正直、そんなにあっても困るというか…
ゴブリンキングを倒した俺達は、倒れ伏したキングの傍に置かれた宝箱を回収し中身を改めた。そこにあったのは、指輪にするには大きいんじゃないかくらいのサイズのダイヤモンド1個。あー、うん。あんまり嬉しくはないかなぁ……そりゃ、宝石好きの人にはいいのかもしれないけれど、金にしかならないからなぁ。確か、魔法の媒介?に使われることもあるみたいだけど、俺は専門外。でも、オーロラなら?
「オーロラ、これいる?」
「――」
いらないそうだ。つまり買取ということで。幸いというべきか、ここ韮間ダンジョンは道中の魔法陣から帰ってもボスを倒した時に出現する魔法陣から帰っても出口は一緒なのだ。これならば俺が帰還しても(オーロラを隠しているから)1人でゴブリンキングを倒した女だーなんて騒がれることも無い。バレるとしたら受付くらいか。
予想通り、ダイヤモンドの買取を頼んだ時に韮間ダンジョンでお馴染みのお姉さんにバレたが、そこはプロ。一切顔色買えずに淡々と処理をしてくれた。ただ、買取してもらった後の配信予定の確認が無ければ完璧だったのになぁ……「今日はしないよ」って言ったらしょぼんとされた。明日はするから!
さて、外に出ると空は既にオレンジ色だ。カァカァとカラスも鳴くから帰りましょ。帰ったらミノタン丼作らなきゃね
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日が沈んで少し経った頃、連絡通り両手に買い物袋を抱えた武道さんがやって来た。おぉおぉ、酒に冷凍の魚の短冊に野菜に冷凍食品まで。2Lのお茶にジュースまで。レシートを確認してお札だけで多めにお返しする。え?小銭?勿論、幸福の蛇革財布から出せるがお礼の意を込めてね。
おっと、そうだ。
「武道さん、今日ミノタン丼作ったから食べていきなよ」
「ん?あぁ、ミノタウロスのタンかいな。食いたいけどなぁ、マンドラゴラ受け取ったらすぐ持って来い言われとるんや」
まぁこれは想定内。組合としても出来るだけ早く手元に置いておきたいんだろう。それを見越して俺も別プランを用意していたのだ。
「あら残念。じゃあ、使い捨てのプラ弁当箱に詰めてるから持ってって。冬子さんにもあるから」
「おっええんか?おおきに」
では、ここからがメインイベント。マンドラゴラの取引となります。とはいっても玄関には置いてないのでオーロラに持ってきてもらおう。
「オーロラ!マンドラゴラと牛タン弁当持ってきてー」
「――!」
俺の声に応えて、オーロラはレジ袋に入った牛タン弁当とひんやりとしたマンドラゴラを持ってきた。庭に埋まっている物よりも細めなのはダンジョンから獲れるマンドラゴラで小さめなサイズがこの大きさだからだ。武道さんのことは信じているが、念のためね。
「確かに、マンドラゴラやな。獲れたて新鮮で?叫びによる被害も譲二さんから見受けられん……どんな処理したんや?あと冷たんのは?」
「冷蔵庫に入れてたからだけど?処理は企業秘密で」
「扱いが野菜やなぁ。そもそもどう繫殖させたのかも――いや、スマン。詮索はせんとく」
話したところで信じることは難しいだろうなぁ。マンドラゴラを育てたら、それが上位個体になって意思疎通できるうえにそいつがマンドラゴラを自由に繁殖できるなんてなぁ。俺だって困惑してるんだから。
朝、庭に出ると親分マンドラゴラが「ピギィッ」って植木鉢から顔出して挨拶してくるんだぜ?挨拶の概念あるのかよって思ったね。
「ところで、支払いってどうすんの?持ち帰って次そっちのダンジョン行くとき支払いとか?銀行振り込み?」
「これや」
そう言って武道さんが渡してきたのは、一封の封筒。まさかの現ナマっすか。……いや分厚いな!?2㎝はある厚みだけど……まさか。中身を覗いてみたらたくさんの近代日本経済の父がコンニチワしていた。
即、武道さんに視線を移すが、彼は肩を竦めて言ってのけた。
「言うとくけど
「マジっすか」
「大マジや。ほな、もし来月も獲れたらよろしゅうな。ミノタン丼もおおきに!」
唖然とする俺を置いて、武道さんは予め用意していた高そうで厳重そうなアタッシュケースにマンドラゴラを大事に入れるとさっさと帰ってしまった。
取り残された俺は封筒の中のお札を全部財布に入れて乾いた笑いを浮かべながら、両手に買い物袋をもってリビングに戻った。ちょっといい酒開けよ。
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