パパッと買ってパパッと設置

「それでは、こちらに置かせていただきますね。……あの、以前から使われていた冷蔵庫等は、回収しなくてもよろしいのですか?」


 ありとあらゆる大きさのダンボールを玄関前に置き切った女性配達員が心配そうに尋ねる。そういや、回収サービスなんてものもあったな。だけど今まで使ってきた冷蔵庫にもまだまだ働いてもらわなきゃいけないからと、お断りをしておいた。


「ところでお客さん、どこかで見たことあるような……?有名人に似てるって言われません?」

「なんですか、そのナンパの常套句みたいな」

「いやいや、そういう意味じゃなくて!すみません、これにて失礼します」


 「誰かに似ているんだろうなぁ、誰だろう?」と首を傾げながら独り言ち、配達員はトラックに乗って帰っていった。残されたのは俺とオーロラと大量のダンボールのみ。これからこれを家の中に運び込まなければいけない。

 雨が降っているのであれば急がなければいけないかもしれないが、今日はすこぶる快晴だからゆっくりでも問題なさそうだ。小型の家電は玄関から運ぶことは出来るが、冷蔵庫などはぶつけそうで怖いから縁側から運び入れようか。


「手伝う!」

「オーロラは……持てんでしょ」

「持てる!」


 配達員がいなくなったことでようやくカバンから出ることが出来たオーロラがぷにぷにの力こぶを見せつけながら手伝いを買って出てくれている。だけど、いくらオーロラが妖精で見た目よりも力がある事は知っているが、流石に家電は持てないでしょう。

 そんな俺の言葉を挑戦と受け取ったのか、オーロラは己の力を見せつけんと冷蔵庫に……オイオイいきなりラスボス行くかね!?前提として掴めるの!?



「無理ダヨ!」

「せやろな。はい、ゲームソフト持ってって」

「クソウ……クソウ……」


 はい、オーロラさん惨敗でした。今日購入した中で一番軽い家電であろう小さめの空気清浄機にも負けていた。諦めて大量に買っておいたゲームソフトの入ったレジ袋を持って行ってもらった。他にもおまけでもらったティッシュとか洗剤とかもあるからそっちも運んでもろて……

 これをきっかけにオーロラ筋トレに目覚めたりしないだろうか少し不安。健康のための運動ならいざ知らず、ムキムキのオーロラは正直見たくない。どうかそのぷにぷにな二の腕を維持してて……


 それじゃぼちぼち俺も始めるとするか。うん、店でも試したが苦労するほどの重さではないな。サイズもあるから抱えなければならないが、楽々持ち上げれる。懸念点があるとするならば軽いがゆえに気軽に振り回して壁や柱にぶつけて傷つけてしまわないかだな。抱える形だと視界がよろしくないしな。しまったな、運ぶためのサポートをオーロラに頼めばよかったな。

 少し後悔しながら庭に入ったところで、ヤツとエンカウントした。植木鉢に埋まって日光浴を楽しんでいた親分マンドラゴラだ。


「ピギ?」

「お、親分ちょうどいいところに。家電運ぶんだけどぶつけないようにするのにちょっと手伝ってよ。駄賃はクライナー5本」

「ピギッ!」


 提示した報酬に、親分マンドラゴラは敬礼をすることで俺からの依頼を受けることを示した。オーロラまでとは言わずとも、親分マンドラゴラもちょこまか動き回れるから俺の見えない所はサポートしてくれるだろう。



「冷凍庫はここでいいかなっと」

「バッチリ!」

「ピギッ!」


 サポーターが2人に増えてた。正確に言うと1人と1株だけど。だがこれで今日買った家電のラストである冷凍庫を運び入れることが出来た。電源を入れるとすぐに冷え始めたので早速追跡ガツオの切り身やらをポイポイと入れていく。


「いやはやお疲れさん。親分もありがとうな」

「ピギッ!」

「分かってる分かってる、勝手に持って行きな」

「ピギーッ!」


 礼の言葉はいいから約束のブツを寄越しなと言われた気がしたので、許可を出しておくと親分マンドラゴラは歓喜の悲鳴を上げて酒置き場に向かってダッシュしていった。

 それにしても、我ながら今回はたくさん買っちゃったなぁ、主にキッチン周りの家電。配信をより良い物にするためのライトとか、パソコン周辺機器も色々買ったけどね。


「オーロラも手伝ってくれてありがとうな。今日は何が食べたい?オーロラのリクエストに応えちゃうぞ」

「ンー、今日はチーズが食べたい!」

「チーズか、いいねぇ。それじゃあ折角オーブンレンジも買ったことだし、グラタンでも作るか!」

「ワァイ!」


 そうと決まれば準備に取り掛かろう。ブロッコリーにじゃが芋にベーコン……む、そういやマカロニが無かったか。しかし、今日はもう外に買いに行くのは億劫だから……よし、スパゲティグラタンにしよう。

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