正直ここまでとは思っていませんでした
喧しいほど賑やかなスマホから流れる目覚ましの音楽に少々の殺意を覚えながら、ぼやける視界の中でスマホを確保。アラーム音を解除して乱暴に腕で目を擦り、開く。知らない天井――じゃないな、テントの屋根だわ。
抗えない欲求に任せ、大きく欠伸をしながら周りを見渡してみると、オーロラがいないことに気付く。今日の目覚ましはいつもよりも早い時間に設定した。通常であれば、オーロラは夢の中のはずの時間なのだが、珍しくその姿がない。
「……オーロラ?」
ポリポリと頭を掻きながら、改めてテントの中を見るが、やはりいない。やがて眠気から覚醒し、思考が働いてきたところで、外からパシャパシャと水の音が聞こえる。その時点で察した俺は、軽く安堵のため息をつき、テントの入り口を開ける。
「うおっまぶしっ」
不意に飛び込んできた朝日の眩い閃光に思わず腕で目を覆う。ゆっくりと腕を上げ、目に光を慣らし、改めて水の音が聞こえた方へと目を向けると――
「――♪」
思った通り、オーロラが湖で水遊びをしていた。朝日を反射させ、キラキラと輝く水面を歩くように飛ぶオーロラ。その光景は幻想というほかない。そのオーロラの楽しそうな様子から、さっきすぐに起きたという訳ではなさそうだ。いつから起きてたんだろうか?そんな疑問を持ちながらも俺も湖で顔をさっと洗う。冷たくて心地いい。目もバッチリ覚め――やめなさい、オーロラ。水を掛けるのは止めなさいオーロラ。
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「ごちそうさまでした」
「――♪」
今日の朝ご飯は簡単にサンドイッチ。中に挟むものはお好みで俺はチーズとハム。オーロラはジャムをしっかりと塗りたくっていた。
さて、これからの予定だが、まぁ難しい事は何もなくキャンプ道具を片付けてダンジョンから出るくらいだ。もし、アカオオダイショウの解体が終わっているのならそれの受け取り。あと、宝箱から出てきた財布やベルト、謎の矢も鑑定してもらわなきゃな。そんでそれが終わったら家に帰ってゆっくりとしよう。今日は配信も休みで自堕落に過ごそう。
「さ、オーロラ。ちゃちゃっと片付けるから手伝ってなー」
「――!」
オーロラにはテーブルの拭き掃除だったり小さいゴミの片づけをしてもらっている。流石にテントとかの大きいものを持たせるわけには行かないからね。出来ることをやってもらおう。……ただ、少し思うんだ。もしかしたらオーロラなら魔法とか駆使してテーブル片手で持ててしまうのではないかと……いや、流石に考え過ぎか。さーて、とっとと撤収撤収!
・
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「すげぇ!本物のエルフだ!」
「うわー、マジでいるんだ」
「押さないでください!近づかないで!」
「キャーこっち見て―!」
「俺とパーティ組んでくれー!」
「オラァ!勧誘行為は禁止って言っただろうがぁ!テメェ面覚えたからなぁ!」
何 だ こ の 状 況。
いや、実は寝る前にね、武道さんからメッセージが来てたのよ。「もし帰る時には絶対に一度報告せぇよ!!!!」って。そんなビックリマーク強調されたら報告せざるを得ない。という訳で「✌今から帰りまーす✌」って送ったのね?したら即既読ついたんだけど返信なかったのよ。朝4時ともなれば読んで二度寝したのかなと思って俺も深く考えなかったのよ。
で、ダンジョンから受付に戻ったらこの状況という訳よ。俺の方に向かおうとする冒険者たちに、それをさせまいと横に並び通せんぼをする男性職員。俺は早朝5時に何を見せられているんだ?ここはラグビー場じゃったか?
そんな状況なので俺もオーロラもポカーンとするわけで。そこで俺達を正気に戻したのは受付の方から聞こえた聞きなれた声だった。
「ジョージさん、オーロラちゃん!こっちです!!」
「お、友風さん」
「――」
両手を振ってアピールする友風さんの姿に少し安心した俺達は手を振り返すことで、それに返した。
「わー、手を振ってくれたーじゃないんですよ!こっち来て!早く!」
「アッハイ」
怒られてしまったので、大人しく受付の方に向かうことになった。受付には友風さんともう1人。ニコニコと人のいい笑顔を浮かべて背筋をピッタリと伸ばした禿げたお爺ちゃんの尼崎さん。俺はこの人の事は知っている。簡単に言うと、この山ダンジョンの職員で一番偉い人――つまりは所長さんだ。
「あー、お久しぶりです尼崎さん」
「ホッホッ、そのちょっと後ろめたいことがある時の笑い方。美人さんになっても変わりませんねぇ、木原君?」
「い、いやぁまぁそのぉ」
俺、骨格レベルで顔変わったはずなんですけど!?
「この騒動については……まぁ、君が全面的に悪いわけじゃない。ある意味では被害者ですし、目を瞑りましょう」
「あ、そりゃどうもです」
「武道くんから聞いています。鑑定してほしいものがあるんでしょう?別室でお話ししましょう。あと、アカオオダイショウの素材の買取の件もね」
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