Q、ダンジョンってお泊りOKですか?

「そういう訳でダンジョン内でキャンプしたいんだけど」

「えらい急やなぁ!」


 翌日、善は急げとばかりに俺は早速山ダンジョンの武道さんの所に訪れた。ダンジョン内で一夜を過ごしたことの無い俺には、中でキャンプしても平気なのか分からないからね。もし必要な許可なく行ってしまったら罰則になると大変だ。

 武道さんは急だと文句を言いながらもダンジョンの規則が載っているのだろう、分厚い本を読みながら調べてくれた。


「うん、結論から言うとダンジョン内で寝泊まりしても問題はないみたいやわ。特に書類を出さにゃアカンってことはないのぉ」

「へぇ、長ったらしい理由書を書く覚悟は出来てたんだけど」

「都会やと夜通しダンジョンに結構おるみたいやで?逆にうちやと滅多に見んけどなぁ」


 それは実質、田舎には夜通し潜るほど旨味のあるダンジョンは無いということだろう。俺もキャンプのことが無ければ泊まるなんて思いもしなかったよ。夜にはモンスターがそれなりに活発化するからね。


「ただ、そういうのって大抵パーティ組んどる奴らがするもんやで?オーロラちゃんがいるとはいえ、1人で大丈夫なんか?」

「モンスターが出てこない場所を見つけたから大丈夫!」

「ホンマかいな?」


 疑わし気な武道さんだが、これは彼なりに心配してくれているのだろう。そんな気遣いを無碍にするほど俺は恥知らずではない。簡単にオーロラとの出会い――つまりはあの隠しエリアについて話した。こうでもないと許可は必要ないとはいえ、武道さんから「やめとけ」と言われかねないからな。


「ほぉん、隠しエリア……本当にモンスター湧かんのんやな?」

「それは俺と会うまでずっとあのエリアにいたオーロラが保証するよ。なぁ、オーロラ?」

「――!」


 俺の問いかけに暇そうに浮遊していたオーロラは出番が来たとハッとし、俺と武道さんの間に入ると、武道さんに向かって同意するようにウンウンと頷いた。

 そんなオーロラの姿に相貌を崩した武道さんが「そうなんやなぁ」と懐からチョコレートを取り出し、オーロラに与えた。ぱっと見変質者に見えなくもないから周りの目は気にしてな?他に人いないからいいけど。


「ちなみに貴重な薬草とかあったんか?」

「それほど目ぼしいのは無かったなぁ。宝箱も無かったくらいだし……もしかして、オーロラとあの空間自体がお宝みたいなところはあったのかも」

「ほーん、そういうのもあるんやな。にしてもええなぁ、キャンプ。俺も嫁さんが出来てから行けてないのぉ」

「案外、誘ったら一緒に行ってくれるんじゃないの?グランピングから誘って徐々に慣れてもらえば?」


 グランピングとは簡単に言うと最初からテント設営やバーベキューも用意されていて手ぶらでキャンプが楽しめるという素晴らしいサービスだ。俺も一度だけやったことがあるが、あれは複数人を想定してるみたいで……カラオケも焼肉も1人でも平気な俺でも1人グランピングはキツイものがあった。その分、結婚してる武道さんにはピッタリではないだろうか。武道さんの奥さんの冬子さん、結構アウトドア好きそうだし。


「グランピングかぁ、ええかもな!誘ってみるわ!で?そのキャンプは早速今日やるんか?」

「流石に準備がいるから今日じゃないよ。今日は確認とバーベキュー用の食材確保」

「そか。毎度のことやけど気を付けぇよ?……ここだけの話、YouTuberのネコッシー?ネッコシー?っちゅうのがうちのダンジョンにいたらしいからな」

「ヘェソウナンダ」


 ネッコシーね?はい、既 に 会 っ て ま す。そう言えばあの後、本当に俺とオーロラとのスリーショット写真をTwitterにあげていないか、確認したがネッコシーは約束通り写真を上げることは無かった。ただし、その日のツイートのテンションが異様に高くフォロワーから「何かいいことあった?」と聞かれてた。勿論、そのツイートにも俺の名前を出すことは無く、「おみくじで大吉が出ましたあああああああ!」って返してた。今日日、大吉でそんなにテンション上がるか?


「よし、OK!ほな、行ってらっしゃい!オーロラちゃんも気を付けてなー」

「――!」


 チョコをもらったことで、信頼度が上がったオーロラは武道さんの見送りに両手を振ることで応えた。うん、やはりオーロラは人懐っこいな、コメントにも愛想を振りまいてるし。ネッコシーの時のあれは……第一印象が悪かったと言えよう。


「んじゃ、オーロラ!今日は一杯食材見つけるぞ!それによってキャンプの料理の質が変わると思え!えいえいおー!」

「――!」

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