何だこのおっさん!?(談:元おっさん)
「はぁ、どうも」
3人のおっさんの内、先頭を歩くおっさんに顔を合わせるや否や"しっぺの嬢ちゃん"だのよく分からない異名を付けられたが、今俺はオークの解体に忙しいのだ。おっと、オーロラは……流石だ、瞬時に俺の服の中に潜り込んだ。姿は見られていないだろう。ただ、そこに潜り込むのはどうなんだ?男の夢かも知れんが、生憎君、性別女の子だよね?男でそこ潜られても嫌だけどね?
さておっさん達?ぶっきらぼうながらも挨拶をしたんだし、このまま去ってくれれば御の字なんだけど。
「おいおい、そんなつっけんどんな態度するもんじゃねぇぜ?嬢ちゃん、アンタ1人でオーク倒したのか?」
「えぇ、私1人で処理しましたよ?今、見ての通り解体中なんです」
言外にさっさとどっか行けと言っているんだけど、おっさんたちは去るどころか俺とオークの周りに立ち興味深そうに俺の手元に視線を集めている。今更だが、俺もおっさんと言えばおっさんなんだよな。ただ、見た目はうら若き女性なのでおっさんには該当しないよな!
……いや、マジでどっか行けよこいつ等?
「顔面を一発、他の外傷はなし……やっぱり只者じゃねぇ嬢ちゃんだったか」
「……?どこかでお会いしましたっけ?」
「いいや、俺が一方的に知ってるだけだ」
おっさんの口調から察するに俺を見たことある風だったが、俺はおっさんを見た覚えがない。前回潜った時は受付のお姉さんとナンパ野郎くらいしか関わってない。いや、ナンパ野郎の時、周りに人結構いたか?……あぁしっぺの嬢ちゃんってのは俺がナンパ野郎にしっぺしたところから来てるのか。どうでもいいな。
よしよし、ロースの部分が取れた。うーむ、生肉の段階で美味いってのが良く分かる。これはいいお肉だ。これは今日の晩飯の豚カツに使おう!いやぁ、想像するだけで涎が出そうだ。普段は豚カツと言えばお好みソースをかけるのだが、お店風に塩オンリーだったりマスタードをかけるのもいいのかもしれない。あー、大葉やチーズを挿むのもいいな!
「――い?おい?嬢ちゃん?」
「……まだ何か?」
まだいたのか、おっさん達。まだまだ解体には時間かかるんだから俺に構わず先に行って欲しいんだけど。俺の心の平穏のために。
そんな俺の視線を察したのか、先頭おっさんはお手上げポーズをする。
「いや、一緒にどうかと思ったんだがな。おせっかいしちまったな」
「は?待てよ墨岡さん!こんな若い嬢ちゃん1人にすんのかよ!」
「バーカ、山根。そもそもこの階層で1人でこんな簡単にオーク倒してる時点で俺達の手はいらねぇんだよ」
墨岡と呼ばれた先頭おっさんが山根というおっさんの頭を軽く小突く。――いや、小突くにしては音が結構重かった気がする。まぁ、墨岡のいうことは最もだ。この程度のオークが出る階層ならば、俺だけで十分。オーロラが参加すれば引っ掛かる要素はないほどだ。
お、この肉もいい色だ。ひき肉にして麻婆豆腐にするのもいいなぁ。その時は米を大量に炊かねばね!
「ただ聞かせて欲しいんだが、嬢ちゃん明らかに手慣れてるな。普段はどこで活動してんだ?」
「戸中山ダンジョンですね」
「戸中山?あぁ、あの山ダンジョン……エルフが出たって所か」
「えっ!?エルフいたんですかあそこ!?」
「山根ぇ……冒険者ならそういう情報はしっかり把握しとけっていつも言ってるだろうか。しかしそうか。今、戸中山は冒険者でごった返してるっていうからな。エルフに興味なきゃ行かねぇ方がいいわな」
すいません、あなた方の目の前でオークを黙々と解体している嬢ちゃんこそがエルフなんです。しかし、この感じだとバレていないみたいだな。余所行き用にツーンとして敬語にしておいてよかった。ただ嫌われたいわけじゃないからそこら辺はほどほどにしなきゃな。ここらでいい顔してご退場してもらおう。
解体の手を止めて、立ち上がり少しだけ微笑んで見せる。
「御心配して頂き、ありがとうございます。墨岡さんの仰る通り、オーク程度なんてことはありませんから。寧ろ、2匹でも3匹でもどんとこいです」
「ハハハッ!こりゃ豪気な嬢ちゃんだ。普通女はオークと戦いたがらねぇんだけどな!分かった分かった、俺達ぁお邪魔だったな!ほらお前ぇら行くぞ!」
「「はい!」」
ようやくさっさと行けを察してくれたみたいだな。にしてもおっさんの内墨岡と山根と……あと一人名前なんだ?ちょっと気になるじゃないか。
墨岡たちがダンジョンを進み、見えなくなって5分くらい待ったところで、オーロラが俺の服から飛び出してきた。ふぃーと汗を拭くようなジェスチャーは焦ったからなのか、俺の服の中が暑かったからなのかどっちなんだい!?
・
・
・
「いやぁ大量大量!これは巣守さん達におすそ分けできちゃうな!」
「――♪」
「でも1匹でこれだからなぁ……2匹目以降は売っぱらうか」
普通の豚よりもサイズが大きいオークから取れる部位は当然ながら豚よりも多い。いくら大量に取れた所で保存できる場所が無ければ意味がないもんね。正直、1匹だけでもうちの冷蔵庫冷凍庫に入り切るか不安になる。アカオオダイショウの肉も余ってるからね……そっちもおすそ分けしよ。
ん?進行方向から何か聞こえる?金属と金属がぶつかり合うような音。誰かが戦っているのだろうか。俺は興味本位で戦闘音らしき音のする方向へ足を進める。冒険者は基本自己責任だから無理に助ける必要はないのだが、それでも気になるというのが人の性だ。段々と戦闘音が大きく――いや、収まった?
俺の脳裏に先程あった3人のおっさんの顔がよぎる。ぶっちゃけ鬱陶しかったのは確かだったが、悪い人たちではないというのも確か。最悪の事態を想定してしまい、自然と足が速くなる。やがて1つの開けた空間が目に入り、その床には真っ赤な血が流れていた。まさか――!
「いやぁ、まさかオークジェネラルが3体出るとはなぁ」
「ちょっと異常っスね。受付に報告しときます?」
「そうだな、未熟な奴らがぶつからねぇとも限らねぇ。念のため、もーちょいこの階層回っとくか!」
いや、強かったんかい!そして本当にいい人だったよ!?
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