【明日は】いきなりで申し訳ない【誰にも会いません】

「ハァイ、皆の衆!ジョージの酒飲み配信の時間だぁ!」

『うわでた』

『オッスオッス』

『ジョージ、横でオーロラちゃん先に始めてるけどいいん?』

「え?オーロラ?ちょっ、抜け駆け!?」


 武道さんにマンドラゴラを渡した翌日の夜。いつもの調子で配信を始めた。――いや、少し違うか。それは置いといて――見逃せないコメントが目に入って、慌ててオーロラの方を見てみればオーロラがジョッキでビールを流し込んでいた。お、お前ぇ!?


「――!」

「かーっ!旨い!じゃないよ!?美味しい!?」

「――♪」

「そりゃ良かったぁ!」

『いいんかい』

『ジョージも飲めば?』

「や、俺は食うもんあって初めて飲むから」

『分かる』


 そこは拘りなので譲れないのだ。無論、単体でも飲めるっちゃあ飲めるが……やはり美味しいものを食べてから飲んで――キメたいのだ。コメント欄でも分かってくれる同士がいて何よりだ。

 だが、今日の配信だがいつもと違う点が1つあるが、俺はわざと触れていない。とは言え、視聴者たちは既に分かっているみたいだね。


『料理なくない?』

『おっ、ジョージ禁酒枠?』

『オーロラちゃん、ジョージが飲まない横で飲む酒は美味いか?』

「――!」

「凄くいい笑顔で美味しい言うてるよこの妖精」


 そう、普段であれば何かしらの料理を用意しているであろう机の上には配信器具を除けばビールが注がれたジョッキしか置かれていない。コメントの中には放送事故を疑うものもあるようだが、まだまだ甘いと言わざるを得ない。

 俺はしたり顔を浮かべながら机の下に隠してあったブツを机の上に置く。


『ホットプレート?』

『ペッパーランチでも作るんけ?』

「あぁー惜しい。そんな手間かけないよ。今日の料理はこれだぁ!」


 ホットプレートの鉄板という大地に、まるでエアーズロックのように巨大なそれを乗せる。赤々としたそれは、まるで宝石のようで見る物全ての目を輝かせる。それの登場に一旦、コメントの流れが緩やかになったと思うと――


『肉だぁあああああああああああああ!!』

『でっっっっっ!!』

『オーロラちゃんのベッドですか?』

『わぁっ……』

『このサイズの肉……若い時なら嬉しいんやろなぁ』

『ご立派ぁ!』


 濁流の如く流れる流れる。あまりの速さにオーロラが目で追いかけて顔が上下していてなんか面白い。そう、今回俺が用意したのは、ミノタウロスのステーキだ。当初はミノタンのビーフシチューをやろうと思っていたのだが、ブラウンシチューをやってたのを思い出し一旦保留。

 そこで悩んだ結果、そういやエルフになってからホットプレート使ってないなと思い出して折角なら焼きながら配信しようということで今に至る。仮に視聴者たちの反応が悪くても続行する予定だったが、受け入れられているようだ。さぁ、早速焼いていこう!



『うっわ』

『何それ』

『いいね!』

『適量ってご存じ?』

「御存じだが」


 好評だったはずのステーキの調理が一気にして阿鼻叫喚の嵐となった。一部は好意的なコメントもちらほら見受けられるが、大多数が暗に「正気か?」と言っている。正気のつもりだと言いたいところだが、少しばかり欲望に素直になっている感は否めない。

 ホットプレートの上にあるのは、火が通って良い匂いを放ち始めているステーキ。そして――4株分のニンニクの欠片だ。ふふふ、ステーキを食うなら相応にニンニクを入れないとなぁ!ステーキはにんにくを入れれば入れる程美味くなりますからね。


「言っとくけど、これオーロラも了承してるからね?明日は外出するつもりも無いしいいんだよ!」

『休みを割と自由に決められるのはフリー冒険者の特権よな』

『企業に属してるのって縛られたりするの?』

『するらしいなぁ。国に属すると休みの日に緊急事態が発生したら呼び出されるらしいで』


 その分、給料は良いらしいからそちらに就職する人は結構多いそうだ。俺としては、休みの日は絶対酒飲んで休みたいから向いていなさそうだ。おっと、焼きながらコメントに返信しているとそろそろいい具合に焼けたみたいだ。

 皿に盛りつけてもいいが、折角ホットプレートで焼いているんだ。このまま温かい鉄板の上で食べたい。そういう訳で半分に切り分け、そのまま皿に移さず食べることに。


「ではではでは!」

「――!」


 オーロラと揃ってミノタウロスのステーキにナイフを通す。切り分けた時から感じていたが、このステーキ、ケーキのようにスッと刃が通る。ミディアムで焼かれたその断面からはキラキラと輝く肉汁が滲み出て止まらない。慌てて肉を口に運ぶとまず肉そのものの香りと、ニンニクのガツンとした風味が鼻を通り抜ける。続いて噛み締めるとスポンジを握り締めた時のように肉汁がはじけた。


「うっめぇ!」

「――♪」


 これは……ビールだ!黄金のそれを喉に流し込むと、俺は天を仰ぎ目に涙を滲ませる。数日考え抜いて答えられなかった問題を簡単な数式で解き明かすことが出来たような感覚だ。いや、俺別に数学に明るいわけじゃないけども。それくらい、美味かった。

 あぁ、駄目だ。これはビールも合うが、酒も合う。ご飯に切ったステーキを乗せて。さらにニンニクも載せて、更に更にそこに焼肉のたれをかければ、それはもうヘブンだ。


『その胃が羨ましいよ』

『ジョージ胃袋も若返ったんか……』

「そーいや、そうかもなぁ」

『流石に全部は無理だけど半分こサイズなら俺もいけるかも』

『ミノタウロスのステーキ、買うと高いんやろなぁ』


 言われてみれば、エルフになる前は脂っこい物が若いころに比べて入らなくなったが、エルフになってからは、今までの食欲を凌駕するほど食べているのは間違いないな。本当に胃袋まで若返ってさらに強化されているのだろうか。稼げてるから問題ないけど、そうじゃなきゃヤバかったな。

 しかし……肉を頬張りながら言うのもなんだが


「釣り、したくなってきたなぁ」

『釣り?』

『分かる。無性に釣りしたくなるときあるよね』

『バーベキューした隠しエリア、泉あったよね?そこで釣れないの?』

「あ」


 そうじゃん。

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