引きこもるエルフと妖精

 Q、ニンニク臭のするエルフと妖精はどう思いますか?A、くっせぇですわ!!

 そんな訳でね、今日は絶賛引き籠りだ。無論、にんにく食べてそのままではないよ。懇切丁寧に歯磨きもしたし、寝る前に消臭目的で牛乳も飲んだ。極め付けに乾燥させていたマンドラゴラの葉っぱがいい具合にカラッカラになっていたので朝食に飲むことにしたのだ。

 本日の朝ご飯は鮭の切り身に目玉焼き。豆腐とわかめの味噌汁に大盛りのご飯と――ご機嫌な朝食だ。


「いただきまーす」

「――」


 揃って両手を合わせて食べ始める。うむ、派手さこそないがこれぞ日本の朝食って感じで落ち着く。もしこれにマンドラゴラの浅漬けがあれば完璧だったが、残念なことに作っていないのだ。理由は単純に面倒くさかっただけだが……どうせ今日は外でないし、沢庵作るか。


「オーロラ、今日は目玉焼き何かける?」

「――!」

「醤油ね、俺もそうしよ」


 世間では目玉焼きに何をかけるかで戦争になったりならなかったりするようだが、俺達の間では戦争は勃発しない。初めから目玉焼きは分けてるからね、それに何を掛けようが自由だ。ちなみにうちでは大体、醤油・塩コショウ・マヨネーズだ。

 さて、鮭の塩焼きを食べたことで少し喉が渇いたので急須で淹れて湯気が立った黄金色のマンドラゴラ茶に口を付け、俺は目を見開いた。――美味い。昔、巣守老夫婦に譲ってもらった高級玉露。あれを飲んだ時も感動に打ち震えたがその時の比じゃない。一口飲むつもりが、一息で全部飲み込み、感嘆のため息が漏れてしまった。


「――?」

「あぁ、美味いぞ。オーロラも飲んでみな」

「――!」


 まっさかー、そうは言ってもお茶だよ?何て言ったオーロラも即堕ち2コマよろしく、へにゃりと顔をだらけさせた。しかも、温かいお茶を一気飲みしたからか、その額には玉の様な汗がきらめいていた。ん、俺もか。乱暴に腕で拭い、空っぽになった俺とオーロラの湯呑にマンドラゴラ茶を注ぎ――揃ってまた一気飲み。


「駄目だオーロラ。これ自制しないと今度はお茶で腹いっぱいになるぞ!?」

「――!!」


 一昨日の悲劇を思い出し、「やっべ」となるオーロラ。その後は、マンドラゴラ茶の誘惑を何とか退け、食べきった後にグイっと飲み干した。まぁそれでも2人とも4杯はお代わりしちゃって、その分結構汗もかいた。が、そのおかげもあって色んなことが分かった。

 まずこのマンドラゴラ茶。計10杯は淹れたはずなのに、その色や味が薄れることは一切なかった。どれだけ美味しさを維持できるんだろうか。そんなに茶葉入れてないはずなのになぁ……?

 2つ目。これは飲んだ俺とオーロラに変化が起こった。変化と言っても角が生えたり胸がデカくなった――なんてことではない。マンドラゴラ茶を飲んだことで流れた汗を拭ったところ、滅茶苦茶肌がすべすべになった。俗にいう赤ちゃん肌かな?特段、美肌とか気にしたことは無かった俺だが、これにはビックリ。まさかのマンドラゴラ茶、美肌効果があった。汗が滲み出た時に、あらゆる老廃物が出たのかな?


「――♪」


 元々男でそこまで美容に興味が無かった俺とは違って女の子なオーロラは生まれ変わった自分の肌を手鏡で確認して嬉しそうだ。空気が読める俺は、「よく分からん」なんて言ってはいけないことを理解している。

 ……配信でバレるかな?まぁツッコまれたところでエルフと妖精の特性とか言っておけばいいか。



「釣り……釣りがしたい……」


 マンドラゴラの沢庵とマンドラゴラの浅漬け、マンドラゴラの茶葉とマンドラゴラのふりかけを仕込み終わったところで、再び俺の脳内を釣り欲求が襲う。幸い、釣り道具は揃っているが、場所だ。

 昨日の配信では勢いで隠しエリアのコメントに「それだ!」なんて言ったが絶賛戸中山ダンジョンは人で溢れている。武道さんからのタレコミだと、冒険者の中には俺を探している者と隠しエリアを探している者で別れているらしい。……あれ?仮に場所が分かってもオーロラか俺の許可が無いと入れないんじゃなかったっけ?聞いてなかったんだろうか。

 でもなぁ……確かにあの湖、魚いそうだったんだけど。……そうだ。


「オーロラ、ここからあの隠しエリアに行けたりしない?こう、転移魔法とか?」

「――」


 無理ですか、そうですか。流石のオーロラでも無理らしい。

 しかし、簡単には諦めきれないなぁ。困ったことに一度着火した釣りへの欲求は留まることを知らない。釣り堀?いや、この辺にそんなスポットなんて……あ、そうか。

 別にダンジョンにこだわらなくてもいいじゃん。

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