目覚めてないよ?ホントだよ?
「何?目覚めたん?」
「目覚めてないです!」
大丈夫、完全に扉を開き切ったわけではない。少し、ほんの少し隙間を開けて中を覗いただけだから。だから武道さんはそんな変なものを見た様な目で見ないで。そしてオーロラは元の格好に着替えた俺に残念がらないで。
それよりも……オーロラはどんだけ商品買ってきたのよ、立派な御山が2つ出来ちゃってる。ついてった従業員すごい慎重にカート押してるじゃん。
「――!」
「どれくらい使ってもいいか分からなかったから、いいと思った商品全部持ってきたの?」
「一応言うとくけど、ちゃんと店員さんにどないな商品か聞いとったで」
オーロラは賢いからね、そこら辺は信頼している。それでも何を持ってきたかは確認させてもらおうか。ふむふむ、中に水を入れて魔力を込めるだけでお湯が沸く水筒。料理の匂いの拡散を防ぐ蚊帳のようなもの。酒。消臭消音機能付き携帯トイレ。開けると発熱し、温かい状態で食べることのできる缶詰。酒。モンスターの肉で作られたジャーキー。酒。スナック菓子。カップ麺。タブレット端末。
「普通に便利なものも買ってるし、ちゃんと自分が欲しい物も買ってるからツッコみ辛いな?」
「強いて言うなら食いもん系が多いよなぁ、あと酒」
「酒は配信でも飲むからね。ある意味一番大事なもんだよ」
お菓子を買ってるうちは、従業員の2人は微笑ましく見ていたそうなんだが、酒をどんどんとカートに載せていく様には若干引いていたそうな。武道さんに「オーロラ様は妖精なんですよね?」と繰り返し確認したらしい。
しかしオーロラ、本当に色んなもの買ってきたなぁ。追加で何か買わなきゃいけないかと思っていたが、オーロラが持ってきたもので十分事足りるな。あとは何か必要な物……そうだ。聞いてみよう。
「店長さん、俺のベルトみたいなダンジョンの宝箱から出るようなアイテムって取り扱ってるんです?」
「申し訳ございません、当店では取り扱いは無いですね。売ってみたくはあるのですけど」
「そもそも売る奴は滅多におらんからなぁ」
それもそうか。俺も尼崎さんにアイテムを高額で売らないかと催促されたが断った。
武道さんの追加情報によると、一番可能性があるのは冒険者組合が取り仕切っているオークションなんだとか。
「何か欲しいもんでもあるん?」
「や、認識阻害できるアイテムがあればなって」
「あー……そら滅多に出回らんな、俺も見たことないわ」
そりゃ残念。それがあればスカートなんて着なくても気軽に外に出れただろうにね。今後出てくれればいいんだけどな。仕方ない、今あるものでバレないようにしなきゃな。……そうだ、耳を隠せる帽子も買わなきゃだ。
「すんません、耳を隠せる帽子って――」
「こちらにございます」
言い切るよりも先に俺の眼前に差し出された複数の帽子。そのどれもがデザインが異なり、中々におしゃれだ。うん、全部買わせてもらおう。
後は……そうだ、武器だ。
「弓、見せてもらえますか?」
「かしこまりました。それではこちらにどうぞ」
そう案内された弓コーナー。予想通りというべきか、弓コーナーは刀剣や鎚、長柄武器といったものと違って明らかに陳列されている商品の数が少なかった。効率悪いもんな……矢も消耗品でお金がかかるし。
ただ、良い物は揃えているようで最高値で三桁万円の弓を置いているのは流石だ。まぁ、今回、それを買うつもりはないんだけど。
「じゃあ、これとこれ下さい。あと矢を10本ほど」
「え?……いえ、失礼いたしました。こちらとこちらですね?」
藤田店長が怪訝そうな声を上げるが、当たり前かもしれない。俺が購入するのは、一番高くて性能がいい弓ではなく、一番安いプラスチックで作られた練習用の弓と質のいい木々鹿の角から作られた中くらいの値段をした弓だ。
目的はヤドリギの矢が弓で撃てるのかなって思って。鑑定の結果では"半端な弓は好かない。たちどころに拒絶するだろう。"とでた。どれくらいの弓であれば拒絶するのだろうか、またどのように拒絶するのか実験する必要があると思ったからだ。もし、拒絶というのが弓の破壊なら……一番高い弓は避けておきたかったからね!普通の矢を買ったのは、ヤドリギの矢を試す前の練習用としてだ。だってほら、エルフになったんだから弓で矢撃たないと感はどうしてもあるじゃん?
・
・
・
「――♪」
「ホンマにスカート買うんかいな」
「実際変装にはいいからね……背に腹は代えられないよ。オーロラも気に入ったみたいだし?」
「そないなこと言って本当はノリノリちゃうん?」
「ノリノリではないよ?ただ……嫌悪感は正直無い。エルフ化した影響なのかも」
只今、会計中なんだけどオーロラが持ってきた商品がそれはそれは大量だったのでレジの人必死に商品をスキャンしている。オーロラが周りを飛び回って応援しているので何とか頑張っていただきたい。
にしても大量購入したものだ。どんどん合計金額が増えていく様は何日か前の俺からしたら考えられない。
「……足りるよね?」
「余裕で足りるやろ。気持ちは分かるけどな――っと、終わったみたいやで」
「大変長らくお待たせいたしました。えーっと、――万――円でございます」
あくまで冷静を装い、表情を崩さなかった自分を褒めて欲しい。え?俺の人生で一番の買い物更新されちゃったよ。や、確かに所持金額で言えば余裕で支払えるんだけど、小市民だった俺からしたらレジにこんな額が表示されるのは初めてだ。
「あのー、ジョージ様?お支払いは現金でしょうか?」
「あ、キャッシュレス決済で」
「あぁ、カードですね。それではお預かりします……え?」
うん、その反応は最もだ。なんせ俺は財布からクレジットカードを取り出すわけでも無く、財布、またの名を幸福の蛇革財布――をキャッシュレス端末にタッチした。その結果、支払いが完了したことを示す電子音が鳴り響いた。マジで払えてしまったよ。そして決済の後に出てくるものと言えばレシートなんだけど、長い長い。1ロールとまでは行かないまでも、結構出たな。
大量購入した商品だが、やはりというべきか、武道さんの車では乗り切れないので後日発送と言う形となった。あ、服兼装備は持ち帰りね。出来るだけ早く検証したいからね。
そして最後に今回わざわざ出勤してくれた従業員たちにお礼の意を込めて何かできることは無いかと聞いた所、写真を撮らせてほしいとのことだったので、それならいくらでもと各従業員それぞれとツーショット。あとTwitterで宣伝用に全員(武道さん抜き)で集合写真を撮ることになった。本当にこれでいいの?え?なんで一部の人泣いてんの?
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