俺達の総称
「ドーン!」
「もぐぉっ!?――ハッ!俺は一体何を……」
長い夢を見ていた気がする。夢の中で俺は果てしない暗闇の中を全力で走っていた。時折不気味な笑い声が聞こえ、恐怖したものだがここで足を止めては不味いと思いひたすらに走った。無限とも思えるほどの時間を走った頃、急に悪夢が終わりを告げた。遥か先に眩く光が見えたかと思ったら、一切の減速もせずにぶつかってきて――そこで意識が覚醒した。目が覚めたはずなんだけど、暗くない?
「ジョージ起きた?」
「ん?あ、あぁオーロラか……起きたから離れて。ってあれ?検査は?」
「もう終わったよぉ」
顔にフェイスハガーしてきたオーロラを引き剝がし周りを見ると、別室で検査を受けていたはずなのにいつの間にか元の診察室に戻っているではないか。オーロラや粒源先生だけではなく須藤さんと梶原さんもいる。
「記憶ないんですけど?」
「いや、検査始めるや否や意識飛ばしたの君じゃないかね。私は至って普通の検査をしたつもりだよぉ?」
特に体に異常があるわけではないから信じるしかないか……?言動はアレだけど医者としての実力は申し分なく、同業者からの信頼も厚い。なんで田舎の医師やってんだこの人。お陰で助かっているのは事実だけど。
「私もあんな感じだったんですか?」
「差し出したチョコを自動的に食べるマシーンになってましたよ」
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「さぁて、検査の結果だがねぇ。まず木原くんからちゃっちゃと終わらせるかねぇ」
「ということは異常は無かったってことで?」
「そういうことだねぇ」
デカいモニターに表示されたのはレントゲンの写真。耳はレントゲンに映らないからほとんど人間同様の骨格で分かりにくいが話の流れ的に俺のレントゲン写真だろう。初めてレントゲン写真を見るオーロラは興味深そうにのぞき込んでいる。オーロラ、丸裸以上の俺を見ないでくれ……
「というかねぇ、異常がなさすぎるんだよ。健康体過ぎて怖いくらいだねぇ。あれだけ酒を際限なく飲んでいたら普通の人間なら間違いなくどこかしらに支障をきたしているはずだ。それを君ぃ……体の中にアルコールろ過装置でも付いているんじゃないかい?」
「それを調べるのが先生の役目なのでは……?」
「ま、解剖すれば判明する可能性があるがやる訳にもいかないからねぇ」
至極残念そうな顔でこっちを見ないでください。誰が好き好んで解剖されるかっての。そういうのはせめて俺が死んだときにしてほしい。勿論寿命以外で死ぬつもりはないが。……待てよ?エルフの寿命っていつになるんだ?
「今のところは大丈夫そうだがね、もし病気を患っても素人判断で市販薬を使わずにまずは連絡したまえ。そこは須藤くんも肝に命じなよぉ?」
「「はい」」
「よろしい。それでは須藤くんの話に行こうじゃあないか」
さっさと俺のレントゲン写真は撤去され、次に表示されたのは須藤さんのレントゲン写真だろう。おおう、明らかに普通の人間にはあり得ない点がいくつかあるな。
まずは頭。俺とオーロラで触って確認した2本の角が確かに存在していた。頭蓋骨から突起物がせり上がったような感じだ。そして下半身。お尻――尾てい骨に値するところに小さな骨が鞭のように連なっているのを確認できる。あれが尻尾か?
「さぁて、木原くん続いて新たな種族と変異してしまった者が現れたわけだがねぇ。ここは1つ、総称を付けようじゃないか」
「総称ですか?」
「そうだとも。その方が今後わかりやすいと言うものだ。そうだな……"変質者"というのはどうだろうかねぇ」
「別の意味に聞こえるからやめてくれませんかねぇ!?」
「私もちょっとそれは……」
変質という意味だけど考えれば間違いは無いのだろう。者という漢字も人を意味する言葉だからね。だが、その2つの言葉を合体させた途端、とんでもない意味の言葉になるから全力で却下させてもらった。須藤さんもきっと同じ気持ちだろう。
俺達2人の却下に粒源先生は呆れたようにため息をつく。いや、ため息つきたいのこっちなのだが。
「じゃあ"変じ――」
「却下!」
「じゃあ"亜人"でいいかねぇ」
なんか急にまともっぽいの出てきたな。もしや粒源先生、俺達で遊んでた?いや、この人の事だ。割と変質者も変人も本気で提案していたのかもしれない。
それに比べたら亜人は問題無いだろう。須藤さんも同意見なのか、頷いて肯定を示している。
「それでは本題に進もうか。まずは須藤くんの種族だが、Aカードを更新した際に"人間"だった表示も切り替わり"ドラゴニュート"となった。ドラゴという文字からも察せられるがドラゴンの遺伝子が混ざった人間のことだろう。いやぁ、エルフに近い種族ではなく全く異なるドラゴニュートに変わってしまうとは……意味が分からないねぇ。で、検査で分かったことなんだけど」
粒源先生が言うにはこうだ。
まずドラゴニュートとなった須藤さんの体は角や鱗や尻尾を除けばほとんど人と同じ……という訳ではなかった。調べたところ、須藤さんの気管に新たに管が生まれ、2つの肺の間に新たな臓器が出来ていたそうだ。
「この臓器を調べてみるとだね、中に高熱を孕んでいるようなんだよねぇ。聞くに体が変わってからビックリしたりすると炎が出るようになったと言っていたが、私はそれにこの臓器が関係していると思っている」
「可燃性ガスのようなものが入っているってことですか?」
「そうだろうねぇ。この事から須藤くんはドラゴニュートの中でも火竜に近い存在なのだろう。確か大阪のダンジョンにいたかねぇ、火竜。」
ってことは今後、須藤さん以外にドラゴニュートが現れた場合、水竜に近いドラゴニュートとかになる可能性もあるのか。まぁそもそも生まれるかって話になるか。
「更に身体能力も向上。ドラゴンの遺伝子があれば当然とも思えるが、それなら視力も低下したままだと言うのは何故か。じゃあそこのエルフの馬鹿力はどうなるんだって話になるんだけどねぇ」
「それを俺に言われても」
「そこは追々研究させてもらうさ。――さて、食事面に関してはこちらも特にアレルギー反応は見受けられなかった。一医者としては体質が変わった可能性もあるのにバカスカ食うなと苦言を言いたいところだが、問題ない。ただ、人間にとって毒イコールドラゴニュート及びエルフにとっても毒の可能性は十分あるので、食べないように」
話を纏めると、須藤さんは現状生きていく上では特に問題は無い。だが、不意に炎を吐いてしまって火事を起こしてしまう可能性は十分にあるので、コントロールできるように努力する必要はある。尻尾もまた新たな部位として動かせるようなので、自由に使いこなすことが出来れば生活の助けになるかもしれないから合わせて訓練の必要はありとのことだ。
「――でも尻尾が生活に役立つことってなんですか?」
「両手塞がっている場合に扉を閉める時楽になるんじゃないかねぇ」
いいのかよそんな使い方で。
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