自分が作らなくても出る料理最高!
次々に運び込まれる注文した料理。出発前のイメージトレーニングが功を奏したのかオーロラの注文速度は目を見張るものだった。普段から俺のスマホを使ってゲームしているんだタッチパネルでの操作なんてお茶の子さいさいだ。
その甲斐もあって、机の上には所狭しと料理が並んでいる。焼き鳥や枝豆や刺身盛り。フライドポテトに鉄鍋餃子。ポテトサラダもあればいかの塩辛やマグロアボカドなんてものもある。1人で飲んでいた時はこんなに注文したことないから壮観だな。
「スゴイジョージ!料理しなくても料理出てきた!」
「そりゃ飯屋だからなぁ」
料理が運び込まれる度、一々壺の中に隠れてようやく出揃って出てこれたどこかズレた感想のオーロラだが、俺以外が料理したものを食べるのは初めてだもんな。
そんな嬉しそうなオーロラとは対照的に、萩原さんは滅茶苦茶困惑している。
「あの……配信でも沢山召し上がられているのを見てますけど、大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ。オーロラはそもそも食べますし、俺もエルフになってから胃が拡張されましたし。多分追加注文もやれますね」
「普通、女性になったら胃が小さくなるのでは……?木原さん、男性の時より小さくなったんですよね?」
「そうなんですよね、不思議なことに」
その時、不思議なことが起こった――俺はそれ以外に説明する術を持たない。俺のことを診断した粒源先生でさえ首を傾げていた。医者でさえ分からんのに俺が分かる訳ないよね!
まぁそんな事よりも料理だ。湯気立つ料理は湯気が立つうちに食べるのが一番と言うものだ。オーロラは既に焼き鳥を頬張り始めている。彼女の勢いに負けないように俺も食べ始めようか。
熱い料理食べなきゃって思った矢先になんだけども、俺が手に取った最初の料理はポテトサラダだ。きゅうりだの人参だの入っているポテトサラダだったらさして興味がわかなかったかもしれないが、この店のポテサラはジャガイモとベーコンと温玉だけのシンプルなものだ。スプーンでたっぷりすくい口に運ぶ。
「うンめぇ……!」
ごろごろしたジャガイモの食感に口内に広がるマヨネーズの味とベーコンの風味。温玉から流れた黄身が味をマイルドにさせる。これはビールによく合う……ッ!大ジョッキの取っ手を掴み、ポテトサラダの後味をビールによって洗い流す。あぁ、快感……ッ!
ジョッキから口を離したところで満足げなため息が漏れる。そこで俺は向かい側に座っている萩原さんが口を押さえて笑っていることに気付いた。
「萩原さん?どうしました?」
「フフ、いえ……木原さんが酒を飲んでいる様子を見ていたら父を思い出して」
「お父さんを?」
「えぇ、母の作る料理をいつも神妙な顔で手を付けたと思ったら、口に入れた瞬間顔をだらしなくさせるんですよ。それにビール髭作るのもそっくりです」
「え゛」
慌てて顔を拭うと、確かに唇の上あたりに湿ったものが。あらやだ人前で恥ずかしい。
余談ではあるが、萩原さんのご両親は普通にご存命だそうだ。現役時代は萩原さんと同じく専門部隊で働いていたそうだ。その時の異名が「虎の萩原」らしい。花月さんの方は異名があるのかと聞いてみたら露骨に話をそらされた。……異名あるな?
「ジョージ!コレ美味しい!」
「おー、炭火焼か。どれ俺も一つ……うん、美味い!」
オーロラが持ってきた皿に盛られていたのは黒々と輝く炭火焼。流石に家で炭火焼は出来……いや、出来るな。確か物置に七輪が……手間はかかるからあまりやりたくはないが。
うーむ、家ではひと手間ふた手間かかる料理が注文すれば出てくる。店飲みの長所だな。所によっては家で作るより安く済む料理もあったりするし。
俺に炭火焼を布教して満足したのか、オーロラは次の料理に目を付けた。ほう、あさりの酒蒸しですか。お目が高いですね。
人間であれば一つまみで持ち上げることのできるアサリの身だが、オーロラからしたらそれなりに大きい。彼女はしっかりと蒸された身を一口で口の中に収めるともぐもぐと咀嚼をする。そういう時オーロラのサイズが少し羨ましく思う。
「うーん、ウマイ!」
「オーロラ、アサリの酒蒸しはな?身も美味いがスープも美味いんだ」
「スープも!?」
驚愕するオーロラは疑わし気にアサリの殻を器用にスプーンの様に使ってスープを掬って口に運び――
「うま」
目をトロンとさせ、短い言葉で感動を表現した。うんうん、分かるぞ分かるぞ。美味いよな。
「……お2人ともリアクションそっくりですね」
「ちょっとそれは思ってる。それでどうだ?オーロラ。満喫してるか?」
「ウン!とっても美味しい!でも、ワタシはジョージの料理の方が好き!」
「そうか。そうかぁ……」
やべっ、ちょっと涙ぐんじゃった。歳をとると涙もろくなっちゃっていけねぇ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます