ぐ線を下した。出来たひとつの交点に星を描く。
「ここに、何かある?」
倉野さんが中庭を見渡す。実際に線が交わるだろう場所は、何もないように見えた。地面に描く場合と違い、本物の像と像を結ぶには当てずっぽうでは難しいだろう。
津川先輩も同じようなことを思ったようだ。
「ロープが必要かな」
「向井さんに借りられるか聞いてみます!」
僕は向井さんにメールを打った。五分ほどしたら、返事がある。
「ロープはすぐには貸せないけれど、メジャーが倉庫にあるから借りていいって」
僕と水上くんで、メジャーを取りに中庭を出た。東棟も通り抜けて、校庭へと向かう。倉庫は東棟の壁にプレハブが立てられていた。
ごちゃごちゃと物が置かれている中からメジャーを二つ持って、中庭に戻ってくる。僕と倉野さん、水上くんと津川先輩。二組に分かれて、メジャーとその端を持つ。
水上くんがカエル。津川先輩が女の子。倉野さんがガチョウ。
それぞれの像の場所にメジャーを伸ばしていく。僕は真っ直ぐ、水上くんと津川先輩のメジャーの元へ。
「えーと、直角になるように。……この辺りだ」
メジャーが交わった場所には、茂みも樹木もない。ただの土の地面だ。
「宝、埋まっている?」
誰もが倉野さんの考えを一番に思い浮かべるだろう。
「スコップ取って来るよ」
僕らは再び倉庫へと向かう。スコップとシャベルを手に中庭に戻った。
問題の場所を丸で囲み、四人で掘り始める。不思議と小石の一つも出てこない。途中でカツンと、シャベルの先端が何か硬いものにあたった。
「何かある!」
いよいよ、勢いづいた。みんなで埋まっている何かを掘り起こす。出て来たのは、頑丈に封がされた缶だ。手が汚れることも構わずに、缶の土を払っていく。
ガコッと音を立てて缶を開いた。僕は少しだけ落胆し、心の大部分で納得した。
「……また、川柳と折り紙だ」
「これは、コアラ?」
グレーの折り紙は木にしがみついているポーズで、目と鼻も書かれている。コアラにしか見えない。
四つ折りに畳まれている紙を広げた。見なくても、川柳が書かれていることは簡単に予想出来た。
ひとひらの 影舞い踊る あの躍動
津川先輩が僕の手の中をのぞき込む。
「コアラということは、間違いなく体育館だろうね」
オーストラリア大陸に位置する建物は、学園に入ってすぐの場所にある体育館だ。
「今日はもう無理ですね」
僕らは泥だらけで、倉庫と中庭を二往復もしたのでべったりシャツが汗で張り付いている。堀った穴も放置するわけにはいかない。穴を埋めて、片付けもしなければならなかった。
「……もう四つ目。宝が見つかるの、いつ」
水上くんと津川先輩と土を戻している中、背後で倉野さんが川柳を見つめながら深刻そうにつぶやいた。
どうして、そこまで時間を気にするのだろう。いくら手の込んでいる仕掛けとはいえ、ただの宝探し。ゲームだ。
はじめて部活に誘われたとき以上に、不思議に思った。
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