(ダンジョンの中です)
「オイシイ!」
「ん、美味い」
オーロラは鮭の切り身を頬張り、俺はおにぎりを口にする。中身は梅だったのため、酸味で少し顔をしかめてしまったが、梅干しはこの酸味がいいんだ。それを飲み込み、さらにマンドラゴラ茶を味わいながら飲む。うん、普段は温かいお茶として飲んでいるが、水出しのマンドラゴラ茶も良い物だ。
軽く息をつき、空を見上げる。雲一つない青空だが、暑いわけではない。かと言って寒いわけでもなく丁度いいのだ。……入るまでの戸中山ダンジョンはそこそこ暑かったはずなのだが、この隠しエリアは意味わからないな。もしかして避暑地としても避寒地としても使えるのでは?
「食べ終わった!」
「え?マジ?早ない?まぁいいや。はいこれデザートね」
「デザート!?聞いてないよ!でもモラウ!」
いつの間にか俺よりも先に自分の分の弁当を平らげていたオーロラ。お手本と言ってもいいくらい綺麗に食いやがって……洗い物が楽じゃねぇか。
という訳で、食後のデザートとしてこっそり用意していたハート形のこんにゃくゼリーを進呈。予想だにしなかったゼリーの登場に目を丸くしたが、すぐに笑顔で受け取った。念のため、丸呑みしないよう注意しておいたが、オーロラなら大丈夫だろう。そんな気がする。
俺も弁当の最後のおかずであるピーマンの肉詰めを一口で頬張り、フィニッシュだ。ピーマンの苦みをひき肉がいい具合に打ち消して美味しい。俺は子供のころからピーマンの苦みは別に苦手では無かったけどね。
口に残った油をマンドラゴラ茶で洗い流して、Aカードから取り出したオーロラに渡したものと同じゼリーを一口で口の中に収める。んー、この食感。やっぱり外で食べる弁当のデザートと言えばこれだなぁ。
「ジョージ!遊んでくる!」
「いってらっしゃい。俺は昼寝してるよ」
オーロラが再び湖の方へ飛んでいったのを確認し、レジャーシートの上に寝っ転がる。
心地いい風に身を任せて瞼を閉じる。昼寝するとは言ったが、ちょっと考えたいことがあった。例の料理配信の件だ。ずーっと考えていたがいい料理が浮かばないんだよな。肉料理?魚料理?果ては麺料理?……カップラーメンにお湯を注いで3分待ってはい完成――は駄目だよね。流石にそれは分かる。ここでやったバーベキューみたいに……
「ん?」
バーベキュー?目の前で作る?……あぁそうだ!ホットプレート持ってたわ俺!そしてホットプレートがあれば、あれを作ることが出来る。焼くだけの焼肉じゃなくて割と工程のあるあの料理ならば視聴者も納得してくれるだろう。強いて言うなら――専用の粉買ってなかったからAmazonで注文しておかなきゃ。代用できるものはあるけど、やっぱりあの粉がいい。
懸念が無くなったことで、安心と満腹感から程よい睡魔が襲ってきた。この睡魔にはヤドリギの矢を投げることも出来ず……やろうと思えばやれそうなのが怖いな、あの矢。やる気ないから睡魔に任せて俺の意識は夢の世界へと旅立った。
・
・
・
「ぶゆ」
「あ、ジョージ起きた」
はい、起こされました。ジョージです。変な声が出てしまったのはオーロラに両側から頬を押されて強制的におちょぼ口にされたからだ。やめなさいやめなさい。もう少しやさしめな起こし方をしてください。
眠い目こすって時間を確認したら結構いいお時間。立ち上がり大きく伸びをする。
「くぁあ……オーロラ、もういいのか?」
「マンゾク!」
「さよか」
ふと気づけば進化してステンドグラスのようになっていたオーロラの羽がいつもよりもキラキラと光彩を放っている。なにこれ、ここで遊んでいたことに起因しているの?……日常生活に支障をきたさないならいいか。……いや、目立つよな?
「オーロラ、その羽だが光量落とせるか?」
「あ、ゴメン!落とすね!」
頼んだら本当にいつも通りの羽ぐらいまで光が落ち着いた。そうか、調整できるのか……。まぁ出来るのなら何よりだ。ちゃちゃっと片づけをして帰ろうかね。オーロラ、今度こそ手伝ってもらうからな?よしよし、いい子だ。人に任せてばかりはいかんよなぁ?
・
・
・
「近くに誰もいない?」
「イナイヨ」
「よし」
しっかりと確認を取って隠しエリアから退出する。そしてすぐに移動して木々の間に姿を隠す。油断して誰かに見られても良くないからね。
おーっと、椎茸だ。……ヤバい、茶碗蒸し食べたくなってきた。となると銀杏も必要になってくるよな。流石に戸中山ダンジョンに銀杏の木は無いからどこかのスーパーにないか探さないと。
思わぬ収穫にテンションが上がりながらも、警戒は一切解かず、友風さんの待つ受付へ足を踏み入れ――
「Hey girl. Don't you know Elf?」
「――アイドントスピークイングリッシュ」
なんか黒光りする筋肉が待ち構えていたんですけど。
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