その場のノリでちょっとした因縁の相手に挑むエルフ
小一時間かけ、ようやく一帯のフルーツを狩ることが出来た。すぐに実が成るとはいえ、全部採るような真似はしない。他にも水分補給のために食べたがる可能性だってあるし、モンスターをおびき寄せるための餌に使う人もいる。
俺達も食べる用・果実酒用・納品用は十分確保できたしな。……帰ったらジャムの作り方も調べてみようか。しばらくはパンの朝食が増えそうだな。
さて、今の時刻は10時半。昼食には少し早いか。そこまで腹は減っていないし、何かしらモンスターを狩って腹を空かせようか。となれば標的だが――
「オーロラ、今日は何が食べたい?」
「カラアゲ!」
「おっいいねぇ。じゃあアオオオダイショウでも挑戦するか!」
「オー!」
そうと決まれば善は急げ。オーロラを肩に乗せて強く大地を蹴り上げ走り始める。エルフになる前からずっと潜っていた山ダンジョンだ。他の冒険者に気付かれず、どういう風に移動すれば効率がいいかなんて体が理解している。それでも男の頃はキツかったが、今は運動能力抜群のエルフだ。思うように体が動き、地を蹴り小川を飛び越え木に登り――向かう先は因縁のあの場所。戸中山ダンジョンのボスエリアだ。
まるで廃れた遺跡の様な空間で今回お目当ての蛇肉もといアオオオダイショウはとぐろを巻いて双眸を開いてこちらを注視していた。その姿は俺が戸中山ダンジョンに潜っているとバレる要因となったアカオオダイショウの色を青にしたままの姿だ。それ故に、俺の中では少しばかりの恐怖心が生まれていた。
一度上位種にあれだけビビらされたからなぁ。死の恐怖も感じたし客観的に見ても仕方のない事だろう。
「ダイジョウブ?」
「余裕だよ。オーロラは周囲を警戒しといて。冒険者接近的な意味で」
「ワカッタ!」
俺の指示を受けてオーロラが高く飛ぶ。その様子にアオオオダイショウは一瞬オーロラに視線が映るが、オーロラに攻撃の意思がないことを察したのだろう。すぐに視線を俺の方へ向ける。
軽く深呼吸をしてAカードから武器を――左手にヤドリギの矢を右手に抜き身の吽形を持つ。そうして歩を進めるとアオオオダイショウもとぐろを解き俺が何かしようものなら飛び掛かろうとしている。
「"頭を貫け"!」
願いを口にしてヤドリギの矢を投擲する。願いの通りヤドリギの矢はアオオオダイショウの頭部に――避けた。奴は無駄のない最低限の動きでヤドリギの矢を躱すとその大きな口を開けて俺を飲み込まんとしてくる。
「悪いな、俺はそういう癖は持ち合わせてねぇ」
避けられることは想定内だ。距離もあったし見えている状態から矢を投げたところで、簡単に避けられるだろう。そして避けたそのままの動きで俺に攻撃してくることも分かっていた。ともすればこちらも対処することは可能だ。少し体をずらして突進してくるアオオオダイショウを素通りさせ、奴の片方の眼と俺の視線が交差したところで吽形の柄を両手で強く握り、高く振り上げ力任せにアオオオダイショウの首を断ち切った。
「シャッ!?」
何が起こったのは理解できないのだろう、アオオオダイショウが変な鳴き声のようなものをあげる。しかし、奴の眼はまだ死んでいない。蛇の頭は体と離れても少しの時間動くとは聞くが、まだ俺を害せると思っているのだろうが、終わりだよ。
ヤドリギの矢が天より飛来し、アオオオダイショウの頭蓋を貫き、地面に突き刺さった。
「――」
脳を貫かれたのだろう、首を断たれても意識を保っていたアオオオダイショウの眼から光が消え失せた。
うん、ヤドリギの矢……予想通り仮に避けられても俺が願いを取り消すまでその願いを実行しようとするんだな。さっきも回避された時、俺の手に戻ることなく、頭蓋を狙うべく弧を描き天へと昇りそのまま落下して斬り飛ばした頭を貫いたのだ。執念とんでもねぇな……矢のする動きじゃないよ。
「ジョージ!」
「おー、終わったよ。冒険者は近くにいるか?」
「イナイヨ!」
「おっけ、じゃあここで解体しておくか」
うーん、やはり吽形はデカい肉を解体するのに便利だな。細ねぎを断ち切るが如き爽快感だ。使い方としては間違っているかもしれないが……まぁいいでしょ。バレなきゃ怒られないよ。
・
・
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「運動の後の昼飯は美味いなぁ」
「ウマイ!」
我ながら綺麗に解体を終えた俺達は何時もの様に隠しエリアで昼食を取っていた。今日はそこまで凝ったものではなく塩むすびとウィンナー数本とマンドラゴラの浅漬けだが、こういうのもたまにはいいだろう。
デザートにさっき採れたリンゴを一齧り。オーロラには切り分けるからね。……え?オーロラも丸ごとがいいの?俺の食べ方が美味しそう?えぇ……?はい、どうぞ。本当にそのまま噛みついてるよ。俺か?俺の影響なのか?矯正は――無理だな!させるのもなんだしな!別にお姫様って訳じゃないんだからな!
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