【別に】勝負にカツってね!【勝ち負けとかないけど】
サクッとした心地の良い触感が歯から伝わり、更に甘さすら感じる熱い肉汁が口内を蹂躙する。なるほど、天国はここにあったんだね。隣を見ると、オーロラが幸せそうな表情で俺と同じものを頬張っている。ただ、サイズも同じなので人間でいうフランスパンをカットせずそのまま食べているような感じだ。……顎大丈夫なの?
『オークの豚カツは美味かろう』
『こんな夜に豚カツは酷いよ……準備が面倒だから明日作るしかないじゃない』
『オークは出荷よー』
『そんなー(´・ω・`)』
「お、視聴者にもオークが湧いてるな?狩らなきゃ」
『俺達を豚呼ばわりするんじゃあない!』
『うーん、炎上不可避』
『でもオーロラちゃんに食べてもらえるなら悪くないかも』
『それはワカラナイ』
そんな感じで始まった今日の配信。今日の酒のお供はオークの豚カツだ。オークを狩ってから豚カツが頭を離れなかったからね。揚げ物特有の手間はあったが、何とかそれを押し殺し、作り上げることが出来た。
あっつあつの豚カツにお好みソースをディップして一口でパクり……そしてビールを流し込む。生きててよかったと思える瞬間だ。
『皿が2つあるのは何で?』
「2種類あるからだよ。1つは一般的な豚カツ。も1つは梅しそチーズ豚カツさ!ちなみに梅はすっぱいものを使用しております。甘い梅は嫌いなので」
『わかる』
『むしろすっぱいの苦手なんだが』
『若い人は蜂蜜とかの方が人気なのかね』
「俺は子供のころからすっぱい梅食べてきたからね。甘い梅最初に食べた時は脳がバグった」
ちゃんと味わえば美味しいのかもしれないが、どうにも梅は酸っぱいものという先入観からか、甘い梅は好きになれない。今回、梅しそチーズ豚カツを作るにあたって梅をペースト状にしたのはオーロラだったりする。梅をすりつぶした後、匂いを嗅いでは酸っぱそうな顔をしたのは大変可愛らしかった。
「――♪」
「おっ、オーロラ次は粒マスタード行く?」
揚げ物にはいろんな調味料が合う。唐揚げの時同様、色々な調味料を用意しているのだ。お好みソースにからしに塩。粒マスタードにポン酢。大根おろしや柚子胡椒も用意した。ポン酢より後ろは初めでだったが、さっぱりして美味い。
『しかし山盛りだな……』
『カロリーとか、お考えになられてる?』
『美味しそうだけど同時に胸やけもする気ががが』
「カロリー……?」
「――?」
『あっこれ何にも考えてない顔だ』
『あの、配信するたび結構な量馬鹿食い馬鹿飲みしてらっしゃいますけど、体重とかお腹周りとか……?』
「その質問は悲しみを生むのでやめにしよう」
『あっ(察し)』
『エルフになると太らなくなるのか……』
『そんな馬鹿な』
俺もそんな馬鹿なと言いたいところなんだけど、体重一切変動してないんだよね。勿論、ダンジョン潜ったり日々のトレーニングでカロリーを消費しているのは間違いないのだが、贅肉がつかない。おまけに筋肉もつかないのだからそこは残念。せめて腹筋割れてくれればいいんだけど……
『今更だけど、オークなんだよね。戸中山ダンジョンって出るの?』
『戸中山潜ってるけどオークなんて出ないぞ』
「そりゃ戸中山ダンジョン潜って無いし」
『馬鹿正直に戸中山潜る必要ないもんな』
『戸中山は最近満員御礼だからなぁ』
「他のダンジョンでも肉は取れるんだけどね、やっぱきのことか山菜が欲しいわぁ」
山ダンジョンでは季節外れの物であっても採れる上にそのどれもが一般的な山で採れるものに比べて旨味が違うから潜れないのは惜しいところではある。幸い、冷凍しているものもあるから今すぐに欲しい――ということはないが、オーロラもいる現状すぐになくなる可能性もある。食べたい物には忠実故。
