なんかもう、ヤバいらしい
俺達が案内されたのは、所長室。見るからに高級そうな机に対面するように置かれたソファ。座るように促されたので、遠慮なく座らせてもらおう。アイテムの鑑定とアカオオダイショウの素材の買取ということで、所長室に入る前に既に矢・財布・ベルトは友風さんに預け、鑑定しに行ってもらっている。
「それでは早速話に入りましょうか。事前に武道君から聞いておりましたが、アカオオダイショウの素材は、肉や鱗を一部引き取ってそれ以外は買取でよろしかったですか?」
「はい、それでお願いします」
武道さんに引き取ってもらった時は、急いでどれくらい買い取ってもらうか言ってなかったからね。ラインで送っておいたのだ。――まぁ、他の冒険者のゴネのせいでいくらか買取価格は減っているだろうが、しょうがない。あの時の優先順位は配信が上だったのだ。反省も後悔もしていない。
「分かりました。それでは、こちらをどうぞ」
そう言って尼崎さんが差し出してきたのは所謂買取査定書だ。俺は少し緊張しながらもそれを受け取り金額を確認する。あれだけ命の危機に直面したんだ、少しぐらい大金が入ることを願ってもばちは当たらな……うん?0が1、2、3、4、5、6……!?
「え、ちょっ尼崎さん!?これ!?」
流石に計算ミスか誤字では!?そのつもりで尼崎さんに査定書を突き出すと、彼は不思議そうな顔をし――恐ろしい事を述べた。
「おや、低かったでしょうか?」
「低くないですけど!?なんでこんな高額なんです!?」
「なんでと言われましても……アカオオダイショウの素材は優秀なのですよ。それこそ、アオオオダイショウとは比べ物になりません。残念なのは、牙や眼が無かったことです。あればもう少し金額は上がっていたのですが」
そう言えば、あの時一心不乱に矢をぶん投げてアカオオダイショウの頭丸ごと消し飛ばしちゃったんだよね。ああでもしなければ死んでいたからそれ自体はいい。ただ、頭残ってたら更に金が入ってたのか。
ん、いや待て。もしかして、あの時冒険者たちに約束した素材の一部を報酬に加えるというのが抜けているのでは?
「念のためですが、既に武道君に同行していた冒険者たちへの報酬の引き渡しは終わっていますよ?前払い分の素材、鱗2枚をね。とは言え、アカオオダイショウのサイズがサイズですから、差引は微々たるものです。良かったですね、大金持ちですよ?」
「……冒険者してたら大金なんてすぐ消えるの知ってるくせに」
恨みがましい目を向けるが、尼崎さんには柳に風のようで飄々とした笑顔で返された。そう、冒険者というものは、確かに一攫千金も狙える職業だが、出費も相応にあるのだ。その最たるものが装備だ。いい防具を買い揃えようものなら1万とか10万とか平気で飛んでいくからね。俺が男の時に着ていた装備も中古ではあったが5万円はした。それプラス消耗品のポーションまで買う必要もあるからね。過酷なダンジョンに潜っている冒険者たちの中では一日で100万飛んでいくことも珍しくないらしい。
「まぁまぁ。木原君もその姿になってから防具見直してないんでしょう?この機に良い物を買ってもばちは当たらないのでは?」
「それはそうですけどね」
改めて俺は今自分が着ている装備を見直す。最低限の防御性能を持った貸出用の防具がボロボロになってしまっている。アカオオダイショウが現れたのは超絶イレギュラーだったとはいえ、使い続けるわけにはいかないだろう。うん、尼崎さんの言う通り装備買うかな。
と、決心したところで所長室の扉をノックする音が。扉の外から聞こえたのは友風さんの声だ。鑑定が終わったのだろう、尼崎さんが許可することで、友風さんは入室。トレイに載せられた矢・財布・ベルトを俺の目の前の机に置いた。ん?鑑定結果が書かれているであろう紙を持った友風さんの表情が何だか変だ。
「え、えーっとですね。鑑定終わったんですけど……ジョージさん鑑定結果比較的ヤバくない物から発表しましょうか?」
「何その提案。暗にヤバい物あるって言ってるようなもんじゃん!?」
「あー、その、害あるものじゃないです。それは間違いないです!」
……まぁ、財布とベルトは日常で使えるものだから呪いが無いと分かっただけでも幸いか。少し釈然としないものを感じながらも友風さんの提案通り、ヤバくない物から説明してもらおうことにした。
「最初はこれ。アイテム名、赤大蛇の帯皮です。効果はサイズ自動調整と装着者に温度耐性のスキルを与えます。ただ、火の中を通り抜けても大丈夫!氷漬けにされても大丈夫!という訳じゃないので注意してください。」
「つまりは夏や冬でもそれ装備してれば暑すぎない寒すぎないってこと?」
「そういうことですね。真夏の工事現場とかで重宝されそうですね。後、ベルトだけあって鞭っぽく出来ますね」
地味だが中々優秀なベルトだったわ。鞭として使うことはないだろうけれど、ダンジョンのみならず、普段使いしてもよさそうだ。で、これでもまだ3つの中で一番ヤバくないの?
「続いてはこの財布。アイテム名、幸福の蛇革財布です。なんとこの財布、無限にお金が入ります」
「は?」
「クレジットカードを入れれば財布ごと対応端末にタッチすれば決済されます。クレカ支払いじゃなくても自動的に財布の中から引き落とされます」
「おサイフケータイ機能財布?」
「現金支払いの場合、取り出したい金額を望めばピッタリのお金が出て来ます。海外で支払いの時は自動的に外貨に変換されます」
「便利だなオイ」
「ポイントカードを出さなくても自動でポイント付きます」
「ええ?」
「勿論、改札口にタッチしてもICカードと同じ様に決済されます」
「何でもアリだなこれ」
「更には盗難されてもすぐに所有者の手元に戻ってくる機能。そもそも所有者以外財布の中に手を入れられない機能もあります」
「驚かなくなってきた」
「あと、所有者に幸運を与える――そうです。まぁ幸運値なんてステータスないから眉唾物ですけどね」
という友風さんの言葉で締めくくられたが……この財布、便利の塊すぎないか?見た目は本当にただの蛇革の財布に過ぎないんだけど、人によっては大枚をはたいてでも欲しい一品だろう。なんせ無限に金が入って盗難防止機能もバッチリ。これがあれば金庫も必要ないだろう。
あとで早速アカオオダイショウの買取金をこの財布に入れよう。
でだ。いよいよ最後の矢。薄々どころか案の定分かっていたが、矢が一番ヤバいんだね。
「では、最後こちらの矢なんですけど……読み上げます。アイテム名、ヤドリギの矢。」
うん?思ったよりも何というか、弱そうな名前だな。言うなれば木に寄生してる木だよな?とりあえず、ここで話を折っては進まないので口出さないでおこう。
「この矢は主の意を汲む。貫けと願えば貫く。弾けと願えば弾く。追えと願えば追う。爆ぜろと願えば爆ぜる。この矢は主の元へ疾く戻る。決して壊れず、決して歪まない。対価は願いに応じた魔力。そして半端な弓は好かない。たちどころに拒絶するだろう。――です」
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