2対群
「グギギ……ギギャー!!」
「「「「「「ギギャッ!」」」」」」
ゴブリンキング――その名の通り、ゴブリンを統べる王であり彼奴の周りには多種多様のゴブリンが集っている。一見、守られているだけの通常ゴブリンより体躯のある程度の王だがその実、周りのゴブリンのどの個体よりも強靭であり、魔法も容易くこなしてしまうのだ。加えてそこに存在するだけで周りのゴブリンを強化させるスキルを持つ。雑魚と印象付けられたゴブリンと侮るなかれ、侮ったが最後、数の暴力とそれを切り抜けた後に襲い掛かるキングの強さに蹂躙されることになるだろう。
……とは言うけれど。ここまで潜ることのできる冒険者で尚且つ2回目以降であれば余裕で突破できるモンスターらしい。そもそもが、ゴブリンキングは数いるボスモンスターの中では下から数える方が早いほど弱いと言われている。数の問題はあるだろうが、大体パーティ組んでるし範囲攻撃出来るやつがいればまー攻略しやすくなる。余談だが、完全上位個体のゴブリンエンペラーが存在する。
当然だが、油断は禁物だ。2回目以降余裕ということは初見はかなり苦戦するということだ。今までのゴブリンを倒せる攻撃でも倒れなくなるのだから調子が狂うらしい。それが多数だからね。とは言え情報を仕入れていればその苦戦も軽減される。俺もそうした訳で。
さて、現状だが俺が放った普通の矢がゴブリンキングの眼球にぶっ刺さって、奴さん怒り心頭で周りのゴブリンけしかけてきました。
「――!」
「大丈夫、分かってる。えーっと、“ゴブリンキングの頭部を貫け”っと!」
ゴブリンの軍勢が迫りくる中、俺はヤドリギの矢を取り出して願いを込めて投擲。今までで一番と言っていい程の疲労感が襲ってきたが普通に立っていられる。50mをジョギングぐらいで走ったくらいかな?願いが込められたヤドリギの矢は一直線にキングに向かう。
「ギッ!?ギギャ!」
「「「ギィーッ!」」」
そのことに気付いたのだろう、キングは咄嗟に指示を出す。すると、矢の進行方向に盾を持ったゴブリンや鎧を身に纏ったガタイのいいホブゴブリンが立ちはだかり始めた。我が身を犠牲にしてでも矢を通さないつもりなのだろう。けど、いい検証になりそうだな。この場合邪魔をするゴブリンも貫きながら進むのか、はたまた願いの対象以外に当たると効力を失くして俺の手元に戻るのか。さて、その結果は――!
「ギ?」
「グギ?」
「ギャッ!?」
「ギギ?」
「ギギィーッ!?ブガッ」
「ほーん、なるほど。そうなるのね」
「――!」
結果、数あるゴブリン達の体を貫くのではなく、すり抜けて一切の勢いを緩めないままゴブリンキングの頭を貫いた。一部には頭を貫かれても瞬時に再生するモンスターもいるようだが、大体の生物は頭を貫かれれば死んでしまう。ゴブリンキングもその類に漏れず辞世の句も読めないまま息を引き取った。
残されたのは、キングを守ろうとして結局のところ全然守れなかった守備ゴブリン達とキングが倒れた音に反応して後ろを見るゴブリン達。
ふむ、キングを倒してもゴブリンが消えないことから奴らはキングが召喚した訳じゃないんだな。俺が見た攻略情報だと殆どが周りのゴブリンを仕留めてからキングを倒したようだから知り様が無かったな。となれば、次にやる作業は残ったゴブリンを殲滅することだな。
再びヤドリギの矢を構える俺。だが、今度は正面ではなく上方目掛けて――
「"200ほどの矢となって雨のように降りしきれ。確実に射殺す必要はない。ただし、俺とオーロラには命中するな"」
念のために保険をかけておいてゴブリンそのものではなく奴らの上に山なりに放り投げた。本来であれば重力に逆らわず一本の矢がなんとなしに落ちるだけだろう。しかし、そこはヤドリギの矢。常識とはかけ離れた結果を願い通りに実現させる。それを見上げ、俺は頬に冷や汗が流れるのを感じながら口角を釣り上げた。
「俺一人で弓使い200人に代わることが出来んのか……」
頂点に達したヤドリギの矢は重力に任せ落下する。その数を瞬く間に200に増やして。――数えたわけではないけれど、あの矢が俺の願いを実現しなかった試しがないから大丈夫だろう――
キングを失ったゴブリンは、頭上から迫りくる脅威に逃げようとするが無情にも矢はさんざめく降り注ぐ。ゴブリンの頭に脚に腕に。何にも当たらず地面に突き刺さったものもある。矢の雨で命を失ったゴブリンもちらほら。命中しながらも生きながらえたゴブリンもいた。ただ、それが幸か不幸かと聞かれると……不幸だろうな。
「仕上げはオーロラさーん」
「――!」
生き残った者はオーロラの追い打ちの魔法を浴びその命を潰えさせた。具体的に言うと、幾枚もの風の刃が動けないゴブリン達を首チョンパしちゃったから。首と胴体が離れればやはり大抵の生き物は死んじゃうのだ。
「うん、お疲れオーロラ」
「――♪」
俺達は目の前の惨状を前にハイタッチした。
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