【煙に巻けば】モクモクモグモグ【美味くなる】

「Hey everyone, it's time for George's Drinking Channel!」

「フー!」

『えいごができてえらいね』

『絶対カンペ読んでるだろ』

「なーんで分かったし」


 そうだよ!視聴者の予想通りパソコンにいつもの配信開始の挨拶を英訳した文章をでかでかと表示させてるよ!おかしいな……頑張って翻訳通りに読んだはずなのにな。


『発音は問題ないけど、なんというか……ほぼほぼ翻訳サイトの読み方なんよな』

『滲み出る棒読み感よ』

「自覚はあるけども」


 やはり付け焼き刃は見抜かれるのが摂理か。ちなみになんで突然英語で挨拶し始めたかと言うと、このチャンネル、結構外国人も登録していたことが判明したんだよね。だからまぁ、新たなる試みをと思ったんだが、やはり俺は日本人。これからも日本語で挨拶しよう。


『今日は燻製か?』

『めっちゃあんな』


 挨拶もそこそこに今日の酒の肴の話題に。大きな紙皿に盛られたそれは、俺達が朝から夕方まで酒を飲みながら丹精込めて燻しまくった燻製食品たちだ。いやぁ、酒が進みすぎて配信用に作った物まで食べてしまう所だった。

 

「燻製器が届いたんでね、色んな食べ物を燻製したって訳だ」

『見たことある奴もあれば見覚えないものあるな』

「家にある色んなもので作ってみたんだよ。不味いものは作っていないはず」


 食べる時に何を燻製したか説明するつもりだから、今はそれぞれのグラスに酒を注いでいる。ビールは昼に飲んだから夜は冷酒だ。注いだ段階でもフルーティーな香りが溢れて鼻孔をくすぐる。これは燻製とも合いそうだ。

 

「よし、俺はまずシャコガイの燻製からかな」

「ワタシ豆腐!」

『豆腐!?』

『あぁ、それ豆腐か』


 俺が最初に選んだのは、シャコガイ――ではなく巻き寿司の時に使わなかった分を急速冷凍保存していたオウシャコガイを燻製にした物だ。食べやすいように一口大にカットしている。そしてオーロラの選んだ豆腐。視聴者もビックリしたが、オーロラが豆腐を燻製にすると言い出した時、俺も驚いた。


「オーロラ、最初はアレジャーキーじゃなくていいの?」

「サイショに出したら盛り上げに欠けるでしょ?」

「アッハイ、ご配慮いただきありがとうございます」


 俺としては別に好きなタイミングで食べてくれてもいいんだけど……?オーロラがそう決めたのならとやかく言う必要はないか。気を取り直してオウシャコガイの燻製にぷすりと爪楊枝を挿して口に運ぶ。

 おぉ、貝特有のコリコリとした食感にオウシャコガイ本来の味と燻製の風味が混ざり合って美味いな。咀嚼を楽しみながら冷酒を口にすると、これまた美味い。


「あ゛ー美味い!」

「ジョージ、豆腐オイシイよ!チーズみたい!」

「えぇ?チーズ?」

「ウン!ねっとりしてる!」


 信じがたい感想だが、オーロラはこんなことで嘘はつかない。これは俺も後で食べてみる必要があるな。そうだ、視聴者たちのツマミになる話として燻製をしているときの話もしておこうか。


「今日初めて燻製をやってみたんだけど、煙結構出るもんなんだな。オーロラが大量の煙を浴びた時は面白かったよ」

「モウ、ジョージ言わなくていいでしょ!」


 正確にはオーロラだが、親分マンドラゴラの存在は今のところ秘密だ。自分の可愛い失敗を暴露されたオーロラは俺の頬にグルグルパンチを繰り出す。ハハハ、非力のオーロラに殴られた所で痛くも痒くもないもんね。

 そんな訳でちょっとした笑い話のつもりだったんだけど視聴者たちは変な方向に向かっていた。


『オーロラちゃんが燻され……?』

『燻製すると大体の食材は茶色になる……』

『つまりは褐色肌オーロラちゃん!?』

『黒ギャル概念オーロラちゃん!?』

「そうはならんやろ」

「ナランナラン」


 まさかのギャルっぽくなるオーロラを幻視していた。……仮に燻されたことでオーロラが黒ギャルになったとしても、燻製の匂いがするギャルってのはどうなんだ……?癖強すぎない?けど、褐色肌のオーロラはそれはそれで似合いそうではあるな。


『燻さなくても今夏なんだし、オーロラちゃんがダンジョンで活動してればいつかは日焼けするのでは?』

『そうじゃん』

『そうなるとジョージだって日焼けするはずだ』

『ほう、褐色エルフですか』

『それもはやダークエルフなのでは?』

「俺に矛先向くこととかある?」


 確かに戸中山ダンジョンは屋外ダンジョンだから採取とかしていれば自然と日光に晒されることになる。基本長袖だから腕は日焼けしないが顔はそこそこ焼けてた。俺自身男の時は日焼けを気にしたことは無かったが、今はした方がいいのかな?オーロラにも塗った方がいいのかな?


「オーロラ、妖精って日焼けするのか?」

「ンーン、しないよ」

「あ、そうなんだ」

『えぇっ!!じゃあ褐色の妖精はおらんの!?』

「ヒヤケしないだけだから生まれた時に褐色の子はいるよ?」


 ワタシは見たことないけどと、ボソッとマイクに乗るか乗らないかの声量でオーロラは呟いた。おいおいオーロラ。それじゃあ隠しエリアにいたのに他の妖精を見たことあるみたいじゃないか。ムッ、このソーセージの燻製もまた美味し

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