帰るのだって一苦労

「ふぅむ、どれもこれも優秀なアイテムを見つけたようですね。念のためお聞きしますが、こちらで買取も出来ますが、どうしますか?」

「売る気は微塵もないですけど、売ったらどうなりますか?」

「そちらの査定書に0が増えますね」


 あ、尼崎さん目は笑っているけれど、言っていることはガチだ。それ程までに俺が見つけたアイテムたちは価値があるのだろう。お金に困っていれば買取してもらうのも手かもしれないが、素材の買取金額だけで俺は十分だ。持ち帰らせてもらおう。


「さて、これにてお話は終了――と行きたいところですが、木原君あなたどうやって帰るつもりですか?」

「どうってそのまま車で……ねぇ?」

「――?」


 尼崎さんの言わんとしていることが分からないので、オーロラと顔を合わせて首を傾げ合う。友風さんから何やら押し殺すような声が聞こえた気がするが、気のせいだろう。そしてそんな質問を投げかけた尼崎さんは呆れたように額に手を当てやれやれと頭を振った。


「君たちは今や時の人、有名人です。そんな君たちが普通に外に出て普通に車に乗って帰ったら間違いなく追って住所を特定しようとする輩が出てくるでしょう」

「あー……」


 間の抜ける声を出してしまったが、ダンジョンから戻ってきたときの他の冒険者たちの反応からするに否定することはできない。


「なので、今から君には変装して、裏口から我々職員誰かの車に乗って帰っていただきます。その時には何人かの職員を残して一緒に複数台の車で出発しますので、君は少し遠回りをして家に帰ってください。完璧に逃れられる保証はありませんが、どうしますか?」

「いや、そこまでしてもらえてありがたいですけど……なんでそこまで?」

「理由は2つ。1つは他の冒険者たちがモンスターを倒すことに重きを置いている中、君は昔から薬草を納品し続けていることで、こちらは助かっているのです。それに少しは報いたいと思いましてね」


 おっと?いきなりそんな面と向かって褒められると照れるじゃないですか。いやだなぁ、俺はただモンスターと面と向かって戦う勇気がなかったから罠を張ってその最中に薬草を集めていただけなんだけどな。――食べる用の野草の優先度の方が高かったけど。


「もう1つは……君が今後も来続ける様になってくれればうちのダンジョンも活気が増すかなと」

「俺客寄せパンダですか!?ってかそっちがメインでは!?」

「ホッホッいやいやそんなそんな」


 冗談だよな?空気を和ませるための冗談だと思っていいんだよな?

 さて、そんな訳で俺は職員の車……武道さんの車を借りることになった。武道さんのなら何回か乗ったことはあるから気が楽だ。逆にこの戸中山ダンジョンの駐車場に置いていく俺の愛車は後日、武道さんが乗って俺の家まで届けてくれることになった。ちなみに俺のキャンプ道具は複数回に分けて宅急便で送られることになった。アカオオダイショウのお肉の一部とマンガ肉の骨はそのままお持ち帰りすることに。食べたいからね!

 あとは変装だが、事前に話が通っていたのかさっさと友風さんが持ってきてくれた。


「じゃあこれ制服ですので。オーロラちゃんは服の中に隠れてもらえる?」

「――!」

「あぁ、新品くれるんだ。洗って返すね」

「そのまま持ってても大丈夫ですよ?ほら、やむなく冒険者を辞めるようになったらうちで採用しますので」

「洗って返すね!!!」



「ふへぇぁ……玄米茶が美味い」

「―~……」


 帰宅して肉や骨を冷蔵庫にぶち込んだ俺は、すぐさま湯を沸かし俺とオーロラ2人分の玄米茶を淹れて2人で一服した。

 何とか……何とか帰って来れた。冒険者たちもこちら側のしようとすることを察していたのだろう、少なくない人数が職員用駐車場で待機していた。俺は事前に言われた通り、作戦決行前に職員全員に渡された普段の職員は被っていない帽子を目深にかぶり、顔を伏せて声を発さず、車に乗り込んだ。いやぁ、尼崎さんの懸念通り結構な数の職員の車が出たはずなのに何台か追いかけてきたよ。そこは遠回り+俺の華麗なるドライビングテクニックによって何とか撒くことは出来た。

 ただ……なんだろう、アカオオダイショウ討伐並みに疲れた。肉体的というより精神的に。うん、今日は配信休みにしといてよかった。


「それじゃオーロラ。今日は簡単にカップ麺とかにして、ゆっくりするか」

「――!」

「え?ちょい足ししたい?いいけど……俺もカレーヌードルにチーズぶっかけるかな」


 のんびりとダンジョンに潜って酒飲みながら配信して、いつまでもこんな生活が続けられればいいなぁ……いや、無理か。

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