お久しぶりです。
「料理、料理ねぇ……」
興味を示すだけにとどめておいて何時にやるとか明言しなくてよかったと思うジョージです。あの場で一番チャンネルにあっていると思った企画だが、それでも微妙に難易度高いんだよね。身バレ防止のためにそれなりに準備もしなきゃいけないし。
それにメニューだ。出来ることなら食べるところまでちゃんと配信したいし、下手に時間のかかる料理だとその分配信に拘束されてしまうことになる。考えることは山積みだ。……改めて明言しなくてよかった。
さて、俺が今何をしているかと言うとお弁当作りだ。韮間ダンジョン用ではなく、戸中山ダンジョンで食べる用の物だ。配信後の勢いで武道さんにそろそろ戸中山ダンジョンに入ってもいいか聞いてみた所、最近は早朝なら人も大分まばらになってきたから大丈夫だろうとのことだったので早速行かせてもらうことにした。勿論、ある程度の変装はしなくてはいけないけどね。それでも久しぶりの山菜採取は楽しみなので欠伸を噛み殺しながら気合の入れた弁当を作る。だが、こんな俺よりもダンジョン行きを楽しみにしている存在がいた。
「ダンジョン♪ダンジョン♪」
こんな調子でオーロラ大盛り上がりである。まぁオーロラからしたら久しぶりの里帰りみたいなものだからテンションもひとしおなのだろう。小躍りすらしている。うんうん、オーロラが嬉しそうで何よりだが――
「オーロラ?頼んでおいた準備は出来ているのかなぁ?」
「……コレカラ!」
忘れてたなぁ?それくらい楽しみだったということだろう。早起きしたおかげで時間的にもまだ余裕はあるからやってくれれば問題はない。ちなみにオーロラに頼んだ準備というのはダンジョンで飲む用の飲み物の準備だ。ダンジョン探索中に飲む経口補水液と昼食で飲む用の水出しのマンドラゴラ茶だ。
戸中山ダンジョンはその名の通り、山のダンジョン。ダンジョン化をしていない山同様に湧き水は存在するし、美味しい水ではあるんだが……それ故、水分補給に来る人が集まりやすい。湧き水の近くを拠点にする人もいるくらいだ。緊急時であれば寄るかもしれないがそれ以外なら近づくべきではないだろうということで飲み物は自前で用意だ。
――よし!中々上手に出来たんではないだろうか。俺一人であれば、肉肉肉で茶色な弁当箱が出来ていただろうが、オーロラと一緒な今、結構見た目にこだわっている。トマトや鮭などの赤。ブロッコリーやピーマンといった緑。おにぎりに巻いた海苔の黒。おにぎりとポテトサラダの白。そしてとうもろこしの黄色だ。……いや、ベストは卵焼きだとは思うよ?でも昨日のは食べつくしたし、今日は作るのはちょっと……
「それじゃあオーロラ行くか!」
「オー!」
・
・
・
朝5時、戸中山ダンジョン。その受付は、前来た時に比べたら人がいるように見受けられるが、それでもまばらな感じだ。その中の数人がちらりとこちらを見るが、すぐに視線を逸らす。よしよしバレてないな。
よし、それじゃあ受付に……
「……!……!!」
うわ、すっごい友風さんが無言で手を振って自己主張してる。動き自体は小さいため、俺以外に気付いている人はいないが、顔がうるさい。こちらに来いと目で訴えている。いや、こちらもどちらもアンタのとこ以外受付開いていないでしょうが。
分かった分かった、行くから。
「あー、お久しぶり」
「そうですね、ジョ……木原さん」
「あれ?そっちで呼んでたっけ」
確かジョージで呼んでいた気が……?
「いや、どこでだれが聞き耳立ててるか分かったもんじゃありませんからね。ちなみに木原さんはお久しぶりと言いましたが、私としましてはそんな感じはしないんですよね。昨日の配信も見てましたから」
「あ、どうも」
「いえいえ、楽しませてもらってます。それにオーロラちゃんも進化おめでとうございます」
「アリガト」
当然だが、オーロラは俺の帽子の中に隠れてもらっているのだが、友風さんに祝われると帽子をちょっとだけ上げてお礼を言った。そんなオーロラの控えめな御礼がツボに入ったのか、目に涙を溜め、声を――
「……!……!!」
おぉ、理性が勝った。咄嗟に両の手が伸び口を押さえ、大声が出てしまうのを防いだ。危ない危ない。奇声を上げる様ならダッシュでダンジョンに潜っていたことだろう。注目を浴びることになるので、出来ればやりたくはなかったから良かった。
「失礼しました。ちなみに今日の目的は?」
「久しぶりに野草採取しようかなと」
「あー、助かります。人が増えたのまでは良かったんですけど、野草……というか薬草採取を軽視する人が多いこと多いこと。その点、木原さんは一定以上の数を納品して頂いてますから」
自分で食べる用の余った奴を納品していただけなんだけど、これは言わぬが花だろう。それぐらいの分別はある。
「今、どれぐらい潜ってる?」
「そ、う、で、す、ねぇ……4組くらいですね。そうそう遭遇することは無いかと」
「了解。それじゃ行ってくるよ」
「はい、心配はいらないかと思いますが、どうぞお気を付けて」
こうして友風さんに見送られて久しぶりの戸中山ダンジョンに足を踏み入れた。さぁ、野草ちゃんたち、待っててね……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます