忘れていた奴の処置

『譲二さん、剣出来たで!』

「おっマジか」


 朝、日課のトレーニングをしていると、武道さんからの電話から出ると以前預けておいたキバオもとい剣歯虎の牙で出来た剣が完成したらしい。それなりに期間は開いたが、相応に強力な武器が出来上がったらしい。受け取りに行きたい、受け取りに行きたいのだが――


「あいつら、いるぅ?」

『おるなぁ……』


 そう、戸中山ダンジョンに潜った時に出会った、俺を探しているというラバーとソニック。あいつら性懲りもなく張り込みをしているらしい。全くご苦労なことで。そういう訳で行くに行けない状況なんだなこれが。

 じゃあ、武道さんが直接俺の家に武器を持ってくればいいんじゃないのか?それもダメだ。バレなきゃ犯罪じゃないかもしれないが、バレてしまったら俺も武道さんも終わりだ。流石にそんな無茶な真似はさせられない。となれば韮間ダンジョンで受け取りが一番近いのだが……ダンジョンからダンジョンの移動の手続きにそれなりに日数が必要なのだが、我儘は言ってられない。


「じゃあ韮間でもらうわ」

『ほな、そのように手続しとくけど……あっちいくにしても注意せにゃアカンで?』

「分かってるさ。じゃあね」


 電話を切り、軽くため息をつく。全く息苦しいったらありゃしねぇ。こっちは平凡にダンジョンに潜って獲物狩って配信しながら酒を飲みたいってのに世間がそれを許しちゃくれない。が、今更他の生き方も出来そうにないから続けはするんだけど。


「縄跳びでもするか」


 ふと思い立ち、縄跳びを取り出し庭へと向かう。子供の時はちょくちょくやったものだが、大人になってからはやらなくけど、改めてやると結構いいトレーニングになったりする。靴を履き庭に出たところで、もはや見慣れた光景が目に入る。


「ピギーッ♪」

「精が出んなぁ、親分」

「ピギッ!」


 近づいてきた俺に気付き、水浴びならぬ酒浴びをしていた親分マンドラゴラがその手を止め敬礼をする。あの時はオーロラ進化おめでとうの会の店選びのために植木鉢に突っ込んだまますっかり忘れていたが、オーロラはしっかりと事情聴収してくれていた。

 曰く、成長そのものには俺の庭の土、水、日光で十分事足りているが、それだけじゃあ本当にいいマンドラゴラにはならない。そこで酒という嗜好品の出番らしい。親分マンドラゴラは一層いい品質のマンドラゴラを育て上げるために、俺の酒を拝借して自分や子分たちに振舞っていたんだと。


「許可とればよかったのでは……?」

「ピギッ」

「ダメだと言われると思ったんダッテ」


 結局飲んでいなかった酒だから言ってくれれば許可を出したんだけどな?実際、親分の言った通り、酒が振り撒かれて成長したマンドラゴラの味はさらに深くなった。味しか気になっていないから薬効に関しては知らないけれど。

 美味くなったのならば俺から言うことは無い。存分にパリピの飲む酒を飲んで美味くなればいいさ。


「縄跳びするけどいいな?畑からは離れた所でやるからさ」

「ピギッ!」


 家主だから許可とる必要はないとは思うのだが、一応ね。親分からも了承を得たことだし、早速やっていこう。子供の頃は二重跳びが連続10回が限界だったが、エルフとなり身体能力が向上した今、どこまでやれるのか、気になる所ではあった。



「えぇ……!?」


 俺は驚いている。そう、進行形で縄跳びをしながら驚いている。自分の限界に挑戦してみた所、なんと今俺は7重跳びを連続で跳んでいる。我ながら可笑しくて笑いが零れてしまう。限界超え過ぎでは?

 ちなみにこんな俺の姿を見たオーロラの感想だが――


「ワタシ、もっと出来るよ?」

「そら君常時飛んでるでしょ」


 跳びながらもそうツッコむ俺の頭の中は、既に次に食べたい食材のことを考えていた。

 ……海の幸食べたいなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る