ドキドキな待ち合わせ?
「スゴイ!ジョージかわいい!」
「ありがとう……?」
萩原さんに同行を依頼した翌日の夕方頃。レディースファッションを身に纏った俺はオーロラに囃し立てられた。あの娘、俺が何を着たって褒めてくるんだもん。自分に正直なオーロラじゃなければおべっかを使ってるんじゃないかと思うほどだ。
俺が今回着たのは……ええっと確か藤田店長さんが言うにはブルーストライプ柄シャツ×白カットソー×オレンジパンツ――だっけか?そんな組み合わせだ。流石に初めての女性服での外出にスカートはハードルが高かったのでそちらは遠い未来に。このブルーストライプ柄シャツ、羽織るものかと思ったら首に巻くもんなんだってね。おじさんビックリだよ。おおっと、帽子も忘れちゃいないよ。
当然、オーロラも今日は盛大におめかしをしている。彼女専用のクローゼットから、成長した今でも着れる服を引っ張り出しては着比べて見比べて……朝食食べてから昼食食べるまでずっと悩んでいた。妖精とはいえ、女性の服選びとはここまで時間がかかるものなのだな――と実感しました。
数多くある服の中で、この度選び抜かれたのは、ブラウンチェック柄ブラウス×デニムパンツだ。
「あれ?折角の記念日なんだからドレスとか着るのかと思ったけど」
「ジョージ、なに言ってるの?居酒屋にドレスなんて場違いダヨ?」
「アハイ。ごもっともで」
俺?俺はちゃっちゃと決めたかったんだけど、オーロラがそれを許してくれなかったので昼食以降は俺のターンでした。半ば観客オーロラだけのファッションショーでした。家事以外疲れることしてないつもりだったんだけどな……僕もう疲れたよパトラッシュ。
「ジョージ!行こう!ハギワラ待ってる!」
「まだ約束の時間まで1時間あるからな?ゆっくりしようぜ?」
「分かった!待つ!」
このやり取りも既に10回目だ。楽しみなのは分かるが、落ち着いてくれない?ほら、マンドラゴラ茶あるから飲みな?日本茶は酒を飲む前に飲むといいらしいぞ?マンドラゴラにカテキン成分あるのかは知らんけど。
それでも待ちきれないオーロラに、俺はスマートフォンで先んじて入手していた今日行く予定の居酒屋のメニュー画像を表示してオーロラに渡す。するとどうだろうか、あんなに騒がしく急かしていたオーロラが更に騒がしくメニューに釘付けになってしまった!
そんな光景を微笑ましく眺めていた俺だが、そこである事に気付いた。服決まったんなら出掛ける直前まで脱いでいつもの服を着とけばよかったのでは……?気付いたときには時すでに遅し。残りの服は既に片付けてしまったのだ。ちくせう。
・
・
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「ほいじゃ、行くぞー」
「イクゾー!」
「待ってオーロラ、そういう語録に汚染されないで!?」
そんなこんなでしっかり玄関に鍵をかけたのを確認して出発。道に出れば萩原さんが待っている――訳ではない。これは萩原さん本人からの提案なのだが、集合場所は俺の家から少し離れた所にある妙に広い公園前で待ち合わせすることになっているのだ。
別に家に来ても構わないと伝えたのだが、「万が一の可能性があるので」と固辞されてしまった。それを言うなら武道さん割と来ているんだけどなぁ……それを伝えたら武道さんが萩原さんに苦言を戴く可能性があったからお口にチャックし、大人しくそれに従った。
只今、その公園に向かう途中なのだが、オーロラは隠れることをせずに普通に俺の横を飛んでいる。人の多いところであれば隠れさせるのだが、清々しい程に俺たち以外の人が誰もいないのだ。隠れて配信する立場上、有難くはあるのだが寂しさを覚えるのは仕方のないことだろう。
そんな田舎でもオーロラは物珍しいのかキャッキャと都会に出てきた地方の若者ばりに辺りを見渡してる。
「ジョージ!アレなに!?」
「ありゃ案山子だ」
「ヘンナノ!」
とまぁ、こんな感じだ。俺からしたらオーロラも相当変だが。
そうして歩くこと十数分……何年振りかに通り過ぎた公園が見えてきたかと思ったら、異質なものが見えた。田んぼひしめく田舎にはどうしても似つかわしくない、ホ〇ダの黒のNSX――だよね?格好いいんだけど何あれ?
「ジョージ!ジョージの車よりずっとカッコイイ!」
「う、うるさいやい!俺だってわかってるわ!ってかオーロラ隠れろ!」
「ハーイ」
人の目に触れる可能性が出てきたので、オーロラを帽子の中に隠す。
しかしなんだって萩原さんと待ち合わせの公園にあんな車が停まってるんだろうか。タイミング悪いなぁ……そう思いながらチラッと横目で運転席を確認。うん、男の人が乗ってるね。困ったなぁ、萩原さんに一旦連絡して集合場所変えてもらおうかな。
何が起こってもいいように、車を意識の片隅に置きながらブランコに腰を下ろしてスマホからLineを入力する。
『萩原さん公園に着きました』
……あれ?既読がつかない。どうしたんだろ。もう一回送ってみよう。
『萩原さん?今大丈夫ですか?』
『すみません、寝てました。私も公園着いてますのでお迎えに行きます』
『あれ?そうなんですか?俺、ブランコに乗ってます』
『分かりました、向かいます』
なぁんだ、萩原さん来てたんだ。それなら場所移す必要ないよ……あれ?黒NSXの運転席から人が降りてきた。あらやだ、パリッとした服を着こなしたメガネイケメンさんだ。いいなぁ、男の時の俺もあれだけスマートだったら人生変わっていたのだろうか。今人生180度変わっとりますけど、ガハハ。
……ん?イケメン、こっちに近づいてない?小走りしてきてない?え?何?明らかに俺見てるよね?ナンパか?誘拐か?なんて慌てていると頭の方でゴソッと――オーロラが出てきた!?
「オーロラ!?ちょ、まっ」
「ハギワラだ!」
……え?
オーロラは帽子から飛び出ると一目散にこちらに向かっていたメガネイケメンの元へと飛んでいった。聞き間違いでなければ彼女はこういった。ハギワラと。
「え?萩原さんなの?」
「はい、そうです。木原さん、可愛らしいお召し物ですね」
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