するの?しないの?

「君が彼女に何を着て欲しいかは私にはどうでもいいんだがねぇ、そろそろ検査の時間だから彼女はいただいていくよ。君達は座って待っておきたまえ」

「これは申し訳ございません。私としたことがつい……須藤さん頑張ってきてください」

「あ、はい。でも木原さんは……」


 ん?なんでそこで俺に視線を送るんだ?――あぁ、俺が須藤さんを置いて帰ると思っているのだろう。変なところを見はしたが、梶原さんなるマネージャーは信頼できる人なんだろうし、帰っても問題は無いだろうが、連れてきた手前帰るのもなぁという訳で


「俺も検査終わるまで待ってるから大丈夫」

「そ、そうですか。ありがとうございます」


 明らかにホッとしたな。それはあれか、粒源先生を1人で対処するのが恐ろしいからか?気持ちはわかる。気をしっかり持って検査に望んでくれたまえ。

 さて、検査のために粒源先生と須藤さんは別の部屋に移動するのだが、部屋から出る直前で粒源先生がなんとも厭らしい笑みを浮かべながら振り向いた。


「言っておくが、須藤くんの検査を終えたら次は君だからねぇ、木原くぅん?」

「え゛」

「そんな顔するんじゃないよぉ、定期健診だと思いなよ。そもそも禄に来やしないんだ。受けておきな」


 ぐぅ、ド正論で返されてしまえば受けないわけにはいかない。幸い武道さんに頼まれた薬草類も今すぐに集めて欲しい物じゃないから後日でも構わないしな。

 ……でもちょっと嫌だなぁ。検査自体は粒源先生が優秀だからか滞りなくスムーズに行われるんだよ。問題は検査する時の粒源先生の顔だ。薄気味悪い笑顔を浮かべながら物凄い速度でメモを取りながら「ふぅん」「あぁー……」「そう言うことねぇ」「ククク……」とブツブツ言って怖いんだよ。


「あぁ、それと妖精――オーロラくんだったか。彼女もこの部屋でなら出しても問題は無いよ。先程顔出した看護婦以外誰も入れないようにしてるからねぇ。いつまでもカバンの中では窮屈だろう?変なものに触ったり見たりしなければ咎めやしないよ」

「それはどうも。オーロラ、大人しくしてろよ?」

「ハーイ」


 カバンからぴょんと飛び出たオーロラに粒源先生は一瞬興味深げな眼をしたが、すぐに部屋を出て俺と一緒に部屋に残された梶原さんは目を見張ったが、声までは出さなかった。

 さて、ほとんど知らない人とほぼ2人きりになってしまったが……どうしよう。会話デッキが無い。とりあえず自己紹介はしておくべきか。と、俺が口を開こうとした瞬間、梶原さんから目の前に何かを差し出された。これは――名刺か。


「初めまして。私、曙りゅーたんのマネージャーを務めております、梶原小春と申します」

「あぁ、これはご丁寧にどうも。木原譲二です」

「オーロラだよ!」


 須藤さんにチャイナドレス提案した人と同一人物とは思えないが、ここまで丁寧に挨拶されては返さねば失礼だろう。生憎名刺は持っていないが、梶原さんの名刺を受け取った後、被っていた帽子を脱ぎ頭を下げる。オーロラさん、挨拶は大変立派だが、俺の頭に座って挨拶しないで。

 帽子を脱いだことで当然、俺のエルフイヤーも解放されて梶原さんが目の当たりにする。


「須藤から事前にお話しは聞いておりましたが、酒飲みエルフ配信者のジョージ様だとは。この度は須藤を保護していただき、ありがとうございます」

「こちらとしても同じ境遇の人が出てくるとは――正直いつかは出るとは思ってましたけどまさか目の前に現れるとは思いませんでしたね」

「えぇ、木原さん以外に見つかっていればと思うと……」


 俺で言う武道さんみたいに信頼できる人に見つかっていれば良かったかもしれないが、あまり良い事にはならなさそうだよね。その点で言えば、須藤さんがあの姿でいきなりダンジョンに潜っていたのは迂闊としか言えないよな。本人も分かってはいるだろうが


「ところで須藤さんのVtuber活動はどうなりそうですか?」

「須藤が良ければ、曙りゅーたんは続けていきたいです。これはウチの社長も同意見です」

「あ、実写で売り出すという訳じゃないんですね」

「はい、無理強いをさせるつもりはありません。幸い、自宅で配信する分には問題なさそうな変化です。ただ、3Dのモーションキャプチャーの調整に関してはやって見なければ……ですけど」


 あー、そうだよな。尻尾生えちゃってるもんなぁ……でも実際に須藤さんの尻尾を見たわけじゃないけれど、それをうまく改善させれば曙りゅーたんの尻尾もいい感じに動かせるようになるのではないだろか。門外漢だから下手なこと言えないけど。


「ところでVtuberの件にも関わるのですが……木原様は須藤とコラボの様な話にはなりましたか?」

「え?いや、してないですけど――」

「それならいいんですけど、出来ればその……やるにしても今はやめていただけると助かります」


 梶原さんが言うにはこうだ。確かに俺とコラボをすることが出来れば、曙りゅーたんの株は一気に上がるだろうが、同時に余計なトラブルを抱えてしまうデメリットがある。まぁ、何の関わりもない配信者とVtuberがいきなりコラボしてしまえば勘繰られるのも当然だろう。下手すりゃ炎上だ。

 それに俺自身コラボしないって常々言ってるから俺まで燃えかねん。いや、曙りゅーたんとコラボするって発想すら俺には無かったからね。それはコラボと口に出された今も変わっていない。そもそも、どうコラボするんだ?


「個人的には木原様にはお手すきの時に須藤からのご相談にのっていただければ、と。大変心苦しいのですが、仕事についてのサポートは出来るのですが、やはり体がいきなり変化してしまったことに関しての心のケアというのは私共では……」

「そう、ですね。分かりました。それについては出来る限り力になります」

「ありがとうございます、よろしくお願いいたします」


 そう言い、互いに頭を下げ合ったところでいつの間にそんなに時間が過ぎていたのか、須藤さんと粒源先生が帰ってきた。まるで一夜漬けの仕事から解放されたような晴れやかな笑みを浮かべる粒源先生とは対照的に須藤さんはどこか魂が抜けているような……あれ?心のケアするの今では?


「じゃあ次、木原くんの番だからねぇ」

「え゛、ちょま、心の準備が」

「兵は神速を尊ぶってねぇ」


 待ってこれ俺も心のケア必要になるかも

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