夏でも成ります

「ほぉー、これは……美味しいもんだな」

「オイシイ!」


 カレー配信の翌日、視聴者のコメントを参考にして作り上げたのは、春巻きの皮に残り物のカレーとチーズを巻いてフライパンで焼いたカレーチーズブリトーだ。うん、コンビニに置いてあるあれだが、自分で作った物だからか、心なしか美味しく感じる。オーロラからの評価もいいみたいだ。今でもチーズをうにょーんとさせながら食べて満足そうだ。


「しかし、春巻きの皮って色々使えるとは聞いたことあるけどこういうのまで作れるとはなぁ」

「他にもナニカ作れるの?」

「キッシュやらサラダにも使えるみたいだし、へぇスイーツも作れるのか」

「スイーツ!」


 試しにスマホで調べてみた春巻きの皮のアレンジレシピを挙げてみると、スイーツに予想以上に食いついてきた。スイーツに関しましては前向きに検討するということで……でも見た感じ作り方も簡単な様だしいいかもね。

 まぁ今はカレーチーズブリトーを楽しもう。朝食に牛乳を飲むのは久しぶりだが、たまにはいいものだ。



「今日はどうするの?」

「戸中山ダンジョン行くつもりだよ」

「大丈夫ナノ?」


 オーロラの懸念はもっともだが、戸中山ダンジョンに人が殺到する問題は解消されつつある――と武道さんから連絡があったのだ。なんでも、ダンジョンに潜りもせず、受付ロビーでたむろする冒険者に厳重注意ないし処分を下すようになったそうだ。現在、戸中山ダンジョンで試験的に実施されているらしいが、将来的に全国に広まるらしい。

 一般的なダンジョンならそれでも人は残りそうなものだが、生憎、山ダンジョンである戸中山ダンジョンは専門にしている人以外ではあまり旨味のあるダンジョンではない。そのため、早速効果が出ており俺を求めてロビーをうろついていた連中は今では見なくなったそうだ。


「――という訳で、大手を振って戸中山ダンジョンに行けるってことだ!まぁ変装は第一前提だけど」

「それはガンバレ!」

「アッハイ」


 くそう、普段通りの俺で行くにはまだまだ時間がかかるか。だが、それでも大きな一歩だ。

 朝食の片付けも終わって今日は簡単だが、昼食の準備も出来たし早速出発――ム、インターホンの音。こんな早い時間に来客か?


「あのお漬物何!?」


 全力疾走でもしたのだろう、肩で息をしながらやって来たのは翠ちゃんだった。あぁ、マンドラゴラの漬物食べたんだね?心なしか、昨日よりも血色がいい様に見えるし、俺がエルフでオーロラが妖精という訳ではなく食べた者にちゃんと効果は現れるんだね。


「なんでもなにも、ダンジョン由来の普通のお漬物だけど」

「普通のお漬物を食べたら一晩にして健康的になる訳ないじゃん!お婆ちゃんなんてお肌にハリが戻ったってウキウキしてるよ!?お爺ちゃんは視界がクリアになったって!」

「そ、そう。お気に召してよかった」

「おまけに美味しいし!?すぐに食べきっちゃったんだけど!?これタッパー!」

「即日返しに来なくてもいいのに……俺まだらっきょう食べきってないよ?」

「いや、そっちは大丈夫。でも、あれ相当なものだから他の人にあげる時は注意してね……?」


 そう言って俺を心配そうな目で見る翠ちゃん。タッパーを受け取って大丈夫だと軽く笑っておいた。――実は先に武道さんにあげているけどな!やっぱりマンドラゴラ由来の物をあげるとしてもとびきり近しい人に留めなきゃダメだな。こりゃ戦争を生みかねない。


「じゃあ、私はこれで。あっ、昨日の配信も面白かったよ!お婆ちゃんが作るカレーはキーマカレーだから今度機会があったらおすそ分けするね!」


 元気だなぁ、翠ちゃん。ってか花子さんのカレー、キーマカレーなのか。意外は意外だが、気になるな。是非食べてみたい。

 それじゃ、改めて戸中山ダンジョンに向かいますか。オーロラがそろそろ待ちきれなくなっていそうだしね。



 本当に目に見えて分かるほど人が少なくなっていた戸中山ダンジョンは、スッキリとしており、容易に受付を済ませてダンジョンに入ることが出来た。そして探索すること数時間――


「ジョージ!リンゴ見つけた!」

「リンゴ?……あぁ、ここら辺は果実エリアか」


 オーロラが抱える程のリンゴを持ってきたことで、漸く気付き視線をあげる。山ダンジョンの特色の一つとして、季節関係なく植物が採取できると言うものがあるが、無論これは果物にも適用される。基本秋~冬に成るはずのリンゴが丁度いい熟し具合で枝にぶら下がっている。

 面白いのが、そのリンゴの木の横になっているのが洋ナシ。その隣はバナナの木。意味わからん。このおかげで年中それなりに安定して果物が供給されているのだから悪い事ではないのかもしれないが……区画を揃えるとかないんですか、ダンジョンさん。


「ジョージ、果物いる?」

「そうだなぁ……あー……スイーツに使うのもいいか。好きにとりな」

「ホントウ!?」

「あぁ、いいとも。ただ、ちゃんと卸す分も採るんだぞ?」

「マカセテ!」


 サッと敬礼してオーロラは、リンゴの木に飛んでいった。俺はそうだな……みかんでも採るか。あぁそうだ。これらで果実酒作ってもいいかもな。夢が広がるわ。

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