【オーロラ】キャンプ配信・夜の部3【オンザステージ】

『ぃよっしゃあああああああ!!』

『キターー!!』

『この日のためにブルーベリー食べてたきた』

『俺はサウナに行ってキメてきたから』

『俺なんて衣装贈ってたからな?』

「なんやこいつら」


 開始の宣言をしただけでそれはそれは凄い盛り上がりだ。俺自身ちょっと引いているレベルだ。それに合わせてTwitterでもオーロラのファッションショーが始まる旨を宣伝したところ、視聴者が一気に増えた。恐るべし、オーロラパワー。


「――!」

「はい、いってらっしゃーい」


 さて、オーロラは一旦準備のために画面からフェードアウト。設営したテントの中に入っていく。その代わりに俺がクーラーボックスから例のブツを取り出し、テーブルに設置したまな板の上に置く。そう、今晩の主役――と言いたいところだけど、真の主役はオーロラなので二番手のマンガ肉だ。だが、それでも十分にインパクトがあるだろう。


「どうだ!これが500g15万円のティラノサウルスのお肉だ!」

『わぁすごい』

『おおきいね』

『はよ焼いてもろて』

「リアクションの差!」

『そら(食べられない肉の映像より)そう(見て楽しめるファッションショー)よ』

『ちゃんと回しながら焼くんやで?』

「分かってるよ!」


 事前にマンガ肉の焼き方は予習済みだ。焼くためのキットもご親切に付いていたから有難く使わせてもらおう。バーベキューコンロとは別に焚き火を用意して地面にマンガ肉を支えるために先っぽがY字型に分かれた支柱を炎を跨ぐように地面にぶっ刺す。そのYのVの部分にマンガ肉を置き――骨の片側にドリル付きのハンドルをねじ込んで完成!

 初めて設置したはずなのに懐かしさと高揚感を感じさせるなぁこれは。理由は分かっているんだけどね。


「あのゲームまんまだわ。ちょっと感動」

『そりゃまぁ、あのゲーム自体子供にゲームとはいえモンスターを狩りながら生活をするってのを味合わせるものだからね』

『最初は教養のためのゲームだったのに人気タイトルになってる件w』

『冒険者気分味わえるもんなぁ。大人の俺でもやってるもん』


 子供の頃は、ゲームの中のキャラクターが骨付き肉を焼いて噛り付く場面は食欲をそそられたものだ。――まぁ、キャラクター自身はモンスターが蔓延るエリアで飯を食べていても味を感じる余裕はなかったかも知れないが。


『ってか本当に画面端ィなのね』

『肉大きいのにちっさ』

「そりゃ、こっちが目立っちゃオーロラのファッションショーの邪魔になるでしょうが」

『それはそう』

『え?マジでジョージは肉焼いてるだけ?』

「焼きながら進行するだけだね、じゃないと焦げるじゃん。……ドッキリとかなく俺はこの服のままだから」


 なんて言ったらコメントが阿鼻叫喚となったのだが、知ったこっちゃない。悪いがこれに関しては慈悲は無い。諦めることだな――む、服を引っ張られる感覚。そちらに目を向けると、化粧で綺麗におめかしをしたオーロラが浮いていた。

 いやぁ、ファッションショーをすると決めたらオーロラは徹底的にやるつもりのようで化粧もしっかりとやりたいだなんて言い出した。協力したいのは山々だったが、元男の俺の家に化粧道具なんてあるわけもないし、マンガ肉以下荷物が届いた後にごねたもんだから、予定日に間に合わないことは明白だった。そこで俺が頼ったのは――巣守花子さんだ。事情を花子さんは二つ返事で了承してくれてさらにはオーロラに化粧のレクチャーまでしてくれた。その練習の成果が今、俺の目の前にある。


「流石オーロラ、美人に磨きがかかってやがる」

「――♪」

『え?オーロラちゃんそこにおるん?』

『はよ』

『あくしろ』

『盛り上がってまいりました』


 メイク、衣裳も万全。では気合の方は?言葉で語らず、アイコンタクトだけでオーロラに確認を取る。オーロラは一切の迷いなく、自信をもって首肯する。ふっ、そうだなオーロラに緊張という言葉は無縁か。――なんかぷんすこと殴られた。解せぬ。では、まぁ……始めるか。

 

「みィなさま!長らくお待たせいたしました!当事務所に所属するスーパースターの準備が整いました!」

『その事務所、1人しか所属してない?』

『社長もスターになろう!』

「ならねぇよ!――失礼。ではお呼びしましょう!カモン、オーロラ!」


 瞬間、日が暮れてきたから点けていたランタンの灯り消えて周囲は真っ暗――いや待て!?バーベキューコンロもマンガ肉焼いてる火の輝きも消えている。だのに、確かに熱は感じることが出来る。パソコンの画面も消えているから視聴者たちのコメントも見えない。何これどゆこと!?

 そんな暗闇の中でパチンと指を鳴らす音が聞こえる。すると、どういうことだろうか。テーブルの一か所が上方からスポットライトのように照らされた。そしてその光の中心には――


「――♪」


 黒と白を基調としたゴスロリ衣装に身を包んだオーロラがカーテシーポーズで立っていた。……待って俺この状況でマンガ肉ぐるぐるしなきゃいけないの!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る