【妖精も】マジカルなキノコのお味は?【ぶっ飛ぶ美味しさ】
さて、今回作ったイワナのホイル焼きに入ったマジカルマッシュルームは、5つ程に分けたんだけどそれを全部食べる権利はオーロラにある。というのも、マジカルマッシュルームから力を得るには1人で全部食べなければいけない――と言われている。
まぁ1つのマジカルマッシュルームを細かくして食べるケースが少なく、そのどれもが何も起こらなかっただけで分けた分だけ力を得られる確率が減っていくという説もある。仮にその説が正しくても、結局は低確率がさらに低確率になるだけだからねぇ。それならオーロラに全部食べてもらった方がいい。俺は精々、マジカルマッシュルームから出た出汁を楽しませてもらおう。まさか、出汁になった分もとは言わないよね?
それでは、食事をとる前の大切な儀式を始めようか。それぞれビールの入ったグラスをカメラに向けて突き出し――
「それじゃあ乾杯!」
「――!」
『KP』
『kp』
『かんぱーい』
乾杯の言葉と共に、オーロラのグラスと合わせる。甲高い音が鳴り響き、晩餐の開始を告げる。コメントもそれに合わせて乾杯の文字が凄まじい速度で流れる。視聴している人のうちの殆どがコメントしてるんじゃないだろうか。
まずは喉を潤すために、ビールを目一杯流し込む。半分ほど飲んでしまったが、ビールのお代わりはたくさんあるから大丈夫だ。それに白ワインもあるからね。
さて、それでは料理に手を付けようか。鮎の炊き込みご飯にアマゴの塩焼きも十分に魅力的だが、やはり一番気になるのは――イワナのホイル焼きだ。箸を伸ばすと、イワナの身とは違った何か堅い感触が手に伝わる。目を向けると、オーロラの小さな箸とぶつかっていた。どうやら、オーロラも一番最初にホイル焼きを食べたかったようだ。オーロラも俺の存在に気付き、互いに顔を見合わせると、何だか面白くて同時に笑ってしまった。
『てぇてぇ』
『酒飲みは惹かれ合うというのか』
『ワイは炊き込みご飯が気になり申す』
改めて箸をイワナの身につける。うん、ふっくらとして簡単に身を取ることが出来た。マジカルマッシュルームも入っていることから少し緊張もあるが、匂い的にも大丈夫だろうと判断し口に放り込む。
「うんま!」
「――♪」
『マジカルマッシュルームの出汁は大丈夫なん?』
「大丈夫!むしろ他のキノコ達より旨味出てるかも!」
そもそも天ぷらで食べていたから不味い可能性は限りなく低かったんだがこれほどまでとは予想だにしなかった。干しマジカルマッシュルームにしてしまえばもっと旨味が出るかもしれないが、流石にマンドラゴラ以上に見つかりにくいキノコだし無理か。
しかし本当に美味いな。マジカルマッシュルームの他にもシイタケやマイタケ、エリンギも入れたがそれらも出汁を吸ってこれまた美味い。イワナがいなければメインを張れたであろうほどだ。ビールもよく進むし、既に注いでおいた白ワインとも合う。
『ってかオーロラちゃん、マジカルマッシュルームはいいの?』
『そういや手つけてない』
「――」
「ほーん、もうちょっと出汁吸わせたいんだって」
『ガチだ』
『十分しみ込んでると思うんですがそれは……?』
「――!」
「まだまだ倍プッシュだ!だそうです」
『さいですか』
『オーロラちゃんが言うならそうなんだろうな』
マジカルマッシュルームの存在で、哀しいかないささか目立たなくなってしまった塩焼きと炊き込みご飯だが……俺達がお前たちを忘れるかよ。
塩焼きは元々美味い事が分かっていたので、正直感動は薄いが鮎の炊き込みご飯はビックリだった。鮎は大体塩焼きか甘露煮ぐらいしか思いつかなかったので、折角だからと初めて作ってみたんだが新たな扉を開いた気分だ。身もさることながら、ワタの苦みがいい味を出している。いかんな、毎年の楽しみが増えちゃった。
塩焼きも感動は薄いとは言ったが、そのアマゴの身と塩味は酒を引き寄せる。予定外にも白ワイン2本目開けちゃったじゃないか。オーロラもブースト全開で飲み喰らい――遂にその時が来た。
「――」
「おぉ、オーロラがいつになく真剣だ」
『神々しさすら感じるな』
『思わず祈ってしまいそう』
「分からなくもない」
それ程までに今のオーロラは神経を研ぎ澄ませている。もしここで俺が茶々を入れようものなら、命は無いとそう思わせるほどに。
「――!」
カッと目を見開き、オーロラはマジカルマッシュルームの一欠けらを箸で摘まみ口に入れ、咀嚼。もぐりもぐりと繰り返し、飲み込むとすぐに2つ目に手を掛けた。その間も表情は一切崩さずガムを食べるようにマジカルマッシュルームの味を楽しんでいた。
そして最後の一欠けらを飲み込んだ瞬間、そこでようやくオーロラが相貌を崩し、飛び回り始めた。
「――♪――!――♪」
「オーロラ?大丈夫?」
『これはヤってますわ』
『ジョージ近い名前の別のキノコ食わせてないよね?』
「んな訳あるかい!」
とは言え、この反応は異常とも言っていいかもしれない。一体オーロラに何が起こっているのか。もしかして既にマジカルマッシュルームの効果が表れているのだろうか。そう考えていると、オーロラに更なる変化が訪れた。
急に時が止まったかのように静止するとゆっくりとテーブルの上に降り立った。
「お、オーロラさん?」
「――」
「え?なんて?」
いつもだったら頭に響くはずのオーロラの声がノイズがかかった様に聞こえにくくなっていた。聞き間違いかと思い聞き返そうとすると、オーロラが急に発光し始めた。その光量は強く、パソコン画面もよく見えない。
やがて光が収束したかと思い、机に目をやると変化が起きていた。
「オーロラ……?」
オーロラがいたはず場所に卵の様な形をしたオレンジ色の物体が鎮座しており――オーロラによそっていた炊き込みご飯とホイル焼き、そしてオーロラのビールグラスと白ワイン1本が机の上から消えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます