【モノを食べる時はね】籠って食う飯は美味いか??【誰にも邪魔されず】

 あ……ありのまま今起こったことを話すぜ!オーロラがマジカルマッシュルームを食べて飛び回ったと思ったら発光しだして、収まったかと思えばオーロラのいた所に卵状のものが存在し何故か飯と酒が無くなってた。何を言っているのか、わからねーと思うが、俺は何となく分かる。オーロラめ、恐らくではあるがあの卵の中で晩酌してるな!?


『卵?オーロラちゃん卵になってもうたん?』

『明らかに進化しそうなふいんき←なぜか変換できない』

『雰囲気警察だ!』

「やっぱこれ、進化だよな?」


 モンスターの中には、一定以上の経験を積む、もしくは条件を満たすことで進化する個体が存在する。俺も動画くらいでしか進化の瞬間を見たことはないが、その進化の過程はまちまちだったりする。突如として体が肥大化するものもいれば、光に包まれて消えた時には新たな姿になったり、今のオーロラの様に一時的に別の形状に変化してから新たな姿になるものも存在する。今のオーロラの状態は、進化の過程にあると思って間違いないだろう。


 ただ、気になる点が1つだけある。妖精って進化の時、こうなるのか?生憎、動画サイトで調べた限り、妖精の進化の瞬間が載ってないのだ。理由として、妖精と暮らしている冒険者曰くいつの間にか進化していた――そうだ。念のため、今生放送で聞いてみようか。もしかしたら、妖精の主人がいるかもしれないし。


「誰か、妖精と暮らしてる人いるー?これ、進化だと思う?」

『そもそも妖精飼っとる奴少ないでしょ。おるん?』

『おるわぁ!後飼っとる言うなボケェ!』

『ひぇっ』

『そら飼っとる言うやつが悪い』

「いたいた。もしあなたの妖精さんがこの配信見てるんだったら聞いてもらえる?」

『それなんだけど……うちの妖精、画面見ながら跪いてる』

「え?」


 その後も、妖精と暮らしている人からオーロラであろう卵を視界に入れるや否や、妖精が跪くような格好をしていると報告があがっていく。その妖精たちも有難いことに俺の配信を見てくれているようだが、このような反応は初めてなのだとか。

 ……普通じゃないよな。そう感じ、流れるコメントから目を離し、卵オーロラの方へ視線を戻してみると――卵の傍に空になった皿とお茶碗とビール瓶が鎮座していた。おい、これってもしかして


『ジョージ、これお代わり催促されてない?』

『マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン』

「え、えぇ……?」


 困惑しきりだが、そう言われてみると物言わぬはずの卵から威圧感のような物が感じられる。まさかと思いつつ、試しにお茶碗に鮎の炊き込みご飯をよそい、卵の傍に置いてみると――お茶碗の姿がぶれ、まるで最初からそこになかったかのように消えた。


「……」

『これは食べてる』


 グラスにビールを注ぐ。卵の傍に置く。消える。


「……」

『飲んでんな』


 腰を上げ、配信後に食べようと思っていた大容量ポテトチップスを持ってきて、開封して卵の傍に置いてみる。消える。


「……」

『ジョージ、茶碗また出てきてるよ』

『お代わりだって』

『ワインの瓶も出てきた』


 こ、こいつぅ!そこまで要求するならやってやろうじゃねぇか!

 500ml酎ハイ缶を置く。消える。湯を入れたカップヌードルを置く。……しっかり3分経ってから消えやがった。何でもすぐに取り込もうとしない分、中のオーロラは外の状況を把握してるのか?


『卵オーロラちゃんめっちゃ食うな』

『胸焼けしてきた』

『飯も酒もペースが早いな』

『食べ物だけなら栄養取ろうとしてるって分かるんだけどな。酒は何故』

『そりゃ美味いもの食べたら酒はいるでしょ』

「否定できないなぁ……」


 視聴者のそんなコメントに苦笑いしていると、事態が急変し始めた。卵オーロラに捧げた食べ物の容器だったり食べられない所が卵から飛び出し始めたのだ。漏れなく米一粒、汁一滴、ポテチの欠片1つも見つからない程だ。


『一気に汚くなって草ぁ!』

『家政婦さん掃除お願いします』

「家の主人なんだが!?」


 ツッコミしながらも、配信中にゴミ散乱も宜しくないのでせっせと飛び出たごみをゴミ袋にぶち込んでいく。ひーこらひーこら片付けて、ようやく綺麗になったところで、更なる変化が現れた。ピシッと音が聞こえ、発生源に視線を向けると卵オーロラの天辺に一筋の罅が刻まれていた。


「おぉっ!?」

『来る!?』

『そこにはデロデロになった見るも無残なオーロラちゃんの姿が』

『ミィイィ……』

『おい馬鹿やめろ』


 このまま、少しずつ罅が広がりそこより進化したオーロラが現れる。誰もがそれを予感したことだろう。俺だってそうなるだろうと思ったさ。ただし現実……というか、オーロラは思う通りに行きたがらないようだ。


「パッカァーーーン!」


 突き抜けた。溌溂とした珍妙な声と共に何かがひび割れから飛び出た。俺は――いや、俺達はそいつを知っている。12センチほどだった身長は、350mlペットボトルくらいまで伸び、透明なガラスのようだったその翼は、ステンドグラスの様に赤青黄と様々な色が散りばめられ、一種の芸術品のようだ。

 上気した様な頬を笑みで歪めた彼女は俺を見るなり、"口"にした。


「ハァイ、ジョージ!」

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