上位個体の意地
こちらに迫る6体ものイャナサウルス。上位個体もそのまま襲い掛かるものかと予想していたが、奴は一切その場から動かず、まるで観察しているかのようにこちらを見ている。いや、こりゃ実際に観察しているのだろう。群れを率いる者だけあってそれなりに知性はあるのだろう。
あいつは放置しておくと危険そうだな。よし、ヤドリギの矢で仕留めてしまうか。思い立ったらすぐに行動だ。
「"後ろのデカいやつの頭をぶち抜け"っ!」
後ろのデカいのと指定したからだろう、ヤドリギの矢は攻撃対象として俺が選ばなかった子分イャナサウルスを透過してすり抜け、上位個体の頭に突き刺さる。それと同時に俺を襲うのはかなり重めな疲労感。思わず敵前にもかかわらず体がグラついて膝をついてしまうほどだ。
「オーロラ、すまん。足止めお願い」
「ハーイ!」
後ろで自分たちのボスがやられていることに気付いていないのか、織り込み済みなのか分からないが真っ直ぐこっちに向かって来る。だが、それはオーロラの氷魔法によって通路一面を塞ぐように作られた壁により阻まれる。氷の壁の奥から鈍い音が聞こえることから何体かは激突したな。
「ダイジョウブ?」
「あぁ、思ったより力持っていかれたが、残党狩りと帰るだけなら問題ないだろ――ん?」
オーロラに心配されながらも立ち上がったが、氷の壁の奥から音がしていることに気付いた。大方、イャナサウルス達が壁をぶち破らんと攻撃を繰り返しているのだろうが、何だろう時折重い音も混じっているような?
なんてことを考えていたら急に氷の壁に亀裂が入り窓ガラスが割れた時の様な音を立てながら崩れていった。おおう、壊すまでもうちょっとかかると思っていたんだけど……
「マジかよ」
「エェ……」
仕留めたと思っていた。役目を終えたヤドリギの矢は既に俺の手元に戻っているし、なんなら今日はこれ以上使うと支障がありそうだからAカードに片付けている。が、奴は間違いなくそこにいた。頭にデカい風穴があいているにも関わらず2本の脚でしっかり立って確かな眼差しでこちらを捉えている。なーんで頭打ち抜かれて生きてるんですかね。生命力高すぎない?
「ギュア……ッギジジジジジ!」
上位個体が呻き声のような物を上げた後、遭遇した時のように笑い声の様な鳴き声をあげる。威嚇のつもりかはたまた味方を鼓舞しているつもりなのか――いや、そうではないようだ。奴の体に刻まれていた三日月の様な模様が淡く金色に光り出した。しかも、他のイャナサウルスもこっちに来始めたし!こりゃ不味いか?
「オーロラ、さっさと片付けるぞ!」
「ワカッタ!」
上位個体がしようとしていることは時間がかかるのか、光を放ったまま動こうとはしない。そしてイャナサウルス達はそれまでの足止めのつもりなのだろうか。難なく御せると思ったが、こいつ等さっきまで戦った個体とは違って連携を組んできやがる。攻撃をしようとすると別の個体が割り込むことで邪魔をしてくる。
まぁ、連携するのは俺とオーロラも同じなのだが。頭数の違いで戸惑いはしたが、すぐに馴れた。次第に向かって来るイャナサウルスの数は減っていき最後の一匹の頭を一刀両断した。あとは、上位個体のみ。戦闘中確認はしていたが、あいつずーっと模様を光らせるだけで本当に何もしていなかった。
「オーロラ、硨磲の盾出して自分守ってな」
「ウン」
硨磲の盾は2つある。サイズ的にオーロラはすっぽりと隠れてしまい、視界も塞がれてしまうのだが、硨磲の盾の特性上オーロラでも容易に持つことが出来る。とりあえずオーロラにはこの中に隠れて距離を取れば周りに他のモンスターもいなさそうだし安全だろう。
俺はと言うと、弓と矢を取り出す。ヤドリギの矢ではなく、普通の矢だ。矢を番え弓を引く。
「フッ!」
短く息を吐くと同時に矢を上位個体に向けて放つ。奴のあの発光がこけおどしであるならば問題ないはずだが、俺の矢は奴に届く前に光によって弾かれた。いや、正確に言うと光の刃というべきだろうか。俺の矢を弾いたらそのまま俺の頬を掠めていった。頬に温かいものが伝う感触がある。あっぶねぇなオイ。少しずれていたらグロ漫画顔負けの絵面になってたぞ。
「ギジジジジジ!」
「オーロラ!絶対出てくんなよ!?」
奴の紋様の光が一層強まる。これはあれだ、さっきの光の刃がどんどん出てくる奴だ。オーロラは硨磲の盾に隠れていれば防げるだろうが俺の体は流石に収まり切れない。Aカードから出す暇も無いだろう。ならやれることは――何とか逃げる!持っていた弓を目くらまし目的で奴目掛けてぶん投げ、地を駆ける。エルフスキンには優しくしてくれよな!!
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「はぁ……ひぃ……ふぅ……へぇ……」
結論から言おう。生き残ることは出来た。体中の至る所に切り傷が出来て出血しているが、五体満足の状態だ。もう必死に逃げたね。絶え間なく放たれる光の刃。これが無色透明だったらヤバかったかもしれない。光っている分見えるからね、ギリギリながらも避けれた。地を蹴り壁を蹴り縦横無尽に駆け回ったよ。息も絶え絶えだ。
さて、上位個体だが……止めを刺す必要はないだろう。何故なら奴は――立ったまま絶命していたから。
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