釣りキチジョージ
太陽に光を反射して流れる水が鮮やかに輝く。俺の耳に届くのは砂利を踏みしめる音と名前の知らない小鳥のさえずり。そして水の流れる音と――少し遠くに聞こえる滝の音だ。
現在、俺達は山川に来ている。苗字じゃないよ?当然だが、戸中山ダンジョンではない。それどころか、ダンジョンでもないただの山の中にある川だ。目的は言わずもがな、釣りだよ釣り。我ながらダンジョンや釣り堀ばかりに意識がいっていた。そうだよ、普通に川や海で釣りすりゃいいんだよ!
と、方向性は決まったものの今度は場所だ。俺の家から少し離れた所にも川は流れているのだが、それなりに人は通るし泳いでいるのは鯉だったりする。釣りだけをするならそれでいいんだが、俺は釣った魚を食べたいんだ!――鯉が食べられるのは知っているし、興味はあるが、あれは泥抜きをしっかりとしなければ食えたもんじゃないと聞く。
では海と山では?となれば……Twitterで調べてみたら暖かくなってきたこの頃、海に行く人の数が増えてきているらしい。人が増えれば増える程、目に触れる可能性は高まる。それじゃあ、少なくとも海よりかは人が少ないであろう、山に行こうとなった。刺身で食べられる海の魚は恋しいが……いつかの機会にとっておこう。
てなわけで、山川に来ています。今回は泊まりではないので持ってきたものは釣り道具と椅子にも使うことが出来るクーラーボックスと塩と魚に刺す用の串だ。ダンジョンじゃないから可能な限り荷物は少なめにした。ダンジョンじゃないとAカード使えないからね。
それでは早速始めようじゃないか。昨日は年甲斐もなくワクワクして寝付けなかったんだよね、ちょっと寝不足気味。それほど楽しみにしていたんだ。
クーラーボックスに腰を掛け、針に餌……釣具屋でゴカイを買った方がいいのかと思ったが、調べた限り竹輪でもいいらしいんで家にあった竹輪をぶっ刺して投げる!
「あー、オーロラ。かなり暇だと思うから遊んできていいよ?」
「――」
流石に家の中にはオーロラのサイズに合う釣り竿は無かった。じゃあ木の枝を竿にすればいいんじゃない?そう提案したが、オーロラまさかの釣りにそこまで興味なし。魚が食べたいなら私が魔法でちょちょいのちょいと獲ってくるよ?だって。うん、その方が効率がいいのは分かる。オーロラじゃなくても今の俺なら鮭を獲る熊の如く魚を獲ることが出来るだろう。
でも俺がやりたいことはそうじゃないからね!魚が餌に引っ掛かるのをのんびりと待ち……魚との駆け引きってのをやりたいんだよ!――実は両手で数えられる程しか釣り行ったことないけど!!
オーロラは、とりあえず見てる。と言って俺の膝に座って魚が喰いつくのを待っていたのだが、10分経たないうちにどこかへ飛んで行ってしまった。いや、いいんだけども。
戸中山ダンジョンでは、止めさせるとこだけどモンスターが発生するのは大体がダンジョンだ。親分マンドラゴラみたいな例外はあるが、ダンジョンの外にいるモンスターは人間がダンジョンから連れ出した存在だ。故に外に野生のモンスターは滅多にいない。いたとしたら連れ出した人間が放ったモンスターだろう。それが故意じゃなくても放った人は逮捕され、野生化したモンスターは即行で駆除されるだろう。
という訳で、野生動物くらいしかいない普通の山でオーロラを害する存在はいないだろう。しっかり羽を伸ばしてくるといい。
・
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「ふぃーっしゅ」
引っ張られる感覚がしたので、間髪入れず竿を引き上げる。釣れたのは小振りな鮎だ。口から針を外してクーラーボックスに入れる。さぁ鮎8号、先輩たちと仲良くするんだぞ。
……はい、大漁です。一度食いつけば引っ張るだけで魚が抵抗できずに川の中から飛びあがってしまうのだ。鮎をはじめイワナやアマゴも釣れた。……なんだろう、思ってたんと違う。こう、釣れなくて悔しい!が無い。贅沢な悩みだとは思うが。
しかし、長い時間釣りをしていればそれなりに腹も空いてくるというもの。時間もいい頃だし、そろそろ魚を焼きますか。
「――!」
そんな時、上流の方からオーロラが急いだように飛んできた。そしてそれはそれは楽しそうに顔を赤らめて言った。
「――!」
面白そうなものがあった、と。
「え、これから魚焼くつもりなんだけど」
「――♪」
食べるらしい。そんなに急がなくていいんだ、面白そうなもの。
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