はじめてのくんせい
2人の悲しい犠牲こそあったが、燻製の方は見た目は問題なさそうに出来ている。真っ白だったその体は日焼けのように真っ茶色に染まり、見たことのある燻製卵と燻製チーズの姿をしていた。普段であれば買っていた燻製の商品が自分の手で作れるというのは感慨深いものがあるな……
そんな思いを抱いたのはオーロラや親分マンドラゴラも同じようでパタパタと煙を手で払いながらも、早く食べたいのか用意していた紙皿に次々と出来たものを載せていく。
「ジョージ!早く食べよ!」
「ピギーッ!」
「そうだな。それじゃあビールを……って親分のは」
「ピギッ!」
オーロラが持ってきたビールは2缶。親分マンドラゴラの分が無かったので、いるのかどうか聞こうとしたところ、遮るように鳴いた親分マンドラゴラの手にはどこから取り出したかクライナーが握られていた。準備万端という訳ですか。
食べやすいように卵もチーズもナイフで切り分け小さくして爪楊枝を挿す。俺と親分マンドラゴラはチーズを。オーロラは卵を手に取って――いただきますとも合図も決めてないのに同時に口に入れた。
「うんま!」
「オイシ!」
「ピギッ!」
唯一親分マンドラゴラだけが人語を発してこそいないが、円だった目の部分が弧を描き、某非公式ゆるキャラの如くヘッドバンキングをしていることから、彼も美味しいと思ってくれているのだろう。
いやしかし、燻製チーズはスーパーで売っていたものを買ってたことはあったが、やはり出来立て補正もあるのか、燻製の香りが強く、チーズのねっとり感とまた合って最高だ。そしてそこにヤツを流し込む!
「プッハァ!やっぱ燻製は酒に合う!」
「ジョージ!卵も美味しいよ!」
「じゃあ次はそっちをもらうか!」
くぅ……っ!オーロラに勧められた燻製卵もまたいい。燻製卵と言えばうずらの卵をよく食べていたが、鶏のものでも十分美味いな。だが、1つミスしてしまった点がある。それは黄身が固ゆでのものを使ってしまっていたことだ。俺としたことがいつもより少し茹ですぎてしまっていたのだ。不覚!ただこれはこれで美味いので良しとしよう。
……そう言えば
「ピーッ!」
こうして親分マンドラゴラが物を食べているシーンを見るのを初めて見るのだが、改めて何だこの謎生物。確かに口らしき箇所で食べているし、ちまちま食べているからチーズには歯形?のようなものもついている。でもな、俺これまでにマンドラゴラを何回も調理しているから知っているのだが、あの口に当たる部分、皮を剥くとすぐに果肉部が出るんだよ。食道とか胃とか臓器なんてありゃしないんだよ。……親分マンドラゴラ特別なのか?粒源先生に見せたら嬉々として研究しそうだな。怖いから渡さないけど。
「いやぁ、美味いな。チップを変えればまた風味も変わるんだろうがとりあえず初めての燻製は成功だな」
「コレ何でも美味しくなるの!?」
「そうだな……大体は美味くなるみたいだけどキノコ類とかは止めたほうがみたいだな」
「色んなの試してみたい!」
「それはいいけど、俺ばかり火の番をさせるなよ?オーロラもやること!」
「ハァイ」
俺だって家の中でやらなきゃいけないことがあるからね。火を扱う以上は誰かが近くにいて見ていないといけないからな。こればかりはオーロラを逃がす訳にはいかない。……というか、あのゲーム持ち運びできるんだからここでも出来るでしょうに。
「よし、それじゃあ各自燻製にしたら美味しそうな食材を持ち出そうか。そしてその中の一部を今日の配信内で食べるとする!親分は配信中にこっそりあげるから庭で食べててな」
「オー!」
「ピーッ!」
「ただし、俺の配信は不味い物を嫌々食べる配信じゃないからな!燻製する前に調べて、酷評が多い物に関しては作らない!OK!?」
「オーケー!」
「ピギィ!」
こうして俺達は一時解散した。まぁ、食材のある場所なんて大体キッチンなんだからすぐに顔を合わせることになるんだけども。ちなみにオーロラと話し合って、楽しみにしていたイャナ肉ジャーキーは配信に回すことにした。
・
・
・
「燻製……燻製か……刺身の燻製ってありか?あー、冷燻?じゃないとダメなのか。んじゃあれならいけるか?他にも使えそうなものは……」
「ピギ」
「うん?どうした親分。ってお前これ、冷蔵庫から取ったのか?どうやって開けたんだよ。あ、椅子に昇ったのね。気を付けろよ?で、これ燻製したいってお前、いいの?」
「ピギィ!」
「あ、流石にお前は食べないのね。それもそうか。なるほど、そういやあれも燻製だったか。試す価値はあるな」
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