ニャンコとのじゃれ合い
「っらぁ!」
「グルァ!」
「――!」
剣歯虎が飛び掛かり、それを俺が骨で受け止め、出来た隙をオーロラが魔法で狙い撃つ。"肉体強化"スキルのおかげか、弾き返すことは出来たんだけれど、そこはただの動物の骨。何回も受け止めていれば折れてしまうものだ。剣歯虎がその隙を見逃さず、魔法を避けつつ攻撃を仕掛けてくるのだからたまったもんじゃない。
負けじと回避するが、剣歯虎の第二の武器である爪が伸び俺の皮膚を切り裂いた。幸い、致命傷となるものは一つもないが、だからと言って痛くないわけじゃない。Aカードの中のポーションが使えないのがキツイ。ここは耐えるしかないが……血を流し過ぎて気を失う前にケリを付けなければ。
体力が消耗し、いい加減立つことが辛くなってきた頃、剣歯虎の方にも変化が起きた。と言っても単純なことに、奴も体力を消耗していたようだ。俺が今まで以上の隙をさらけ出しているのに飛び掛かろうともしない。いくらモンスターとは言え体力が無尽蔵という訳じゃないんだな。
残念なことに、奴は自身の疲労をカバーする味方がいない。そして俺には、その味方がいる。
「オーロラぁ!」
「――!」
俺が叫ばずとも分かっていたようだ。食い気味に発射された鋭利な氷塊は、剣歯虎の背中に深く刺さり、剣歯虎は叫ぶような鳴き声を上げる。大ダメージにはなったようだが、決め切れていない。それを悟った俺は最後の力を振り絞り、剣歯虎に向けて走る。
奴も走り出した俺に気付き、動けないながらも最後の抵抗とばかりに2本の牙を俺に突き立てんと口を大きく開く。それで噛みつかれでもしたら俺もただでは済まないだろう。だが、手負いの虎の行動は予想済みだ。牙が俺に届くよりも早く、奴の口内に縦向きの骨をねじり込む。
「ハガッ!?」
「どうしたよ、ネコちゃん。肉は喰らっても骨は好まねぇか?おっと、それはワンちゃんかハイエナか」
ようやく一矢報いることが出来て自然と口角が上がる。一応ハイエナもネコ科だったりするんだけどね。さて、骨を口に突っ込まれた剣歯虎は、目を白黒させている。ハハハ、噛みつきでの攻撃が恐ろしい相手には棒を突っ込むのはもはや定番と言っていいだろう。
――とは言え、俺もそんな機会が来るとは思いもしなかったわけだが。にしても目の前の剣歯虎が、いきなり口が大きくなったり、実はスライムのように顎をいくらでも変化させることが出来るといったような動物から逸脱した存在じゃなくて良かった。
その剣歯虎だが首を振り、なんとか骨を外そうと目論んでいるようだが上手くいっていないようだ。しょうがない、お手伝いしてあげようじゃないか。手を軽く振り、魔法を撃つ寸前だったオーロラに待ったをかけ――
「痛かったぞオラァ!」
主に腕とか足に走る痛みを怒りに変えて奴の顔に回し蹴りを叩き込んだ。今日は釣りに来たとはいえ、山にも少し登るからと安全靴を履いてきたが、それが功を奏したようだ。俺の肉体強化と安全靴のつま先鉄板から放たれた蹴りの威力は容易く口内の骨だけではなく剣歯虎の頭蓋骨さえ砕いてしまったようだ。
「ガ、ァ……」
然しもの剣歯虎も頭蓋骨を砕かれては成す術も無かったようで、一鳴きした後ピクリとも動かなくなった。それを確認し、俺もまた力が抜けて倒れ伏した。
「ぶべっ」
「――!?」
顔と地面でキスしてしまった。ペッペッ、土が気持ち悪い……オーロラが心配そうに近づいてきてくれるがそちらに顔を向ける元気もない。口だけ何とか動かせそうだ。
それにしてもなんで剣歯虎がこんな洞窟にいるんだよ!駆除組織はもちょっとちゃんと駆除してよ!危うく俺がこの骨たちの仲間になる所だったよ。ってかマジで動けねぇ。オーロラは流石に俺を持ち上げることは出来ないし……あぁそうだ。
「オーロラ、ポケットからスマホ出して」
「――!」
こういう時のマイフレンド武道さんに助けてもらおうじゃないか。と、ここで嫌な予感がよぎった。もしかして、今の戦いで壊れていないだろうか。3年程連れ添ったスマホ。最悪画面割れだけなら許容できるが動かない程壊れた日には……考えたくない。
少しばかり出すのに苦戦したようだが、オーロラは俺の眼前にそっとスマホを置いてくれた。見た感じは……うん、壊れていないな。凄く安心した。
「えーっと、OKGoogle、武道さんに電話をかけて」
『分かりました。武道さんに電話します』
よしよし、システムも壊れてないな!あとは武道さん出て!時間的には休憩上がったくらいかもしれないけど出て!出て!
血を失い過ぎたからかだんだんと意識が遠ざかっていく中でひたすらに祈る。マジで出て!
『もしもしー?なんやの、譲二さん。そろそろ忙しくなりそうなんやけど――』
「たしけて。ポーション持って助けに来て」
『どない状況!?』
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