スライムの狩り方

「ウー、ジョージごめんなさい……」

「気にすんな。説明不足だった俺も悪いしな」


 眉を八の字にして項垂れて分かりやすく落ち込んで見せるオーロラに俺が苦笑しながら励まし、足元に転がるスライムの大きく抉れてしまった黒い核を手に取る。スライムの核は生命活動を停止すると、生きていた時の反対色へ変化する。抉れてしまって見た目こそ悪くなってしまったが、破損してしまったからと味の質が落ちるわけでも無いし、このまま回収しよう。冒険者組合ならこれでも買い取ってくれるし。


「月並みの言葉だが、失敗は誰にでもあるもんだ。俺なんてしょっちゅうだしなぁ……それに、スライムの確保にはオーロラの力が必要なんだ」

「ワタシの力?」

「そう、美味いスライムを食べるにはオーロラの力が必要不可欠となる!俺一人じゃとてもじゃないが出来ない。頼むぞオーロラ!」

「ウン、任せて!」


 先ほどまで落ち込んでいたのは何だったのか。今では腰に手を当て胸を張っていらっしゃる。まぁ、オーロラには落ち込んだ表情は似合わないし、これでいいだろう。それに励ます云々関係なく本当にオーロラじゃないとスライムを完璧に狩ることは難しいだろうしな。

 それじゃ、次のお客さんスライムがやって来たことだし、今度こそオーロラにしっかり説明しよう。



 本日10体目の青い色をしたスライム。好戦的な個体なのか、今日斃してきたスライムは山なりに弾んで移動していたが、このスライムは直線的に跳ね、間違いなく俺達を狙って突っ込んできている。しかし、所詮は特に進化もしていないただのスライム。他の個体に比べると速くはあるが、捉えられない程では無い。


 さて、そんなスライムの前に立ちはだかるのはオーロラ。最初の1,2回は失敗していたが10体目ともなればもはや慣れたものだ。素早くお得意の氷魔法を展開させ、スライムのプルプルな表面を一瞬で凍結させることに成功した。


「ジョージ!凍らせたよ!」

「おう!」


 オーロラが凍らせた後は俺の仕事。取り出したるは解体用の小振りなナイフ。これを未だ凍った体の中でもがこうとしているスライムの核を狙い澄まして――一突き!極力貫かないように、最小限切っ先を核に沈みこませてスライムを絶命させる。進化してタフになった個体ならもう少し傷つける必要なあるかもしれないが、この程度のスライムなら問題なく斃せる。その証拠に俺が刺した部分からスライムの核が黒色へ変色していったからね。


 だが、驚くべきはここからだ。普通であれば核を傷つけ斃してしまえば、オーロラがやっちゃったようにスライムは核だけを残してゼリー部分は弾けて消えてしまうのだが、黒く変色した核の周りにはスライムの体は確かに残っている。表面を凍らせたことで爆発四散を防ぎ、形を維持させることが出来るのだ。


「完璧完璧。オーロラ、だいぶ慣れてきたね」

「ウン!集中しなくてもイケるようになってきた!」


 凍らせて爆発四散を防ぐ。それだけ聞けば簡単そうに聞こえるが、そうはいかない。まず、中の水分までガチガチに凍らせてしまえば俺がやったように小さなナイフが通らなくなってしまう。その場合、貫ける程の武器を使えばいいが、食材としてスライムを集めている場合は、過剰な傷はナンセンスだし、中まで凍らせているとその後の調理が少し面倒になる。もし、食べることが目的ではなく斃すことが目的なら中まで凍らせた後、鈍器でゼリー体を壊して核を傷つければいい。

 まぁそんな訳で、スライムをプルプルな状態で確保するには、表面だけ凍らせることのできる魔法の技術が必要となるのだ。オーロラは普段から氷魔法を得意としていたから頼りにしていたが、想定以上だ。


「ちなみに裏ワザとして氷魔法が使えなくてもスライムの体を残す方法はあったりする」

「エ、そうなの?」

「凝固剤を使えばいいんだよ」

「ギョーコザイ?」

「いわゆるゼリーとか作るための粉だな。受付ロビーでも売ってた」


 事前情報なしに雲雀浦ダンジョンに来る冒険者がいたらまず首を傾げるだろうな。情報なくてもスライムの存在を知っていれば売られている凝固剤を見てスライムが出現するダンジョンとは勘づく人はいそうだが。


「でも、スライムを扱う料理人の人からすると凝固剤を使うと食感に影響が出るらしい。買取も幾分か価値が下がるらしいし俺達は凍らせる方向で行こう。まだ魔法は使えるか?」

「全然ヨユー!」

「それは心強い。――っと。ようやく別の種類が出てきたか」

「アカイネ」

「あぁ、赤いな。でも気を付けろよ。赤いのは伊達じゃないからな」


 今までのスライムは全て青色だったが、次に現れたのは紅く、青色の核を持ったスライム。その名をファイヤースライム。その見た目、名前から安易に予想できるな。そう彼奴は火魔法を扱うことが出来るのだ。


 俺達を視認(?)したのか、ファイヤースライムは火魔法で作り出した炎弾をこちらに向けて放ってきた。今までのスライムは体当たりしかしようとしてこなかったから新鮮味を感じる。しかし、相手が悪かった。


「オーロラ」

「ハーイ」


 オーロラの氷魔法があっさりと炎を消火してしまい、そのままの勢いでファイヤースライムも凍らせてしまった。


「あ、オーロラ。ファイヤースライム自体少し熱持ってるからちょっと氷厚めで頼むよ」

「リョ」


 すまねぇ、ファイヤースライム。こちとら進化した妖精なんだ。今度はもう少し火力を上げられるようになってから挑んでくれ。

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