ボロボロエルフ

 上位個体の攻撃が終わったことに気付いたのか、オーロラが硨磲の盾を雑に放り投げて飛んできた。硨磲の盾は光の刃の攻撃により大小様々な傷がつけられていたが、破損までは至っておらず、むしろその傷が徐々に消え始めていた。そういや再生能力あったな。


「ジョージ、ダイジョウブ!?」

「生きているって点では大丈夫だけど、痛いなぁ……」


 いやぁ、これほどまでに痛いのは久しぶりだ。痛みによってのたうち回らない自分を褒めたいくらいだ。ただ、血がとめどなく流れるから心なしか寒くなって気がする。あー頭もくらくらしてきたか?


「顔青いよ!?ポーション!ハヤク!」

 

 オーロラに急かされるまでもなくこのために用意しておいた品質のいいポーションを口にする。うん、痛みが徐々に引いてきた。装備すら切り裂いてついた体の傷も綺麗さっぱり塞がっている。念のためオーロラに見てもらって顔の傷もなくなっていることを確認。えーっと、次は増血ポーションを――


「モガッ」

「イッキ!イッキ!」


 ちょ、オーロラさん飲むから。間違いなく飲むからそんなボトルを突っ込まないで。特別不味いわけではないけど、美味しいわけじゃないんだから!せめてゆっくり飲ませて……飲み切れてしまった。効果は覿面で凍えるほどの寒さが無くなった。

 これで怪我の面では完全回復だ。が、体力までは回復しきれていない。ポーションを使ってけがを治すってこと自体も体力使うしなぁ。ま、当初よりそろそろ撤退するつもりだったし、帰ろうか。あぁ、でも道中で魔法陣無かったから、ゴブリンキングのボス部屋の前まで戻らなきゃいけないのか……辛い。



「おう、嬢ちゃん!無事だったみてぇだな。ってどしたその恰好」

「え?はぁ、どうも。格好についてはお気になさらず」


 ゴブリンキングのボス部屋までオーロラに助けてもらいながら戻ったところ、入る時にもいたおっさん達が変わらずそこにいた。俺達は1時間以上は潜っていたと思うんだが、この人たちは潜ってないのだろうか。ちなみに格好については装備がボロボロでちょーっと肌が見えちゃってるからね。オーロラから人がいるかもしれない所にそれは駄目でしょと言われ、階段を上がる前に大きめな布で体を覆っているのだ。

 ……でもオーロラ俺と会った時素っ裸じゃ……ごめんなさい。


「俺達がずっとここにいるのが気になるんだろ?冒険者組合に頼まれてな。階層に潜ろうとする実力不相応の冒険者を止めるようにしてんだよ」

「確かに、潜る人いそうですもんね」

「だろう?それに潜る実力があっても道中不測の事態と遭遇して体力を消耗しているのにも関わらず潜ろうとするやつもいるから、そういった奴らも止める役割を担っている」


 それも必要な役割なんだろうな。かと言って、彼らもずっとここで監視するわけにもいかない。もう何時間したら別のパーティと役割を交代して、一旦ダンジョンから抜けて準備万全な状態で挑むんだとか。


「この監視?ってずっとやるんですか?」

「いや、2週間ほどで止めるそうだ。俺らもそこまで付き合いきれないからな。……で?嬢ちゃんはどうだったんだ?階段から戻ってきたってことは、帰還の魔法陣が見つからなかったんだろうが」

「ちょっと大きめなイャナサウルスと遭っちゃって。斃しはしたんですけど、そこで撤退です」

「ブッ!?」


 ん、上位個体の話をしたらおっさんが噴き出してしまった。俺に唾がかからないよう咄嗟に顔を背けてくれたから平気ではあったけれど。


「よく無事だったな……。デカいイャナサウルスってことは、"マグイャナ"だな。あいつら魔法使って来るからパーティ組んでてもキツイ相手なんだよな。引き連れたイャナ2体もそうだが、あの光刃にゃ手を焼かされたぜ」


 そうか、あの上位個体の光の刃は魔法だったのか。なら本当に見敵必殺でヤドリギの矢を投げたのは正解だったかもしれない。斃せていなかったが。ただ、おっさんが遭遇した時は2体のイャナサウルスだったのか。俺が遭遇した奴らはかなり大きめな群れだったんだな……これはわざわざおっさんに言わなくてもいいだろう。あとで受付にでも伝達しとこ。



「ご帰還、本当におめでとうございます。ですが……その、大漁ですね」

「頑張りました」

「これ、普通の冒険者の基準で言うと、頑張りすぎに当たるんですよ?マグイャナまでいますし……」


 行きは女性職員に見送られ、帰りはおっさんに見送られる俺。無事魔法陣で受付ロビーまで戻ると早速女性職員引き連れて解体所に赴いて本日の成果であるイャナサウルスの山を取り出した。マグイャナは山に押しつぶされないように少し離れた所に置いといた。


「本当だったら解体方法勉強させてもらうつもりだったんですけどね、今日はもう眠気がすごいのでまた今度ということで……イャナサウルスとマグイャナのお肉をいただいて残りは買取をお願いします」


 ダンジョンから抜けたことで気が抜けたのか、大きな欠伸が出てしまう。帰ってひとっ風呂浴びてから一眠りしてから棒棒鶏作ろうかね。折角だし配信もやろうか、な。


「ふぁあ……ふぅ」

「あの、居眠り運転だけは気を付けてくださいね?なんなら休憩室がありますけど」

「それもそれでリスク高いのでやめときます……ブラックガム食べて頑張りますです」

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