ダンジョンに行かないと言ったな。あれは嘘だ。
缶詰ビュッフェの翌日早朝、俺は車を走らせいつもの戸中山ダンジョン――ではなく、カーナビの指示に従って少し遠い初めてのダンジョンにやってきていた。早朝にしてはそれなりに駐車数の多い駐車場に車を駐め、車内から見えるそのダンジョンの入場受付は戸中山の倍はあった。
「へぇ、ここが
「――♪」
「オーロラ、ダンジョンに入るまでは隠れててな?」
「――!」
ビシッと敬礼をするとオーロラは俺の帽子の中に隠れる。オーロラが不自由しないくらいに帽子にゆとりを持たせながらも耳が隠れるように調整する。
よし、行くか。初めて潜るダンジョンだから緊張はするが……まぁ大丈夫だろう。車から降り、自動ドアを抜け、受付へと向かう。駐めてあった車から予想はしていたが、結構冒険者いるなぁ。少し視線を集めている気がするが、気のせいだろう。耳も隠しているし今着ている装備は、配信でも見せていなかったネコトカゲというモンスターの皮から作られたレザーアーマーだ。それに配信では手を付けていない髪も今は結んでポニーテールっぽくしている。加えてダメ押しの伊達メガネだ!そうそう俺だと結びつかないんじゃないかな?実際、俺に目を向けてた冒険者も今では自分の世界に戻っている。
ふふん、問題なさそうだな。という訳で、受付のお姉さんの元へ。
「ようこそ韮間ダンジョンへ。初めての方ですか?」
「韮間ダンジョンは初めてです。普段は別の場所で……」
「ん?あ、いえ失礼いたしました。では、Aカードをお預かりしてもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
俺からAカードを受け取り、カードリーダーにぶっ刺し、パソコンを操作するお姉さん。恐らくAカードから俺の冒険者としての情報を調べているんだろう。ということは、俺が木原譲二だと分かるわけで。
あ、お姉さんの動きが止まった。お、片手で口を抑えた。んでこっち見た。気付いたっぽいね。お姉さんはパソコンの画面と俺の顔を見比べると口から手を離し軽く深呼吸。落ち着いたのか、小声で話しかけてきた。
「木原譲二さんですか?その……エルフの」
「そうですね、その木原譲二です」
「え、でも配信ではダンジョン行かないって」
お姉さん視聴者かい!
「フェイクですよフェイク。で、聞きたいんですけど俺だって分かりませんでした?」
「そうですね……最初の印象は細くて美人な人だなって感じで……でも声をお聞きしたらジョージさんのお声に似てるなと。ただ、配信と違って敬語でしたので」
よしよし、視聴者の人がそこまで言うのならとりあえずは問題なさそうだな。強いて言うなら声だけど……意識してないと普段の声が出てしまうから気を付けないと。しかしまさか、配信で敬語を使わなかったのがここで生きてくるとは。
確認が終わったようなので、お姉さんからAカードを返してもらう。分かっていたことだが、入っても問題ないそうなので、早速ダンジョンに入らせてもらおう。あ、そうだ。釘挿しておかなきゃ。
「俺がここに来ていることは秘密でお願いしますね?」
「ご安心ください。冒険者組合もネット民も敵に回したくありませんので」
「そりゃ結構なことで」
怖いもんね、犬もイナゴも。
・
・
・
「うはぁ、ザ・ダンジョンって感じ」
「――!」
ダンジョンに入ると、そこは石壁に囲まれた薄暗い一本道の空間だった。
そう、韮間ダンジョンは所謂クラシックダンジョンと呼ばれる石壁に囲まれた迷路のような空間を彷徨い、少し広い部屋に出たらモンスターと戦い、階層のどこかにある階段を上がるもしくは下がって最奥を目指すという世界で一番存在するタイプのダンジョンなのだ。ちなみに、ダンジョンの開始地点は同時に潜ったパーティごとに異なるらしく、一緒に潜らなければ他の冒険者と鉢合わせることは無い。……道中で遭遇する可能性はあるけど。その時はその時悩もう。
「とりあえず進んでいこうか」
「――♪」
オーロラと一緒にダンジョンを進む。しかし光源が無いはずなのに薄暗い程度で済むのは何故だろうか。流石ダンジョン、謎過ぎる。とは言え、薄暗いのもあまりよろしくないので、Aカードから装備モールで購入したランタンを取り出し、光らせる。これが便利なもので、予め電力なり魔力なりエネルギーを補充しておくと、手に持たなくても自動追尾で辺りを照らしてくれるのだ。高い買い物だったがそれを差し引いても十分な性能だ。
「良い買い物したなぁ、オーロラ」
「――♪」
「うわすごいドヤ顔」
器用にも飛びながら腰に手を当てて胸を張り渾身のドヤ顔。
おっと、そうこうしている内にモンスターが出現する部屋が見えてきたな。なるほど、動く個体が3体はいるな?大人に比べては小さいし。その肌は緑色。あぁ、ただのゴブリンか。
すんごい久しぶりに見たな、ゴブリン。クラシックダンジョンではスライムに次ぐ雑魚モンスターだが、山ダンジョンじゃ出現しないからな。
「オーロラ、あのゴブリン見える?」
「――!」
「いや、あれは俺がやってみるよ。弓を使ってみたいからね」
取り出したるは、装備モールで買った一番安い練習用のプラスチック製の弓だ。同様に購入した普通の矢を番え――百メートルはあろう、ゴブリンの頭部に狙いを定める。……うん、家で試した時も感じたが非常になじむし、よく見える。
「フッ」
短く息を吐き、同時に矢を放つ。放たれた矢は一直線に定められた標的へと向かい寸分の狂いなく、ゴブリンの頭蓋を撃ち貫いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます