まさかの救いの手

「ジョージ、ダイジョブ?」

「大丈夫大丈夫!オーロラは楽しみにしておいてくれよな。あと、親分マンドラゴラに事情聴取しといてくれ」

「ウン!」


 どうも、ジョージです。俺は今必死にパソコンを操作して、オーロラの要望に応えるべく、奮闘しております!まさかお店リクエストとは思わないじゃん!?詳しく聞いてみると、たまには俺が作る以外の料理を食べてみたいんだとか。幸い俺の料理に飽きたとかではないらしい。

 滅多にわがままを言わない……?オーロラの要望だし叶えてあげたい気持ちはある。が、俺もオーロラも下手に衆目に晒されれば大騒ぎになることは必至だろう。なので、お店選びが重要となる。


 居酒屋に行くのは今日か明日。早く望みをかなえてあげたいからね。

 まず第一に付近の居酒屋は駄目だ。居酒屋が無いわけではないが、しっかりした個室があるわけでもないから他の客の目に留まりやすい。ダンジョンがある事で探索上がりの冒険者が寄ることも多いから客がいる時は本当にいるからなぁ。


 とすれば離れた所にある大きな街に絞られる。その街であれば調べた限り、ちゃんとした個室が存在する居酒屋はあった。漏れなくお値段が男の時の感覚だと可愛らしくないが、今であれば十分払うことのできる額だ。


 店は決まっていないが、とりま次の問題。どうやって行こうかね。運転は出来るが俺だって飲みたい。勿論、飲酒運転をするつもりはないが、そうなると運転代行サービスを利用しなければならない。そしてその運転代行者が俺の家の情報を喋らないとも限らない。じゃあ宿泊?それもなぁ……よし!困ったときは武道さんに相談だよね。毎度頼って申し訳ないが、俺の人脈で一番頼れるの武道さんくらいなんだよな。巣守さん夫婦は下手に巻き込みたくないし。

 昨日、剣歯虎を武道さんの車に運んだ時、今日は休みだと言質をとってるからね。昼である今なら、家でゴロゴロしているだろうし大丈夫だろう。さー、電話電話。


「もしもし、武道さん?」

『おー、譲二さん。リアタイで見とらんけどオーロラちゃん進化したんやな。おめでとさん』

「いやぁ、どうもどうも。それで相談があるんだけど――」


 かくかくしかじか


『居酒屋かぁ……思い切ったなぁ。まま、いつも家で食事ってのもなんやし悪くないんちゃう?しかし困ったなぁ。今日明日やろ?俺、この後嫁さんと映画見に行く予定やねん。しかも明日は残業確定の仕事やからなぁ』

「あー、ごめん。そうとは知らず」

『構わん構わん。けど2人で行かすのもそれはそれで心配やからなぁ……そうや!』


 突然、電話口から武道さんの声が俺の鼓膜を貫いてきたので、慌てて耳を離す。ビックリはしたが、何か思いついてくれたみたいだ。


「どうした、武道さん。何か名案が?」

『ええ適任者がおったで!萩原さんや!』

「萩原さん?昨日のあの女の人?」

『せやねん。譲二さんが帰った後な、戸中山ダンジョンでバッタリ会ってな、「今回、木原さんには大変助けられました。お礼がしたいので、私が出来る範囲であればお力になりたいのでこちらの番号を渡していただませんか」ってLineID書かれた紙渡されてん。うってつけちゃう?』


 助けられたって言われてもなぁ。俺は偶然剣歯虎と遭遇して斃しただけだから、あまり気負わなくてもいいんだけれど。けれどこのタイミングは渡りに船だ。相手が力になってくれるというのであればそれに乗らせてもらわなければ失礼と言うもの。


 武道さんに礼を言って電話を切り、送られてきた萩原さんのLineIDが記入された紙をもとに入力。「萩原花月」と名前が表示されたので迷わず友達登録ボタンを押し、追加した旨を武道さんに報告。「ほな、メモ処分しとくわ」と返ってきたので一安心。


 ……あれ?でも待てよ?Lineって互いに登録してないと電話は疎か、メッセージも無理だったのでは!?あ、やべやらかした。友達登録したのが、いつかも忘れたからそっちも忘れてた。どうしようかと悩んでいると、Lineから「萩原花月さんがあなたを友達に追加しました」との通知がきた。早ない?あ、メッセージも来た。


『木原さん、友達追加していただき、ありがとうございます』

『どうも萩原さん。和藤武道さんから話を聞きまして。お力になってくれるということで』

『はい。剣歯虎を斃していただいた御恩がありますので、私が出来ることがあればなんでも』


 ん?今なんでも……なんて返すほど親しいわけじゃないしそれは止めておこう。でも、このままスマホでちまちま打ってると時間かかりそうだし電話にするか。


『電話の方が話が早いと思うので、かけちゃっていいですか?』

『大丈夫でしゅ』

『大丈夫です』

『すいません、打ち間違えました』


 そんなに焦らなくても……まぁそこには触れずに電話かけよう。


「もしもし、萩原さん。木原でーす」

『ン゛ン……ッ!も、もしもし。萩原です』


 気になる応答だけれど、話を続けさせてもらおう。かくかくしかじか。


『なるほど、オーロラさんのお祝いですか。えぇ、明日もお休みをいただいておりますので、私が車を運転してご一緒することは可能ですが……』

「ですが?」

『その、失礼ですが木原さん。服装はどうされるのですか?』


 無論、考えていないわけじゃない。……クローゼットの中にしまってあったアレを出すことにしている。数週間前に装備モールで買った、女性向けの服を……!だって下手にメンズファッションしたらバレかねないじゃん!最低でも車停めて店入るまでは人に見られるわけだから!


「レ、レディースを着るつもりです……」

『そうですか。それですと……』


 俺の回答に、萩原さん何か考える様な事をつぶやいた。ドン引いてるわけじゃないよね?信じていいんだよね?そんな俺の想いを知ってか知らずか、何事もなかったかのように萩原さんが次のように提案してきた。


『じゃあ私、明日男装しますね?』

「はい?」


 ここで聞き返した俺を責める者がいるだろうか、いやいない。

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