【嗚呼】緩流に身を任せどうかしている【川の流れのように】

「ハァイ、皆の衆。ジョージの酒飲みチャンネルの時間だ」

「見に来てくれてアリガトー」

『はじまた』

『出たわね』

『今日はそうめんね。涼しくてええやん』

『なんか今日画面明るいな?』


 今日も今日とて始まった配信。本日の酒のあては一目瞭然、大きな透明のガラスの器に盛られた大量のそうめんだ。別に暑さにやられて食欲をやられたからそうめんにしたわけではない。やりたいこともあったし、なにより食べたかったからね。ちなみに今日のそうめんは最高級とまでは行かないでも、化粧箱に入ったものだ。

 配信前の試食で、茹でたての物を1本だけつゆに付けずにを食べたが、まぁ驚いたものだ。普段食べているものとここまで違いがあるとは思わなかった。


「さて、見ての通り今日はそうめんなんだけど、これだけじゃあないんだな」

「ジャーン!」


 オーロラの「ジャーン」に合わせて配信の画面外から取り出したのは事前に開封し、隅から隅まで綺麗に洗浄した家電量販店で購入した一品の――


『ほう、流しそうめん機ですか。デカいな』

『よく買ったな。使い道的な意味で』

『ほぼほぼ子供のオーロラちゃんがいるとはいえ、流しそうめん以外に使い道無いのにな』

「まま、つけ麺とかにも使えるじゃん?」

『麺なんだよなぁ……』


 いいんだよ、この配信の後倉庫の肥やしになることになっても、忘れた頃にまた使うかもしれないからね。とりま、今楽しい配信に使うことが出来ればOKだ。

 用意しておいた水を流しそうめん器にセットして電源をオン。ふむ、パッケージの売り文句通り動いているはずなのにモータ音が一切しない。これならば配信の邪魔にはならないだろう。


「さぁオーロラ、そうめんを流してくれるかな?」

「アイアイサー!」


 本人の希望により、そうめんを流し始める役割を担うのはオーロラ。オーロラ用の菜箸を渡して彼女は少しずつガラスの器から流しそうめん機にそうめんを移動させる。勿論、入れすぎると流れることを阻害するだろうからそこは注意させてある。

 さて、オーロラの尽力もあってそうめんは流れ始めた。プラスチックで出来た道を水が流れ、水の流れに任せてそうめんもまた流れる。それだけなのだが、どこか涼しさを感じる。


「うーん、夏」

『なつだもの』

『ジョージの家なら本格的な流しそうめんできそうじゃない?部屋見る感じ広そうだし』

「出来ないことは……ないね」


 うん、自慢じゃないが俺の家の庭は田舎に立つ一軒家だけあってそこそこ広い。それこそ、一部をマンドラゴラ畑にしても余裕があるくらいだからね。竹を組み立ててホースで水を引っ張り込んで立ちながら流しそうめんをするくらい訳ないのだ。


「必然的に外でやることになるしなぁ。特定班が庭の情報から住所特定してきそうで怖いんだよね」

『否定できん』

『あいつら天気からも情報得るからな』


 ってのもあるけれど、本当はマンドラゴラ畑を映すわけにはいかないってのもある。あれはトップシークレットだ。そのトップシークレット、畑から抜け出してはクライナーカパカパ飲んでるけど。


「では改めて、流しそうめんの始まりだ!流しそうめんと言えば、そうめんと流しそうめん機の他にも重要な要素がある。オーロラくん、答えは?」

「ハイッ!そうめんつゆです!」

「Exactly!」

『(そのとおりでございます。)』


 この日のためにそうめんと合わせてAmazonで注文しておいたのだ。普段であれば、ノーマルなめんつゆだけで楽しんでいたのだが、時代は進化するもので、そうめんつゆに用いられるのは昆布つゆなどだけではない。


「えーっと、きのこおろしつゆに麻辣麺の素にカレーめんつゆにごまめんつゆ」


 そうめんつゆ目録を読み上げながら、それに応じためんつゆが入っている器を机の上に並べていく。


『麻辣麺ひき肉ごろごろ入ってるな』

『そうめん用なのは分かるがご飯にかけて食べたい』

『カレー、カレーは全てを解決する』


「梅めんつゆにエビトマトクリーム、焼肉風醤油――」


『どんどん出てくるな』

『つゆの種類もそうだけど、ジョージの家、皿多いな?』

『エビトマトクリームってそれもはやパスタでは?』


「鍋にも使える魚介だしにクリーミーとんこつにキムチだし。トマトめんつゆ」


『多い多い』

『まだ出るんか?』

『俺達はジョージを甘く見ていたのでは?』

『オーロラちゃん、よくこの状況でまだ目キラキラさせてんな』

『視聴者全員、餌をもらえると思ったら皿から溢れるくらいののペットフードを注ぎ込まれている猫みたいな顔になってそう』


「後は普通のめんつゆとポン酢。こんなところかな」


『ようやく止まったか』

『13種類て。常人なら全部味わう前にギブアップだろ』

『あれ?薬味ないの?』

『あっ』

『おい馬鹿やめろ』

『聞いちゃった』


「みんなが何を警戒しているか分からんけど、俺が流しそうめんに薬味を準備していないわけがないだろう?ほら、こちらにドーンとね!」

「ワー!」

『わぁ(絶望)』

『喜べるオーロラちゃん、やっぱりジョージのパートナーだよ』

『心なしかカツオのたたきよりもあるように見える』


 いやぁ、そうめんは茹でるだけで楽だったけれど、この量の薬味はカツオのたたきで慣れておかなきゃ大変だったわ。その分、今日は楽しむぞ!

 それじゃあ今日はキンキンに冷えたそうめんということで、合わせるのはこちらもまたキンキンに冷やしたビール様で――


「「乾杯(カンパイ)!!」」

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