漬物だけでご飯は無理でしょw

「うわっ……マンドラゴラの浅漬け1切だけでご飯1杯イケるわ……」

「――♪」


 翌日、朝食に並んだのはご飯と昨日少しだけ残しておいた浅漬けと仕込んでおいたマンドラゴラの葉のふりかけ。後はもしこの2つだけでは満足できなかった用としてパックのままの納豆。しかし、それは杞憂に終わった。まーご飯が進む進む。いやぁ、漬物がメインを張れるとは……

 ちなみにオーロラは幸せそうな顔でふりかけをもりもりとかっ込んでいる。俺もすぐにご飯をおかわりしてふりかけをかけ、軽く深呼吸をして口に運ぶ。


「うっっま!?」


 駄目だ駄目だ、これは駄目だ。こんなもの使った日には炊いたご飯が無くなってしまう!なるほど、オーロラがかっ込みたくなる気持ちも良く分かる。一口、口に入れただけでは満足しない。すぐに二口、三口と口が、舌が、脳が求めてしまう。ほら!んなこと考えてるうちにご飯が無くなってしまった。恐ろしい……ふろふきマンドラゴラの時点で何となく察していたが、米とどうしても合う。

 あ、オーロラが2杯目……え、3杯目!?


「ちょっ、食べ過ぎるなよオーロラ!俺もご飯おかわり!」

「――!」


 そうして俺達は競い合うようにご飯をよそっては食べ、よそっては食べを繰り返し、ついには5.5合マックスで炊いた炊飯器が空っぽになっていた。我に返った時には時すでに遅し。約11人前のご飯を食べつくした俺達は揃って腹を膨らませて寝転んだ。勿論、ふりかけも浅漬けも食べつくしていた。


「オーロラ、今日ダンジョン行くつもりだったけど……昼からにしようか」

「――」


 こんなお腹ではいくら順調に進める韮間ダンジョンと言えどどこかで足を掬われるに決まっている。朝と比べて人は増えるかもしれないが、今のところバレてないし大丈夫だろう。それにしても……オーロラにも限界あったんだな。


 さて、寝転んでから30分ほど経った頃スマホから着信音が流れた。発信者を見て見ると武道さんの名前が。はて、何の用だろうか。


「もしもーし」

『おはようさん、譲二さん。どこのダンジョン行っとるかは聞かんけど、調子はいいみたいやな』

「あー、いやその」

『すまんすまん、怒っとる訳ちゃうで?そもそも冒険者がどこのダンジョン行こうが口出すんはマナー違反やからな』

「そう?ならよかった」


 一瞬、本当に怒られるのではないかと寝ながらも身構えたが、大丈夫みたいだ。じゃあただの世間話?でもそれならメッセージでいいはずだよね?


『マンドラゴラ、まだあるんやろ?』


 ブツッ


 ……ヤベェ、視覚外からの火の玉ストレートの質問に反射で電話切ってしまった。この行動を誰が咎められるだろうか、いやない。(反語)これ掛けなおした方がいいよな?なんて思ってたら武道さんから着信が。


「もしもし」

『あ る ん や な?』

「ハハハ、何を言ってるんですか武道さん。マンドラゴラがそう簡単に増えるわけないじゃないですか。冒険者組合に所属している武道さんならお判りでしょう?」

『譲二さん?アンタがそうやって笑う時、何かしら隠そうとしとるの分かっとるで?』


 何で誰も彼も俺の癖把握してるの!?昨日の配信、俺変な笑いしてないよね?ボロ出してないよね?


『言うとくけど、寄越せ言う訳やない。対価支払うから融通してもらえんか?知っての通り、マンドラゴラの薬効はそんじょそこらの薬草と比べ物にならんもんや。……食うとは思わんかったけど』

「美味しかったです」

『見りゃ分かるわい。……無理言うとるのは分かっとる。せやけど、それほどまでにマンドラゴラは重要なんや。所長も言い値でええ言うとるし、出所は明らかには絶対せん』

「待って、尼崎さんも把握してんの!?」

『木原君ならやるでしょう言うとった。そんで、その件を俺に任せたっちゅう訳や』


 そこは俺と武道さんの仲の良さから俺が了承する可能性を少しでも引き上げる算段なのだろう。流石は所長、強かだなぁ。

 さて、この件だが考える限り俺にデメリットらしいデメリットは……出所バレたら不味いかなってくらいか?それが最大のデメリットなんだけど。引き取り手は武道さんが引き受けてくれるらしい。そのデメリットを飲み込めば俺は大した労力をかけずとも大金を手にすることとなる。


「……ちなみに頻度は?」

『せやな……月に1あれば有難いなぁ。勿論、用意できんくても文句は言わへんわ』


 え?月に1本?あの、親分マンドラゴラ結構植えたよね?10本は間違いなく植えて、昨日1本調理して今庭に植えられているのは9本だ。いいの、1本で?なんて言ったら面倒くさいことになりそうだから言わずにおこう。


「うん、いいよ。ただ、本当に情報は漏らさないでね?」

『ホンマか!あぁ、この件は俺と所長、副所長で収めるつもりや。』


 副所長か。対面したことは無いけれど、尼崎さんが上司なんだし大丈夫だろう。武道さんも副所長に懸念があるという訳でもなさそうだし。


「んじゃ、今日早速受け取りに来る?配信お休みの日だし。日中はダンジョン行くから夜になっちゃうけど」

『え?もう用意できるんか?そら、ありがたいけど……分かった。礼という訳やないけど、来る前にスーパー寄るから買うものあるなら言ってや。それぐらいはさせてぇな』

「マジー?それじゃあお願いしちゃおうかな」

『任せとき。ところでなんやけど……』

「ん?」

『なんでそないに息苦しそうなん?何か運動でもしとったん?』


 言えない。そんな貴重なマンドラゴラで5.5合ご飯食べきったなんて言えない。

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