食事に紛れる割と重要な話?
「あ、空いたお皿お下げいたしますぅ……あの、フードファイターの方でしょうか……?」
「いえ、その様なことはございませんので悪しからず」
暗に「探るな」と告げる萩原さん。追加の料理を持ってきて、そのついでにお皿を回収しに来た女性店員さんは、くるみ割り人形のように顔をカクカクさせ、そそくさと皿を持って退散していった。ごめん、なんかごめん。
さて、そういう訳で再度机の上に所狭しと並べられた料理たち。これを見れば誰しも俺と萩原さんが食べつくしていると思うだろう。大方正解だが、1人見えていない。姿を見せてないから仕方ないんだけども。あぁ、地震でもないのに壺が揺れてる!
「お代わりー!!」
はい、壺から出てきたこの妖精オーロラこそ料理の半分を食べつくした豪傑なのだ。しかもこの豪傑、まだまだ余裕があるというのだから恐ろしい。俺もまだ食えるけどね?……そして実のところ、萩原さんも別に食べていないわけじゃあない。むしろ、一般成人女性よりも食べているのではないかと思える量だ。その萩原さん曰く
「あんな職場だとどうしてもお腹空いて食べちゃうんですよね。肉体作り的な意味でも量は食わなきゃいけませんし」
「奢りですんで、どんどん食べてください」
「恐縮です」
今回の支払いに関してだが、既に車内で話はついている。そもそも俺がオーロラに祝うために居酒屋に行くのに萩原さんに協力してもらうんだから支払いは全部俺が持つって言っているのに、萩原さんが「剣歯虎のお礼もありますし私が払います」と言い出した。いや、その御礼は同伴してもらうことで相殺でしょってことでそれは断固拒否。そうなると「ではせめて私の分は私が」と言い出してそれも拒否。堂々巡りの果てに、オーロラが「ウルサイ!」って言いだして萩原さんが折れた。
「それにしても……よく入りますよね」
「今更ですよ。と言いたいところですけど、オーロラ明らかに食べる量増えてるんですよね」
「木原さんも余裕ですよね?」
「体感腹七分目あたりですかね?」
ポンポンと一切膨らんでいない腹を叩きながら調子を確かめていると、萩原さんから「はしたないですよ」と注意されてしまった。いや、見た目エルフでも中身おっさんなんで許してつかぁさい。ちなみに大量に食って七分目だからと言って普段の食事で満足していないわけじゃない。あれはあれで俺もオーロラも腹は膨れている。
「モイッチョかんぱーい!」
「あ、かんぱーい」
「かんぱーい」
オーロラ元気だな。憧れの居酒屋でさらにブーストがかかっている感じだ。これはまだまだ皿の山が生み出されるぞ。行くぞ厨房よ、食材の貯蔵は十分か!――あ、この塩辛じゃがバター美味いな。ちょろっと醤油かけてもこれまた美味い。
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さて、宴もたけなわですが、そろそろお終いな時間が差し迫ってまいりました。正確に言うとラストオーダーのお時間。最後の注文にはメニューに入っているスイーツ系を全て注文する羽目になったが、あの時の店員さんの変なものを見る目を俺は翌日まで忘れることは無いだろうなと思った。
「スゴイ!ハニートースト美味しい!」
何気に衝撃的だったのが、オーロラがデザートメニューに一番食いついていたことだ。思い返してみれば、俺がオーロラにあげる甘い物って基本チョコとかクッキーなどの洋干菓子、保存のきく和菓子やスナック菓子しか上げてなかった気が。ほっぺたにチョコソースを付けてムシャコラ食べる姿はまさに妖精と言える。そうだわ!妖精って酒飲むよりお菓子食ってた方が様になるんだわ!……今後は洋菓子作ってあげるべきか?でも地味にハードル高いんだよなぁ。
そういう俺もティラミスパフェ食ってるんだけど。ふぅ、温かいお茶に合うぜ。お茶を飲んでほぅと溜息を吐いたところで、俺の正面でチョコクレープを口にしていた萩原さんがまじめな顔をして話始めた。
「木原さん、念のために確認しますが、オーロラさんが進化するきっかけとなったマジカルマッシュルーム……あれ、剣歯虎がいた洞窟にあったんですよね?」
「あ゛ー、すいません。オーロラに食べさせてやるって約束していたもので……報告したら回収されるものと思って」
「いえ、それ自体は構いません。が、やはりマジカルマッシュルームが生えていたんですね……」
キリっとしながらも食べ進めるの面白いな。甘いもの好きなのだろうか。それにしても、萩原さんの言い様、マジカルマッシュルームが生えていたのを確信していたような感じだな。
「木原さん。これは私の推測となるのですが、あの洞窟はあのまま放置されていた場合ダンジョンとなっていた可能性が高いです」
……マジか。
こうして、衝撃的な内容を知ったところでオーロラの進化おめでとうの会は終了した。今回かかった料金?フフ、2桁万円は余裕であったな。支払いはもちろん、こっそり幸福の蛇革財布でタッチ決済だ!
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