【一時期無限シリーズ】あれやります【流行ったよね】

「という訳で近いうちにキャンプ配信するから」

『どういうことだってばよ……?』

『配信始まって開口一番が「という訳」とは』


 そりゃノータイムでそんな事言われたら視聴者は混乱しちゃうよな、ジョージうっかり。まぁ説明はしないけどな。山ダンジョンの隠しエリアでキャンプするなんて、あまり言えたモンじゃないからね。

 さて、今日の酒のお供は枝豆とそら豆の豆豆コンビだ。無性に食べたくなったんだよね。当然だけどこれだけで腹が膨れるわけは無いから配信終わったら何かしら食べるつもりだ。


「――♪」

『オーロラちゃん楽しそうね』

『そうか、妖精サイズなら枝豆出すならそうか』


 当初は俺が剥いた豆をオーロラにあげようとしたのだが、オーロラはこれを断固拒否。枝豆はそのまま、そら豆は皮にちょっと切れ目を入れて両足で思いっきり踏みつけた。すると豆はプルンと剥け、青々としたその姿を現した。器用な真似をしよる。


「で、今回はキャンプ飯のアイディアを求めようと思ってね?今日、それなりに肉とか山菜とかきのことか……取ってきたわけだけど、折角だからリクエストがあればやってみようかなと」

『ほう、言ったな?』

『我らのリクエストは厳しいぞ?』

『ククク……後悔するがいい』

「何だこのノリ」


 とか言いながらも少し楽しみではある。まぁあり得ない程のゲテモノが来たら断るつもりではあるが――視聴者たちの無茶ぶりを聞いてみたいと思う自分がいる!


『土』

「ハハハ、こやつめ死に晒せ」

『辛辣ぅ!』

『ミネラル豊富なんやぞ!』

「いや、土を食う文化があるのは知ってる!ミネラル豊富なのは知ってる!食べたい?」

『いいえ、私は遠慮しておきます』

『まぁミネラルなんて他で摂れるからなぁ』


 ゲテモノ料理漫画で土を団子にして食べているのを見たことはあるが……あれは無理だ。あれを食べるなら苦手な食べ物を食べた方がマシまであるからね。ぶっちゃけ、初っ端からそのアウトなやつが来るとは思わなかった。まだウミウシとかなら許容してたよ。


「はい、次次!」


 俺がそう宣言すると次々と料理――というか食材?名がずらずらと並んでいく。バーベキューに向いているウインナーとかカレーとかホットサンドとかアヒージョとか割とありきたりな……あ、でもアヒージョはいいかも。

 そんなコメントが流れる中で俺は1つのコメントに目が行った。それは――


『マンガ肉』

「マンガ肉?」

『ダンジョンが出来る前は幻と言われたマンガ肉か』

『食ったことねぇなぁ』

『俺も』

『あれたっけぇもん』

「そうなん?ある事は知ってたし高いことも知ってたけど縁もゆかりもなかったから調べたことなかったなぁ」


 興味が沸いたのでAmazonで検索してみよう。えーっと、マンガ肉と……おぉ、サジェストに廉価版だのクッションだの出てくる。だが、俺が知りたいのはそんな偽物じゃない、本物のそのまんまの意味のマンガ肉!そのワード以外を付けずに検索!


「じゅ、15万!?500gで!?」

『たっかww』

『何の肉か見てみ?』

「なんの肉って……ティラノサウルス?あぁ、うん納得」


 ティラノサウルスとは誰もが知っている程有名な恐竜。人類が生まれるよりも前に生まれ、隕石や氷河期など色々な要素が重なり絶滅した生物だ。が、ダンジョンが現れたことによって、ダンジョンの中限定だが蘇った。何故か?ダンジョンが地層の奥深くに眠った恐竜たちの遺伝子を呼び起こした?はたまた、元々恐竜はダンジョンが生み出していた存在だった?当初は様々な推論が飛び交ったらしい。現在ではそもそもフィクションの存在であったはずのゴブリンとかオークとかドラゴンとか現れた時点で馬鹿らしくなったらしいけどね。

 が、馬鹿らしくなったとされても、やはり一時代地球の最大の捕食者であった恐竜は強敵であり、その肉はそれはそれは高価な値段で取引されていた。


『そもそも狩れる人が限られてるからなぁ』

『そのページに冒険者の写真ない?』

「うわ、あるわ。"私達が狩りました"?3人でティラノ狩れるのかよ……」


 そんな野菜のラベルについている「私達が育てました」の奴じゃないんだから。写っているのは3人とも日本人で男2人女1人のチームみたいだ。絶命したティラノサウルスをバックにピースサインを決めている。その装備には一切汚れが見当たらないあたり、ティラノサウルスを狩ることが慣れていることを感じさせる。はぇ……田舎の山ダンジョンで山菜採ってる俺とは大違いだなぁ。


『で?買うの?』

『買えええええええええええ!!』

『漢を見せる時だぞw』

「女だ今は」

『お約束w』

「いやぁ……流石に夢があるけど15万はちょっと……え?オーロラさん?」

「――!」


 苦笑いを浮かべながらマウスを操作し、ブラウザバックをしようとした手が動かなくなる。金縛りとか催眠術とかそんなちゃちなもんじゃあねぇ!この右手にほのかに感じる温かみの正体は、豆に夢中になっていたはずのオーロラ!


「――!」

「や、あのね?オーロラさん。これ高いのよ。今日薬草売ったでしょ?あれ何百本売っても買えないのよ?」

『肉食系妖精オーロラちゃん』

『表情こっからじゃ見えんけどそらもうキラッキラしてるんやろなぁ』


 視聴者よ、正解だ。ただ、キラッキラだけでは80点だな。満点を取るならばそれに"口から涎を垂らしている"を付け加える必要がある。


「――!」

「え?そんなお金、すぐに稼げるようになる?」

『そういやジョージスパチャせんの?』

『スパチャすればすぐ稼げるやん』

『むしろはよ投げさせろ』

「あー、そもそもスパチャのために配信してたわけじゃないからなぁ……忘れてた」


 そもそも、酒を飲みながら駄弁りたいだけで配信していたわけだからね。当時は収入に困ってたわけじゃなかったから気にしたこともなかった。

 でも、投げさせろと言う人がいるのか……その感覚は正直よく分からないが、申請してみようか?そんなことを考え、言いたいことはスパチャのことなのかとオーロラに視線で聞いてみる。


「――?」

「え?違うの?じゃあ何?」

「――!」

「いいから信じろって?……あぁもう分かったよ!」

『キター!』

『マンガ肉お買い上げありがとうございますぅ!』

『配信楽しみにしてるわw』


 あぁ、後悔はしてないけど15万が飛んだ。……くそう、こうなったら酒もいいの買ってやらぁ!

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