プルプルなあいつ

「……ちょっと変わったものが食べたいな」

「ナァニ突然」


 鮭の切り身を頬張りながらそう零す俺にオーロラが呆れたようにツッコむ。いや、自分でも突然なことを言っている自覚はある。しかしだな、ここ最近健康食だったり燻製だったりキノコ料理だったり、ダンジョンのものじゃなくても作れるものが多い気がする。

 勿論、味には満足しているがすこーしばかり冒険……という訳ではないが面白い物が食べたい気分なのだ。


「でもナニにするの?ワタシはジョージが作るものならなんでもいいケド」


 oh、何でもいいが一番困るとはよく聞くけどまさか俺が言われる立場になるとは。実際オーロラは俺が作った物っていうか不味いもの以外は基本いい笑顔で食べるだろう。だからメニューで困ることはなかったりする。

 さて、面白い食材と言えばダンジョンで採れるものだよな。行儀は悪いがスマートフォンを取り出し食べられるモンスターについて検索する。けれど近くのダンジョンに生息するモンスターは食べたからなぁ。少し遠出になるかな?


「スナックコンドル……羽根を油で揚げるとポテチみたいにな食感になる、か。あーでも大分遠いダンジョンだな。バイソーモン……刺身で食べても問題ない牛と魚が合体したようなモンスター。相模浜ダンジョンも出現するし悪くは無いが、もう少しパンチが欲しいな」

「味噌汁おかわりモラウねー」

「どうぞー」


 今日の味噌汁はキャベツとえのきを入れてみたがお気に召したようだな。ポトフでもよかったんだが、興味本位で作ってみたら美味く出来た。これでねこまんまにしてもいいかもな。

 と、味噌汁に移していた視線をスマホに戻した時、それが俺の目に飛び込んできた。


「――これだ!」

「ウン?ドレ?」



 標的を決めたからには即行動。朝ご飯をしっかりと食べて弁当を準備し、目的地に向けて車を走らせる。高速道路を経由して約2時間。着いた先は雲雀浦ひばりうらダンジョンと呼ばれるベーシックダンジョンだ。

 早々に受付を済ませて入場する。普通ベーシックダンジョンと言えば、韮間ダンジョンのように石壁石畳で密閉された空間というのが一般的だが、この雲雀浦ダンジョンはそれとは異なり、石壁石畳なのは一緒だが、壁には窓がついて通路にはカーペットのようなものが敷かれている。


「城の廊下って感じだなぁ」

「ジョージ、これふかふかしてる!」


 オーロラの言っている様に、カーペット部分は強く踏めば軽く沈むくらいにはもこもこしている。しかし、ずらそうとしてもカーペットがずれることは無いことからずれて歪んだカーペットに引っ掛かって転ぶということは無さそうだ。ただし、踏み込みに馴れる必要はあるが。それに対してオーロラは常時飛べるからデメリットにはなり得ない。


「で、ジョージ。今日は何を獲るの?」

「あぁ、今日の獲物はだな。……お、自ら来てくれたみたいだな。ホラあれだ」

「エ?あれって……」


 俺が通路の先に見え、こっちにゴムまりのように跳ねながら向かってきている標的を指差すとオーロラもその存在を視認した。奥まで見通せるほど透明性の高い青色のボディにサッカーボールよりも少し大きいくらいのサイズをしたゼリー状のモンスターだ。その体の中にはピンポン玉大の白い核がある。そんなモンスターの一般的な名前は――


「スライム?」

「そうだ。正確に言うと"ゼリースライム"だな。今日はゼリースライム種を狙っていくぞ」

「フーン、スライムって食べられるんだ」

「スライムの食べ方を確立したのは日本人らしいぞ。これが結構色んな食べ方が出来るらしい」


 軽く調べた程度だが、食べるための狩り方は少し手間が必要ではあるが、調理自体はあまり難しいような工程はないらしいので実にいい。ちなみにスライムには大まかに2種類存在している。

 まず1種類目は、今目の前にいる"ゼリー種"。一般的にスライムと呼ばれているのがこの種だ。そしてもう1種類は"マッディ種"。理科の実験で作るようなスライムの形状をしたスライムをマッディ種と呼ばれる。こちらはそのドロドロな見た目から冒険者からゼリー種と区別するために"ドロイム"と呼ばれている。


「そのドロイム?は食べられるノ?」

「あぁ、スライムとは別の食べ方があるそうだが、このダンジョンには出現しないな。そもそも、このダンジョンにはゼリー種しか出てこないんだ」

「ヘー、ジャアとりあえずあれやっちゃうね!」

「え?あ、ちょオーロラ!」


 言うが早いか、俺が止めるよりも先に鋭利な氷の弾を作り出すと――スライムの体の核を正確無比に打ち貫いた。核が大きく抉れてしまい、その体を維持できなくなってしまったスライムはプルプルとその身を震わせたかと思うと水風船のように弾けてしまった。そこに残ったのは欠損した核のみ。

 どうしよ。オーロラ凄い褒めて欲しそうにこちらを見ている。でもこれ言ってしまうと落ち込むよなぁ……でも言わないとなぁ……


「その、オーロラ。その魔法は素晴らしいんだが……スライムにその狩り方をすると可食部が減る」

「エ゛」

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