違う自分がそこにいた

 俺の目の前に吊るされてあるのはスカート。うん、街中で女性がよく着ているあのスカートだ。それもミニスカート。え?ここ山ダンジョン装備コーナーだよね?藤田店長が案内するところ間違えたかな?そう思って周りを見ても問題なく山ダンジョン装備が並んでいる。

 しかもこのスカート、1つだけなら「あっ他のお客が戻すの面倒くさくなって適当な場所に戻したんだなー」って思えたかもしれないが、ズラーっと並んでらっしゃる。ここから導き出される答えは……これも山ダンジョン装備ということになる。念のため、恐る恐る藤田店長に聞いてみた。


「あの、店長さん?」

「はい」

「これスカートですよね?」

「そうですよ?興味がおありで?」


 もしかしてスカート割と当たり前なのか?戸中山ダンジョンってあんまり女性冒険者来ないんだよな。いやでも、この前遭遇したネッコシーさん、彼女はズボン履いてたはずだからみんながみんな履いてるわけじゃないはずだ。

 でもスカート?ダンジョンじゃなくても山に入るのにスカートはどうなの?


「山に入るのにスカートなんです?」

「男性だったジョージ様はあまり馴染みがないかも知れませんが、ファッションとしてダンジョンに潜るのにスカートを履かれる冒険者の方も多いんですよ。こちらのスカートも山用に設計されたもので、履くだけで足を守ることが出来ます。それにダンジョンだけではなく、普段使いとしても着用されるお客様は多いですね」


 ダンジョンに行くにもファッションにも重きを置くのか……世の女性は凄いな。まぁ俺には縁のないものだ。気持ちを切り替えて、改めて装備を見て回ろうとした俺の視界に、それは映った。

 俺についてきた従業員のうち、女性従業員の皆さんがそれはもう素晴らしい接客スマイルで様々なスカートを持っていた。対して男性従業員は少しだけ同情するような愛想笑いを浮かべている。


「一応聞きますけど……そのスカートは?」

「ジョージ様にお似合いかと思いまして」

「や、あの……俺はズボンで――」

「お待ちください、ジョージ様。これはある意味ジョージ様に必要なことなのです」


 ん?俺に必要なこと?冗談かと思ったが、藤田店長の目は真剣そのものだ。ふざけているという訳ではなさそうだ。ここで突っぱねるのは失礼かもしれないな。聞いてみようか。


「必要なんですか?」

「はい。ジョージ様は配信で女性らしい服装をしない旨を公言していますよね?」

「可愛い服を着ないとは言った気がするな……」


 質問コーナーの時だったか。オーロラに服を送ってもいいかという質問の時に俺に流れ弾が来たから咄嗟にそう答えた気がする。


「そこで敢えて女性らしい格好をすれば外出しても道行く人々はジョージ様と結びつかなくなるかと」

「そうなります?」

「絶対とは言えません。ですが、ジョージ様……いつまでも本日のような外出をされるつもりですか?」

「うっ……」


 図星の言葉の槍が心臓に突き刺さった気がした。た、確かに俺は今ここのスタッフさんや武道さんにこんな深夜に買い物なんて常識はずれなことをして迷惑をかけている。そもそも俺が身バレを恐れて外に出れていればこのようなことにはならなかった。藤田店長の言う通り、ダンジョンに潜る以外隠れるような生活をいつまでも続けるわけには行かないのではないか。

 冒険者が聞いて呆れるな。ダンジョン以外でも冒険せずして何が冒険者か!


「店長さん……俺、女性らしい服装なんて分かりません。協力して頂けますか?」

「勿論です!私共にお任せください!配信の中のジョージ様と結びつかないような装備をご用意いたします!」


 おぉ、藤田店長並びに女性従業員の皆さんがとても頼もしく見える。彼女たちに任せれば問題ないだろう。おや?居心地悪そうな男性従業員がこちらに近づいてきた。


「あの、ジョージ様。私達は男女兼用の装備をお持ちしますので……」

「……そうじゃん。すいません、お願いします」



「まずはデニムミニスカートとこちらのシャツはいかがでしょう!活発な女の子に見えるかと!」

「脚がスースー……いや、ベルトのおかげでスースーしない!?」


「やはりスカートと言えばフリフリなものでしょう。上もフリフリにして……よし。ただでさえジョージ様は普段から男らしい仕草が目立ちますから、これを着て静々と動けばバレないかと!」

「否定できない自分がいる……」


「レディーススーツで出来る女っぽさをアピール!あ、こちら伊達メガネです。いいですいいです。メガネの相乗効果で魅力倍プッシュです!」

「いや、流石にスーツでダンジョンに潜る人はいないでしょ」

「専業の方ではいないですけど、兼業でダンジョンに潜られる方には重宝されるんですよね……仕事帰りにストレス発散でダンジョン――なんて」


「ロングスカートもいいですよー?こちらのトップスも合わせて……こちらのバッグもってください。あー、これスカウト必至」

「これ走れないんじゃ……?え、動き阻害しない!?」


「こちら迷彩柄の装備となっております。山ダンジョンでモンスターから隠れて猟をするなら打って付けかと」

「ズボン安心する……!」


「ショートパンツもいいですね。こちらの革装備と合わせれば――あぁ、まさにエルフ!ジョージ様、こちらの矢筒と弓持ってください!あっエルフ!」

「エルフですけども?でもこの装備いいですね、動きやすい」


 その後も俺は代わる代わる持ち寄られてくる装備を着替えては脱ぎ、着替えては従業員の皆さんに眺められを繰り返し、オーロラのファッションショーのようだった。途中から俺もツッコミを交えながらも、楽しさを覚えていた。そんな所で


「譲二さん?なにしとん」

「――♪」


 沢山の商品が積まれた2台の大型カートを押した2人の従業員を伴った武道さんの呆れた声とオーロラの楽しそうな声で俺は我に返った。何やってんだ俺!?

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