此方も明かさねば…無作法というもの…

「木原さん、これはですね……」

「須藤さん落ち着いて。その姿のことならわた……もういいか。俺は力になれるかもしれない。もし、信じられるなら場所を変えて話したいんだが、大丈夫か?」


 今更「私」だなんて取り繕っても宜しくないだろう。しかし、須藤さんもマジカルマッシュルームを食べて体に変化が起きてしまうとは。恐らくだが、前回はかけていなかったサングラスの下――目にも変化が起きているのだろう。

 俺の提案に須藤さんは、思いのほか早く決断し、立ち上がりしっかりと頷いた。そこでようやく俺の後ろで飛んでいたオーロラが視界に入ったのかそこでもまた驚いていた。


「妖精?木原さん妖精を連れてたんですね。あれ、でもその羽まさか……」

「ハロー」

「喋った!?え、本物!?」

「ハイハイ、その件も含めて話すから今は静かに移動しようか」


 人語を話すことが出来る妖精を目の当たりにしたことで何となく俺の正体に気付いたのだろうが、それでも須藤さんはすぐに冷静さを取り戻し、これ以上声を発さないようにか自らの口を抑えて黙ってついて来てくれた。呼吸はしてね?



 戸中山ダンジョンで周りの目を気にせず話せるところと言えば、俺とオーロラが出会った隠しエリアだ。ここは俺達じゃない限り知覚できないし、入ることも出来ないから密談には本当にうってつけだ。実は戸中山ダンジョンに入るたびに隠しエリアにも寄って少しずつ快適に過ごせるようキャンプ用品を設置してたりする。武道さんあたりを招くかもと思って椅子増やしておいてよかった。


 さて、隠しエリアにも驚いている須藤さんを椅子に座らせて俺達も椅子に座る。当然オーロラは机の上に載せた椅子に座っている。まぁ何を話すべきかとなると、俺のことだよな。信頼を得るためには、俺の正体はしっかり明かしておいた方がいいだろう。俺は屋外では殆ど外すことの無かった帽子を外し、長い耳がピンと跳ねる。


「ドーモ、エルフの木原譲二です」

「ドーモ、オーロラデス」

「すごい気軽にバラしますね。いいんですか?」

「そりゃあ、まぁ同じ境遇な訳だし?どうやら種族は違うみたいだけれど」


 俺は長い耳が特徴的な種族、エルフになってしまったわけだけど、目の前の居住まいを正している須藤さんは耳こそ普通の人間と変わらないが、頬の鱗の様な模様だとか振り向いた時に吐いた炎とか、明らかに人では無いしエルフでもなさそうだ。


「種族名は……Aカードを更新するのが少し怖くて、まだ分かってないです。マジカルマッシュルームを食べて眠くなって起きたらこんな姿になって。少しでも気晴らしになればとダンジョンに来てたんです。ただ種族に関しては、予想はついているんです」


 そう言うと、須藤さんは躊躇いつつもサングラスを外し、その相貌を明らかにした。俺の記憶が正しければ、須藤さんの目は少しつり目気味の普通の日本人らしい黒っぽい目だったものが、全体的に金色へと変化しており、黒目の部分が丸ではなく縦に伸びたような形になっている。


「爬虫類?いや、ドラゴンって方が近いか?」

「恐らくですけど。それに、頭のこことここ、触ってもらっていいですか?」

「いいの?」

「はい。オーロラさんもどうぞ」


 言われた通りに須藤さんの指し示した場所――頭のてっぺんよりそれぞれ左右に少し離れて後頭部の方に少し進んだ辺り。オーロラとそれぞれ触れてみると……うん?なんだ?ポコッとしたところがあるな?オーロラの方にも同じような凸があったらしい。先端は尖っているようで押してみるとチクっとした。


「タンコブ?」

「いえ、子供の時にたんこぶが出来たことはありますけど、全く違う場所です。私がこの姿になってから出来たものなんです。角なのでは、と思っています」


 なるほど、角と言われればしっくりとくるな。

 頬にある鱗の様なものも触らせてもらったが、本当に鱗だったようで思った以上に堅かった。これ、ワンポイントだからファッションタトゥーみたいに見えるけど全身を鱗が覆ってたら俺以上に隠すの大変になってたな。


「他に変化はあったのか?」

「あー……その、お尻の方がちょっと」

「お尻?あ、あぁなるほど。ごめん、恥ずかしいことを聞いてしまって」

「いえ、大丈夫です」


 お尻の方に変化――ということは、尻尾が生えていたんだろうな。でもこう言っちゃなんだが、ズボンを突き破るような尻尾じゃなくてセーフだったやも知れない。

 眼に鱗に角に尻尾と来れば、大体の可能性は見えてくると言うものだ。リザードマンとかドラゴニュートだろうな。しかし、その、なんだ。決して口に出すつもりはないが、格好いいな……男と言うものはどうしてもドラゴンとかそういったものに格好良さを見出す生き物だ。ちょっと羨ましさすら感じる。


「木原さん?」

「あぁ、ごめん。少し考え事を。この姿のことは誰かに話した?」

「いえ、木原さん以外は誰にも……」

「まぁうん、気持ちはわかる。けれど、コールセンターで働いているなら上司に連絡したり病院に行って検査とかはしっかりしておいた方がいい。幸い俺は特に何もなかったけど……ってそういや今日お休み?」

「その件なんですけど、実はオペレーターというのは嘘でして……実は私、"曙りゅーたん"って名前で活動しているVtuber、です……」

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