そりゃ親しい隣人急に見なくなったら心配しますよね
「おうい、ジョー坊!来たぞぉ!おらんのか!」
「ジョーちゃん?最近顔見えないけどどうしたのぉ?」
うわぉ!玄関から聞こえる激しいノックの音の中でも聞こえる厳つい爺さんの声とほんわりとした婆さんの声!間違いない、少し離れたお隣さん……昭文さんと花子さんの巣守老夫婦じゃないか!
巣守老夫婦と俺はそれはもう長い付き合いだ。互いのことはよく知っているし、知り合い通り越して親戚レベルの親しさで接している。昭文さんは今でこそ引退しているが、元冒険者で数年前は一緒に潜っていたこともあった。そんなこともあり、男の時は週に5日は会うくらいだったんだけど、エルフになってからはそもそもダンジョンに行くかスーパー球岸と病院に1回行ったくらいしか外出していない。
だからこそ、巣守老夫婦がほぼ毎日会うはずの俺を一切見なくなって心配するのは当たり前な訳で……痺れを切らして俺の家まで来たと。電話を通り越して直接来るのがお2人らしいなぁ、ふふ。
って笑ってる場合じゃない!いやぁ……どうしよ。エルフになったってバラす?そもそも信じる?武道さんだってフリーズしたんだから、最悪お2人が驚いて気を失う可能性も無きにしも非ず!であれば居留守?いや、それもまた心苦しい!
そうしてあーするか、こーするか考えてたところに扉から花子さんの聞き逃せない声が聞こえた。
「ジョーちゃん!今日ねぇ、筍のお刺身!持ってきたのよぉ!」
「マジで花子さん!?」
引き戸ガラーッ!からの交わる俺と昭文さんと花子さんの視線――あっ終わった。でも仕方ないんや!筍のお刺身の誘惑には誰も勝てないの!やっべ、これどうしよ!もしかしたら泥棒だと勘違いされる可能性もあるのでは!?
走馬灯のように頭がフル回転するのが分かる。あぁ、どう言い訳したものか。まずは俺が木原譲二だということを分かってもらわねば――!
「あの、昭文さん、花子さん……!」
「あら、ジョーちゃんかい?」
「へぁ?」
「お前さん、ジョー坊か!?どーしたんだ、その恰好!」
「え?何?2人とも俺が譲二だって分かるの?」
「「眼を見れば分かる」わよぉ」
ニュータイプかこの人ら
・
・
・
「まぁまぁ、えるふ?になっちゃったのねぇ」
「ガッハッハ!一瞬、ジョー坊の女だと思っちまったじゃねぇか!」
「一瞬だけなの凄いよ?」
立ち話もなんなのでという訳で中に入ってもらったんだけど2人とも順応性が高すぎる。武道さんの狼狽っぷりが何だったのかと思えるレベル。これが年の功というやつか、大体のことでは驚かないと……!?いや、お隣さんがエルフになっていたなんて大体のうちに入らないと思うんですけど。
そうこう話していると、最初は知らない人間の登場に、慌てて物陰に隠れていたオーロラが俺の肩に止まった。
「――?」
「あら!可愛い妖精さんねぇ!ジョーちゃんと暮らしているの?」
「そうそう、オーロラ。こんなナリだけど酒が好きなんだよ」
「ほぉ!妖精は水ばかり飲むもんとばかり思ってたんだがなぁ……どうだ嬢ちゃん、ウチにハブ酒あんだけど飲んでみねぇか?」
「――!」
「おぉ、そうかそうか!興味あるか!」
仲良くなるの早すぎません?しかも話通じてるみたいだし。何?酒飲み同士のシンパシー的なやつ?あと、昭文さん。俺もハブ酒欲しいんだけど?
「それにしても別嬪さんになったわねぇ?……ねぇ、ジョーちゃん?着物着てみない?着付けならやってあげるから!」
「えー?でも着物着たらあんまりご飯食べれなさそうじゃん?」
だって着物って帯をギュッギュッて縛るんでしょ?そんなの絶対苦しいよ!断固拒否させていただきます!ただし甚平ならいいよ!
「もう、ジョーちゃんったら食い意地は変わらないのねぇ?」
「ガハハ!そりゃそうだ!女になっただけで中身がそう変わるわけはない!――っとそうだ、ジョー坊!お前、いつもの山ダンジョンには潜ってるのか?」
「うん?潜ってるけど?」
「そうか!まぁ、お前なら下手に山頂には手を出さんよな!」
「そりゃねぇボスは怖いから」
おどけたようにワザと震えてみせる仕草をすると笑いが巻き起こる。まぁでも、実際にボスは怖いからね……気を付けなきゃ。
「にしてもこーんな美人になったジョーちゃん見たら翠ちゃんどうしちゃうのかしら!あの子、あなたにベッタリだったもんねぇ?」
「やー、もう忘れてるでしょ?」
そんな他愛のない話をしていると、時間は過ぎ、2人は帰っていった。勿論、念には念を入れて俺がエルフになったことは誰にも言わないように頼んでおいた。どっちもポロッと零しそうな危険性はあるけれども……そこは信じよう。
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