裏で語られていること
「ふぅん、『エルフになったことで有名な配信者の正体は超高度な幻術を使ったただのおっさんだった!』ねぇ……」
俺はソファに寝転びながらスマホに表示されたネット記事のタイトルを独り言ちる。こういう記事、実はちょくちょく掲載されては俺のTwitterアカウントにリプが飛んでくる。荒唐無稽な内容ではあるが、それなりにリツイートやインプレッションを稼いでいることから需要はあるのだろう。
ネタにされている身からすると勝手に飯のタネにすんじゃねぇとは思わなくはないが、こういう輩は下手に絡まずに通報しておけばいいんだろうな。
というか超高度な幻術って。いや、魔法の中ではモンスターを騙すために自身や味方の虚像を生み出すものがあるのは知っているが無理ない?あれ使い続けるだけで少なくない力を消費するんだが、俺の配信結構長いぞ?
「ジョージぃ、お菓子食べていい?」
「いいよー食いすぎんなよー……あ、ついでに俺にもなんかお菓子持ってきてくれるか?しょっぱめのやつ」
「ハーイ」
基本お菓子はキッチンにまとめられている。朝昼晩のご飯に影響がでない範囲なら勝手に食べていいと伝えてはいるが、オーロラは律儀にも俺に確認を取ってからお菓子を取っている。
さて、そんなオーロラがチョイスしてくれたのは、磯辺巻大容量パックだ。あっ、あー……嬉しいけどこれは……
「ゲンマイチャ淹れてるよー」
「アッありがとうございます」
うん、磯辺巻には玄米茶は必須なのだ。重い腰を上げて淹れようかと思ったのだが、まさかのオーロラ先回りをして既に急須にお湯を入れて玄米茶を蒸らしていた。うちに来た当初も色々と俺を助けてくれていたが、進化してからはさらに気が回るようになってきている気がする。
そんな訳で、椅子に座ってオーロラが淹れてくれた玄米茶を飲みながら磯辺巻をつまみながらジョージ偽物エルフ説の記事に目を通す。
「俺以降別の種族になった人がいないし、俺自身自分の配信以外のメディアに出ないから分からんでもないけどなぁ」
「ナンの話?」
「あー……オーロラ、俺ってエルフだよな?」
「エルフダヨ?」
そんな目しないで、俺だって変なこと聞いている自覚あるんだから。
ちなみに俺の目の前でチョコと磯辺巻を交互に食べているオーロラに関しては一切言及されていない。むしろ持ち上げられているくらいはある。何故かと思えば配信を見た冒険者と暮らしている妖精がオーロラを畏敬を込めた視線で見ていたことから、どこか不思議な妖精がここまで入れ込むなら余程な存在なのだと、そんな存在にケチをつけてはならないということらしい。俺にもケチつけないで欲しいが。
「これも有名税というやつなのか」
「セチガライね」
「せやね……」
「別の世界に行きたい?」
「別の世界ー?ハハッ、そんなとこ行ったらストゼロとかの酒も飲めないし日本の便利な調味料も使えなくなっちゃうから嫌だなー」
「ソッカー」
「もーオーロラったら変なこと聞くんだから」
後で思い返してみると、あの時のオーロラ、どこかガチトーンじゃなかった?気のせいか?
・
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段々と気温が上がってきた午前――俺は神妙な表情でゲンドウポーズをとり、それを不思議に思ったオーロラが目の前で正座して首を傾げている。
「……ヤバイ」
「ドシタノ?」
「薬味食べたい」
「ヤクミ?大葉とか?」
「そう」
「庭にいっぱいあるジャナイ」
「そうだけどそうじゃない。大葉だけじゃなくてミョウガとかにんにくとかネギとか――溢れる程食べたい」
「ジョージがおかしくなった」
「否定はできない」
酒飲みにはあるのだ。薬味と呼ばれる食材で酒を思う存分飲みたいと思う日が。その衝動が今このタイミングで俺を襲っているだけなのだ。こうなってしまったら俺は薬味を思う存分堪能しなきゃ収まらない。
俺は頭の中で欲求を解消するための理想的な料理を巡らせる。あらゆる料理を思いついては却下し、ついに辿り着いた。
「オーロラ」
「ハイ」
「相模浜ダンジョンに行くぞ」
「サガミハマ?海の?」
「カツオだ……カツオのたたきを作るぞ!そんでたたきが隠れるくらいに薬味マシマシだぁ!!」
「ジョージが薬味中毒者にナッチャッタ」
「人聞きが悪い事を言わないで?」
まぁ大葉は合法ハーブとも言われているからあながち間違いではないが。
俺の勢いに少々呆れ気味なオーロラだが、相模浜ダンジョンに行くごと自体は反対ではないようだ。では早速行こうじゃないか、相模浜ダンジョン!マッテローヨ、カツオ!叩きにいってやるからなぁ!
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