案の定、今潜っているダンジョンについて聞かれたが、オークなんて割とどのダンジョンでも出現するモンスターだ。そいつだけで特定されることはそうそうないだろう。それに韮間ダンジョンも戸中山から結構離れてるからね。
さて、話は変わってTwitterで日々更新している家庭菜園の話題だ。
配信画面の端の方にここ最近のプランターの写真を載せる。
「改めて聞くけどさ……これって普通?」
『普通じゃない』
『一週間でこれかぁ……』
『大葉あと少しで収穫じゃん』
『普通の土に普通の肥料?変なもの入れてない?』
「市販の土と肥料だね。強いて言うなら水やりの時、オーロラが水魔法であげてたりするけど」
『水魔法は生育にあまり影響はないらしいぞ。妖精じゃないけどウォーターウルフってモンスターが水魔法でやっても変わりはなかったらしい』
あぁ、他でもモンスターの力を使った農業とかやってたりするんだ。まぁそっちは本格的なもので畑なんだろうな。
俺の家庭菜園の状況だが、まー順調以上の状況だ。育つのが明らかに速すぎる。コメントによれば大葉はあと少しで収穫できるようになり、他のミニトマト等も茎がぐんぐんと伸びていってる。このままだと1か月以内に実を成すかもしれないらしい。
『オーロラちゃん的には大丈夫なの?』
「――!」
「順調に育って満足そうだよ。オーロラの感覚ではどれも大丈夫らしいけど。で、オーロラが勝手に植えた奴なんだけど……」
俺はそう言い1つの画像を拡大させる。オーロラがこっそりとミニトマトプランターに植えた謎の種の今現在の姿を収めた画像だ。散々Twitterの返信でも言われたことだが、目に見えて分かるほど、ミニトマトの苗ではない。
『蕪?』
『葉っぱの形だけ見れば蕪だけど青緑だなぁ?』
『マンドラゴラか、これ?』
『あー、ホントだ。マンドラゴラっぽい』
「マジで?マンドラゴラ……あぁ、本当だ。それっぽい」
マンドラゴラで調べてみると検索結果に表示されたマンドラゴラについている葉っぱが確かにミニトマトプランターに生えている葉っぱと合致する。視聴者の言ってる通り、マンドラゴラと見て間違いない……のか?
「オーロラ、これってマンドラゴラ?」
「――」
『オーロラはニコニコしている!』
『黙秘を貫くつもりか』
「含みのある笑顔怖いんですが?」
「――♪」
……えーっと、マンドラゴラ。カブが簡単な人間の形をしたような根をしており、ペンで塗りつぶされたような目にのこぎりの様な口がついている。ダンジョンで稀に採取することのできる植物型モンスター。見つけるまでは無害だが、何の対策もせずに引き抜こうとするとその口から凄まじい悲鳴を上げ、聞いた者は良くてびっくりする程度、運が悪ければ気絶して悲鳴を聞いた魔物に殺されることがあったりする。
マンドラゴラは、精力剤・媚薬・回復ポーションの材料に使用することが出来、もしかしたら不老不死の霊薬の材料の一部ではないかと噂されている。
「――らしいよ?」
『厄ネタじゃん』
『成長する前に抜いときな?』
『モンスター栽培してんの?』
『焼却処分しとき?』
『でも栽培成功させれば凄いことになるのでは?』
コメント欄は処分するしないで盛り上がっている。折角植えたものを抜くなんてオーロラが怒るのではないかと思ったが、意外にもオーロラ全く気にしていない。豚カツを頬張ってコメントの成り行きを見守っている。
まぁ視聴者が何と言おうと俺は仮称マンドラゴラは育てるつもりだ。オーロラと育てると約束したからね。それに――
「マンドラゴラって美味しいのかな」
『そっち!?』
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