いつもの場所で知らない気配
野草採取のために戸中山ダンジョンに向かったところ、受付ロビーに武道さんが立っていた。彼もまた俺に気付くと軽く手を振ってきた。
「おう、譲二さん何だか久しぶりやなぁ」
「確かに久しぶりな気がする」
電話やLINEで話をすることはあったが、直接会って話をするのはマンドラゴラを渡した時以来か。
頻繁に戸中山ダンジョンには行くのに彼に会わなかったのは、最近もっぱら裏方仕事ばかりしていたそうだ。その裏方仕事というのは俺関連の仕事らしく……何と言うか、お疲れ様です。
「まぁ譲二さんの事対応できるの俺くらいやろうし、気にせんでええわ。それに給料もアップしとるからな、むしろ感謝感激エルフ様様や。――っとそうや、テレビの件お断りでええんやな?」
「あぁ、それでお願い」
「任せぇ任せぇ」
ぶっちゃけ武道さんに話を振られるまで頭からすっぽり抜けていたが、最初からそのつもりだったからこれでいい。テレビなんて性に合わないからね。絶対言っちゃまずいこと言いそうな気がするし。武道さんもそれを分かっていたのだろう、特に何を言うでもなく引き受けてくれた。こちらこそ感謝感激武道様だわ。
「せや、今日はこのメモのが求められとってな。頼めるか?」
「どれどれ……あぁ、この程度なら大丈夫」
武道さんから手渡された1枚のメモに記されていたのは戸中山ダンジョンで採ることのできる薬草や薬用キノコの名前と必要数。冒険者組合からの直々の採取の依頼だ。これは男の時からずっと薬草納品していたことから頼まれるようになった。
今回頼まれたものは特に面倒な物でもないので、二つ返事で受けることにした。
「気ぃつけてなぁー」
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さて、戸中山ダンジョンに入って少し離れた所でオーロラが鞄から飛び出る。少しの時間とはいえ狭いところにいたからか、気晴らしとばかりに少し俺の周りを凄いスピードで飛んでいると不意に停止して遠くに視線を向け始めた。いつもニコニコしているオーロラにしては珍しく真剣――というか何か探っているような表情だ。
「オーロラ?」
「ナニカいる」
「何って……何だ?」
「ワカンナイ。ここで感じたことの無いケハイ」
俺にはよく分からないが、オーロラには感じるものがあったのだろう。しかし、感じたことの無い気配か。可能性としてはアカオオダイショウのような変異種が現れたのだろうか。うーん、念のため確認に行った方がいいか。もし、俺の手に負えないようなモンスターだったらそれこそ報告しなければいけないし。
「オーロラ、そこまで案内してもらえるか?」
「ワカッタ!」
杞憂で済めばいいんだけれどな。トラブルだけは本当に勘弁だよ……?
オーロラの案内に従って進むこと数分、近づいてはいるそうだが、周りを見た感じ特に荒らされたような感じは見受けられない。寧ろ静か……静かすぎない?おかしいな、木々鹿一匹、鳥一羽すら見当たらない。――ん、なんか俺も感じた。確かにこの先に何かがいるみたいだ。ただ、その気配の持ち主は荒れているわけではないようだ。ただただ異質。気配を感じた時、一瞬身の毛がよだった気がした。
「オーロラ、一応戦闘準備しといて」
「ウン」
右手にヤドリギの矢、左手に吽形を持ち、出来るだけ音を立てずに気配のする方へ足を進める。
気配の発生源へ次第に近づき、ついにその正体を俺達は目撃した。果たして異質な気配を発する者の正体とは――!?
「わ。これって、ふきのとう!?本当にダンジョンって季節関係なく生息してるんだ……不思議」
……ん!?須藤さん!?いや、あの服にこの声。後ろ姿しか見えていないが、間違いなく須藤さんのものだ。気配を隠しながら無言でオーロラと視線を交わして、ふきのとうの採取に夢中になっている須藤さんを指差すとオーロラはコクンと頷いた。マジ?いや、俺も彼女からの気配だって感じてるけどさ、ホラ前会った時と全くの別物じゃん?実は別人でしたってオチじゃ
「――誰ですかっ!あっ!」
オーロラとアイコンタクトで意思疎通していると、不意に須藤さんが声を発してこちらを振り返った。別段身を隠していたわけではないが、気配は隠していた。それを察されたことにも驚きだが、もっと驚いたのは振り向いた時の須藤さんその物だ。
この前会った時は眼鏡を掛けていたよな?それが黒いサングラスになってレンズの奥の目が見えないようになってるし、頬の所に……そう、赤いトカゲの鱗の様な模様がある。そして何より、俺の見間違いじゃなければ彼女の口から火、出てませんでした?
サングラスのせいで目こそ確認できないがそれ以外で明らかにこちらを見て驚いている須藤さん(?)にちゃんと笑えているか不安だが、笑いかけて声を掛ける。
「どうも。須藤さん、だよな?」
「き、木原さん……」
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