ぼくのひめられたちから

「うっそぉーん……」

「――♪」


 百メートル先のゴブリンの頭部を射抜いた俺の第一声がこれだ。そう、自分でやっておいてなんだが、その結果が信じられなかった。だってまともに弓を射ることのなかった俺が、あくまで練習用で買ったプラスチック製の弓と一般的な矢で打ち抜いた。ビギナーズラックでは片付けづらいなぁ!オーロラは拍手有難う。


「グギッ!?」

「ギギャーッ!」


 さて、ゆっくり検証したいところだが射抜いたゴブリンと同じ部屋にいた2体のゴブリンが俺達に気付いて走り出してきた。数日前の俺だったら多少なりビビっていたんだろうが、アカオオダイショウとの死闘を潜り抜けた後だとゴブリン程度なら揺るぎはしない。流れるように再び矢をつがえ、放つ。これも頭に命中し絶命。残り1体はヤドリギの矢を使ってみよう。Aカードから取り出し、弓につがえる。弦を引き、ヤドリギの矢を――?あれ?弓を引くときの抵抗感がない……!?


「折れたぁ!?」


 見事ぽっきり、弓本体と弦の丁度ヤドリギの矢が触れた部分が折れたり切れたりしている。そして、支えを失ったヤドリギの矢は重力に逆らうことなく床へ落ちた。俺は即座に察した。半端な弓は好かない。たちどころに拒絶するとはこういうことね!


「――!」

「オーロラ、いい!まだ大丈夫!」


 ゴブリンが接近するにはまだ距離がある。魔法で仕留めようとしたオーロラを手で制す。プラスチック弓ではヤドリギの矢は拒絶してしまう。ならアカオオダイショウの時同じようにすれば!腰を落として、ヤドリギの矢の軸の部分を掴む。そしてアンダースローの要領で投げ――いや待て。確か俺の願いを聞くんだったよな?じゃあ"貫くな!"と思いながら投げる!

 射られ――いや、投げられたヤドリギの矢は先程の弓と同じ速度・・・・で飛んでいき、ゴブリンの頭部に衝突した。驚いたのが、ぶち当たったゴブリン……後ろに吹っ飛んだのではなく、矢が命中したところを支点に一回転して地面に沈んだ。


「ブ、ギ、エェ……!?」


 訳が分からない、そう言っているような呻き声を上げてゴブリンは絶命した。そんな死にざまを見届けた俺の手にはいつの間にかヤドリギの矢が掴まれていた。やはり戻ってきていたか。


「うっわ、エグイな」

「――」


 ヤドリギの矢で仕留めたゴブリンの死体を確認してみると、衝突した部分がクレーターのように凹んでいた。中身がぶちまけられなくてよかったな、オイ。

 ゴブリンの死体だが、特に有用な素材も剝ぐアイテムもないので放置することに。モンスターの死体は放置すれば消えるからこのままでヨシ!聞くところによると、ゴブリンの棍棒を集めてそれを売る冒険者もいるらしいが、そんなの二束三文だろうに。

 そんなことよりも俺に弓の技術があった件だ。生まれてこの方、ロクに弓を扱ったことは無かった。弓道部に入ったわけでも無かった。それでも上手く扱えたのは、スキルの恩恵だろうか。


 ――スキル。この世界にダンジョンが生まれたと同時に生まれたシステム。それを持つとスキルの内容によっては人知を超えた力を手にすることが出来る。会ったことのある人物だと、ネッコシーが【豪脚】というスキルを持っていたな。

 俺もエルフになる前に1つだけスキルを持っていた。それは【罠隠蔽】。自分が仕掛けた罠をモンスターに気付かれにくくなるという、便利だけどなんかこう、反応に困るスキルなんだよね。戸中山ダンジョンな様なところだと役に立つんだけど、クラシックダンジョンだとトラバサミは目立つから使えないんだよね!そもそも隠せない。


 さて、このスキルだが先天性に持っている人もいれば後天的に取得することも可能だ。まずは地道に努力する。剣道を上達させれば【剣術】スキルを得ることもあるらしい。要するに今までの経験を積み重ねてスキルに昇華されるパターン。

 次はモンスターを倒した時。ゴブリンを倒して得ることもあれば、アオオオダイショウを倒して得ることもあるらしい。これは強ければ強いほど可能性が上がるらしい。アカオオダイショウを倒した俺が何もないのはそう言うこと。

 次、特別な装備を装備すること。宝箱から出てくる特別な剣を装備すれば先述の努力して入手を嘲笑うかのように【剣術】スキルを取得できる。まぁその代わり、【剣術】スキルを持った剣を手放せば装備した人からもスキルは消失するけど。また、マジカルマッシュルームやスキルの書と呼ばれる巻物を消費してスキルを得るなんてこともある。まぁマジカルマッシュルームは思いっきり博打だけど。


 さっきの俺の弓を扱いからするに【弓術】スキルを持っていなければおかしいほどだが、韮間ダンジョンの受付で確認した時に俺のスキル欄にはそのような記述は無かった。ただ、エルフになったことでスキルは増えていた。

 まずは【肉体強化】。詳細な説明いる?細腕なのにリンゴを容易く握りつぶせるのはここから来ているのか。もしかして男の時の筋肉を消費してこのスキルに昇華された……!?

 問題は次だ。その名もスキル【エルフ】。見た時「???」ってなったね。健康診断の時、一緒にスキルを確認した粒源先生も「意味わかんないねぇ」とあいまいな笑みを浮かべていた。俺も今の今までよく分からないままでいたんだけれど、弓の技術から1つの結論に至った。


「種族スキル的なやつか?」


 要するにエルフが出来ることが出来るようになると。思えばエルフになってから野草の場所とか妙に分かるようになったし、木々を跳び回ったりもののけ姫ばりの動きを出来るようになったり――極めつきは弓。創作で語られるエルフが出来て当たり前なことが出来るようになっていた。もしかしたら、まだ気づいていない能力があるのかもしれないね。


「粒源先生に報告しておいた方がいいかな?……帰った後にしようか。よし、オーロラ!」

「――?」

「今度はオーロラの格好いいトコ、見せてもらおうかな!」

「――!」


 任せんしゃいと言わんばかりに腕まくりをし力こぶを見せつけるオーロラ。ん、んー?力こぶ……ある?え、あるの?触ってみろ?わぁっ……ぷにぷにしてる……

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