進化したからには祝わないとね!
オーロラが進化をした翌日Twitterを確認すると、「妖精女王オーロラ」「フェアリークイーン」「進化」「ジョージの酒飲み配信」など明らかに俺達の配信に関係あるワードがトレンドのトップを飾っていた。オーロラの名前がトップなのは……まぁインパクト強かったもんなぁ。
卵から飛び出たオーロラが、俺に対してしっかりと言葉を口にした。「ハァイ、ジョージ」と。――なんて言ったとしても、普段から俺はオーロラが「――!」だの「――♪」の時も言っていることは理解していたため驚きはさほど無かったのだが、視聴者はそうはいかなかったようだ。
『キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!』のコメントの多いこと多いこと。もう何事かと思ったね。ある意味お約束ではあるのだけれど。滝のように同じようなコメントが流れるから、別のコメントが目立つ。そんな訳で、昨日の視聴者数は歴代の中でも上位に迫るほどだった。
さて、見事進化を果たしました例の妖精女王オーロラ様でございますが――
「ジョージ!お茶入った!」
「おー、ありがと」
マンドラゴラ茶を淹れております。進化したところでオーロラはオーロラだったようで、気品に満ち溢れた動作をするわけでも無く、いつも通りのオーロラが、ちょっと背が高くなって羽が綺麗になったくらいだ。女王とは?……まぁ、突然プリンセスオーラ出されても困るから俺的には有難いんだけども。
よし、今日の朝ご飯のおかずである明太子だし巻き卵の完成だ。最初から明太子と溶いた卵を混ぜてから焼くだし巻き卵もあるが、今回は趣向を凝らして大きな明太子を巻いたタイプの奴だ。手間こそかかるが、こっちの方が明太子を食べてる感じがして好きなんだよね。切り分ける時に少し緊張するのは辛いところではあるが。
それに加えてインスタントのしじみの味噌汁を作って、横にマンドラゴラの沢庵を添えて今日の朝食完成だ。いつも通り向かい合って席に着き、両手を合わせて
「はい、いただきます」
「イタダキマス!」
一番最初に味噌汁に口を付け、味噌とシジミの味を頼んだ後、出汁巻き卵に手を伸ばす。うん、美味く出来たし上手に切ることも出来た。明太子のピリ辛さと出汁巻き卵の出汁の風味でご飯が進む。しかし、作っておいてなんだけれどもこれは……
「ジョージ!これでお酒飲みたい!」
「そうだなぁ、今度配信の時に作るかぁ」
白状すると、作ってる最中から酒が欲しいなぁと思いながら作ってました。だってさぁほらご飯に合うもの=酒に合うものとはよく言うじゃない。どうしても連想しちゃうものなんだよ!うん、オーロラも望んでいることだし近いうちに配信の時にも作ろう。ただ、明太子だけというのももったいないな。
「そうだ、オーロラ。折角だから他のも巻いてみるか?チーズとか大葉」
「チーズ!?大葉!?」
「おうとも。鰻とか入れても美味いぞ」
「ワタシ、紅ショウガ入れたの食べてみたい!」
「紅ショウガ!?い、いや紅ショウガね。オッケオッケ」
予想外のチョイスについ聞き返してしまった。Twitterで騒いでいる皆、見ているか?これが進化したオーロラ様だよ。女王様が紅しょうがのだし巻き卵をご所望とのことだ。普通に美味しそうだから俺もノリノリだけども。その流れでオーロラからマンドラゴラの葉っぱか漬物を入れるのはどうかと提案があったがこれはバレるかもしれないから却下。そっちはカメラ入ってない所で作るから堪忍して。
朝食を食べ終わって、マンドラゴラ茶で一服入れた頃、俺は朝起きてからずっと考えていたことをオーロラに伝えた。
「お祝い?」
「そう!予想外のことではあったけど、オーロラが進化したのはめでたいことだからな。ここは1つ、配信抜きでお祝いの席でも設けようと思ってな。オーロラ、食べたい物とかあるか?したいことがあればそっちでもいいんだけど」
「イイの?」
「おうともさ!贅沢できるくらいの金はあるからな」
「んー?ンー……」
「まぁゆっくり考えりゃいいさ。逃げやしないんだから」
長考しそうな雰囲気だったので、一旦話をそこで区切ると、食器の後片付けに入った。今日はダンジョンに潜らない日だからな。ゆっくりとやって、それが終わったら庭の家庭菜園でも見とくかな。
・
・
・
現在、俺は決して看過できない場面に立ち会っていた。庭に出ようとしたその時、縁側からあるものが見えたため一時的に身を隠しているのだ。俺の視線の先には庭があり、そこに住まうものである親分マンドラゴラがいるのだが……
「ピッギッピッギッ」
奴め、ご機嫌そうに小さい瓶を手に持ち、その中身を頭の葉っぱに振りかけているのだ。これがただの空き瓶で振りかけているのが水ならば俺も隠れることは無かったんだ。それを親分マンドラゴラの奴……俺が試しに買っておいて、存在を忘れかけていたパリピが飲むようなカラフルなテキーラを振りかけてやがった。
俺は容疑者が俺に対して背を向けていることを確認し抜き足差し足と音を消しながら、距離を縮める。ふふふ、伊達に家主やってないわ。どこを踏めば軋んだ音が出るか既に把握済みよ!
流石にサンダルを履こうとすれば音が出るのは自明の理なので、裸足で庭に足を踏み入れる。
「ピッギッピッ……ピッ?」
近づいたところで俺の影が親分マンドラゴラの体と重なる。それにより急に周りが暗くなったことに気付いたのだろう。親分マンドラゴラが疑問の鳴き声を上げながら後ろを振り向くと――俺と目が合った。
「ピギャアアアアアアアモゴッ!?」
「うるせぇ!叫ぶなマンドラゴラ種!」
慌てて奴の口を塞ぎ叫び声を封殺する。幸い俺自身に影響はないし、あれぐらいの叫びなら巣守さん宅までは届いてないだろう。偶然近くに誰か……いなかったよね?念のため、親分マンドラゴラ容疑者を彼の家である植木鉢に頭から突っ込ませて、玄関の方に回って近くに誰もいないか確認する。道行く人なし!尋ね人なし!道路にカラス数羽撃沈!ヨシ!!!
「ふぅ、焦った。マンドラゴラめ……いや驚かせた俺も悪いか」
ばつが悪くなり、頭を乱暴に搔きながら庭に戻ると悩んでいたはずのオーロラがそこにいた。なににするか決まったのだろう、俺の顔を見てオーロラはこちらに向かって飛ぶ。
「ジョージ、決まった!ワタシ、お店で食べたい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます