更なる階層?
「はぁ、更なる階層が発見されたと」
「えぇ、木原さん凄いタイミングで来ましたね?」
今日は韮間ダンジョンに潜ろうかなと、ふと思いついてやってきた矢先にこれですよ。どおりでいつもより人が多いはずだ。受付の女性職員の話を聞くと、つい先日ゴブリンキングのボス部屋に辿り着いたパーティのうちの1人がボス部屋に入る前に偶然にも石畳の下から次の階層に続く階段を見つけたんだとか。
そのパーティ等は見つけた次の階層に行くことも出来たのだが、当初の目的がゴブリンキングだったこともあり、未知の階層を進める準備もしていなかった。そんな状態で潜って最悪命を落としかねない。ということで、予定通りゴブリンキングを降し、受付ロビーに戻って階層について報告したのだとか。ちなみに、報告料ということで多額の報奨金が彼らに支払われたのだとか。
「で、肝心の未知の階層は?やっぱりゴブリン・オーク・ミノタウロスなんです?」
「いち早く潜ったパーティによると、スタイル的には今までと同じ石壁石畳なんですけれど、出現するモンスターは恐竜です」
「え?恐竜?」
「恐竜です」
「ダイナソー?」
「ダイナソーですね」
それはまた、ベーシックダンジョンに似つかわしくないモンスターが出現するんだなぁ。恐竜系モンスターと戦ったことは無いが、ああいう手合は基本的に広いダンジョン――付近で言うと戸中山ダンジョンみたいな山ダンジョンや高原のダンジョンに出現する……はず。
「ボス部屋はどんな感じで?」
「そこまではまだ。何せ道中で苦戦してボス部屋までたどり着けていないんですよ。ゴブリンキングを討伐した経験のある人たちでもですからね……今のところ、ゴブリンキング討伐歴のない人ではないと潜れないように制限はしております」
「ということなら俺にも参加権が?」
恐竜、その単語を聞いて思い出すのは、戸中山ダンジョンでのバーベキュー配信でのマンガ肉もといティラノサウルスの肉だ。あれは美味かったなぁ。思い出すだけでも涎が出そうだが、人前でそれはアカン。自制自制。
ティラノサウルスが出るとは限らないが、もしも出てくるのであれば、買わずとも狩れるかもしれないからな!おぉ、帽子の中で頭を叩く感覚が。そうか、オーロラも食べたいか!
「ありますけれど、本当に注意してくださいね?ほとんど別物のダンジョンですから」
「分かってますって。危ないようならさっさと帰るつもりです」
その言葉に嘘偽りはない。いくら俺が万能のヤドリギの矢を持っているとはいえ油断は禁物だ。追跡ガツオ"戦艦"のように不意に対策を取られ、それが要因で命を落とす可能性はある。
準備も怠らないつもりだ。今まで持ち歩いている物よりも性能がいいポーションをAカードに入れてもらって……あぁ、そうだ。財布の中に忍ばせておいたマンドラゴラも使う機会があるかもしれないな。
「本当にお気を付けて」
そんな女性職員の声を背に受けて俺は韮間ダンジョンに突入した。
・
・
・
「オーロラ、隠れてな」
「ウイウイー」
さて、難なくボス部屋までたどり着きました。道中?吽形とオーロラの魔法でちょちょいのちょいよ。解体も忘れていないよ、貴重なお肉だからね。それでも少し急ぐようにしているから雑になっちゃったけど。
えーっと、下層へ続く階段はーっと……ム、あそこに人が。しかし、見たことあるような……あっ
「ん?おぉ、しっぺの嬢ちゃんじゃねぇか」
「あー、あの……はい。お久しぶりです」
いつだったか韮間ダンジョンに潜っていた時になんか絡んできたおっさん達だ!名前は忘れた。忘れちゃったんだもん仕方ないよ。まぁあっちもしっぺの嬢ちゃんと呼んでいることだしどっこいどっこいでしょ。
「嬢ちゃんもあれか?挑むのか?」
リーダー格のおっさんが親指を階段の方へ向ける。"も"って言っているあたり、彼らも潜るつもりなのだろう。
おっさんの質問に首肯して答える。
「ソロでか……気を付けてくれよ?危ないと思ったらすぐ逃げるんだぞ?」
「そのつもりですよ。――では」
「あぁ、健闘を祈る」
おや、前回は取り巻きにパーティを組むように言われたと思うのだが、何も言われなかったな?
まぁ誘われないなら気楽でいいと言うものだ。おっさん達はまだ降りるつもりはないようで、俺に先を譲ってくれたので、有難く行かせてもらう。
数分階段を降りたところで次の階層が見えてきた。最後の一段から降り立つと――
「キシャア!」
「はぁっ!?」
劈くような声と共に眼前に飛び込んだ来たのは、明らかに人間とは別の生物の口であろう物。俺は自分でも分かるくらい慌てて吽形を振り抜いた。おい、ベーシックダンジョンにモンスターが出るのは部屋でってお約束だろうが!?
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