【勝負は】※そうめん流しです【一瞬】
いつもはゆったりとした配信であるはずの"ジョージの酒飲みチャンネル"に緊張が走る。常に流れているコメントもポツリポツリとまばらだ。そのコメントの内容も「ざわ……」「ざわ……」と無駄にざわついている。
何故ここまでざわついているのかというと、オーロラが人生初の流しそうめんキャッチにチャレンジしているからだ。俺的にはここまで張りつめたような空気にならずともいいのではないかと思うのだが……オーロラから凄まじい気迫を感じる。心なしか、オーロラの顔が劇画タッチの様に見え、その纏う雰囲気は刀を抜かんとする侍が如く。再三言うようではあるが、流しそうめんである。
まるで数秒が数時間にも感じられ――いや、30秒は30秒だわ。――ついにその時がやって来た。
オーロラの目がカッと開かれ、彼女の眼前を流れる数本のそうめんに狙いを定め、その手に握り締められた1組の箸を差し込み、掴み上げる。
水中から一瞬で引き抜かれた箸に掴まれたのは勝利の証である白き糸の如きそうめん。勝利の雄叫びをあげずにオーロラは数あるめんつゆの中から選んだものにそうめんを軽く沈ませて、口に含んだ。
「イケル!」
「そーかそーか、それは何より」
『美味いのか……美味いんだ……』
『オーロラちゃんが言うなら間違いないだろう』
オーロラはそうめん自体は初めてではない。配信外の夕飯でちょくちょく食べているし朝食の味噌汁にそうめんを入れることだってままある。けれども、13種類もののつゆで食べ比べるのは初めての事だ。かくいう俺だって初めて。
オーロラが初手に選んだのはめんつゆの中でも最大級の変化球であるエビトマトクリーム。自分で買っておいてなんだが、一番躊躇したやつなんだけど、豪気にもそれを選んで、次々と気持ちのいいくらいの音を立てて啜っていらっしゃる。
「まぁ俺は安定のめんつゆなんだが」
『ジョージ、お前はもうちょっとオーロラちゃんを見習って何その山』
『めんつゆ<薬味になってない?』
『そうめんにかこつけてめんつゆ浸した薬味食べてないかこのエルフ』
『オーロラちゃんが健全に見える』
「なんでぇ?」
確かに些か薬味を投入した感あるけれども、そんな健全不健全言われるほどか?まぁ、薬味のついでにそうめんを食べているって点は否定しない。めんつゆと薬味って合うんだこれが。しかも薬味のある意味強烈な香りで淡泊なそうめんも立派な酒の肴となるのだから、俺は間違ってねぇ!
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カレーめんつゆ?カレーの味がするよ!死ぬほどわかりやすい味のめんつゆだが、だからこそ子供は好きだろうな。俺的にはもう少し辛みがあってもいいと思うが、そこは誰でも食べられる味ということなのだろう。
「よくもまぁ、めんつゆでここまで種類売り出すもんだよね」
「梅つゆも美味しい!」
『日本だしなぁ……』
『ダンジョンで発見された調味料になりそうなものの研究にも余念がないからな、日本』
「美味い物が食えるならそれでいいわな」
箸休めにと用意していた出汁巻き玉子を一口食べてビールを流し込む。それにしてもオーロラ、流しそうめんに相当嵌っちゃったな。今もそうめん掬う時、「ィィイヤッホオオオオオオオオオ!」だの奇声をあげてとても楽しそうだ。
『ところでジョージ、今日の配信めっちゃ明るいのは照明買ったん?』
「おー、そうそう買ったよ。どう?違う?」
『せやな、より見えやすくなった』
『照明の他になんか買ったりしたの?』
「してないけど」
照明を買ったのは、「そういや一般的な配信者って専用の照明使ってるんだよなぁ」って思い出して買っただけで特に他に配信に関係するものは買っていない。だって、現時点で十分配信出来ているからね。
『おう、投げ銭させろや。そんでカメラとかマイクとかももちょっとええの買え』
『鮮明な画像で見せろ』
「えぇ?別に投げ銭してもらわなくても稼いでいるしなぁ」
『でしょうね』
『モンスターばしばし狩れるやつが稼げてないわけないもんな』
「まぁ、カメラとかマイクは魔が差したら考慮しとくよ」
『魔かよ!?』
『あ、ジョージさん大皿のそうめんそろそろ無くなりそうよ』
「え!?ちょ、オーロラ今日はペース早いな!?」
「マダ食べれる!」
そうめんがするする胃に入るのは否定しないけれどまさかのおかわりとは恐れ入った。だがしかし!このジョージに抜け目はない!用意していたのだ、こういう時を見越して……!新しく買った冷蔵庫に、もう一皿分の大皿に載せたそうめんを……!最悪残してしまったら別の料理に転生させてしまえばいい話だからね!
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