あるー日、山ダンジョンの中ー、〇〇〇〇さんに出会ったー
「よーしよし、いいサイズの木々鹿が掛かったじゃないの」
「――♪」
質問コーナーから数日後、俺とオーロラは何時もの山ダンジョンに潜っていた。やっぱり家に引きこもってばかりだと気が滅入るからね。定期的に外には出ておきたい。
それで今、目の前に罠にかかった木々鹿の牡鹿がいるんだけれども、彼奴めトラバサミに脚を喰われた状況でも俺を見据えて近づこうものならその木の枝みたいな角で貫こうとしている。今まで放置して弱らせてから止めを刺していたんだけれども今の俺にはオーロラがいる!
「オーロラ隊員!よろしく頼む!」
「――!」
イエッサーと言わんばかりに敬礼をするオーロラはすぐに行動に入る。握りこぶしにした両手を前に突き出し何かを念じ、その手を開く。すると、手のひらから光の粉塵があふれ出し瞬く間に木々鹿の顔を覆いこむ。何事かと木々鹿は顔を振るい暴れるが――次第にその勢いは失せていき最後には木々鹿は静かに寝息を立てていた。
初めて効果を見たけれど凄い効き目だなぁ……オーロラというか妖精は魔法に長けたモンスターだから何かしら使えるのではと思ったのだが、オーロラは攻撃魔法をも使えるが、それよりも状態異常魔法を得意としているようだ。今回の魔法は眠りの効果を及ぼすものということだが……あんなに興奮していた木々鹿を眠らせるのは相当だな。ちょっと怖いまである。
「さ、流石オーロラ隊員!見事な活躍だ!」
「――♪」
わぁ、オーロラさん褒められて上機嫌だ。その後、きっちり止めを刺したが、オーロラは目を背けることなくしっかりとその光景を見ていた。他者の命を奪ってショックなんて以ての外、それどころか新たな食べる肉が増えてウキウキしているご様子。そういうところはモンスターなんだなって。ただ、山ダンジョンでそのドレスはやっぱり合ってないなぁ。Amazonに妖精用のジャージなかったかな?
さて、そんなこんなで狩りは順調に進んだ。今日は木々鹿だけじゃなくて鋭角猪までかかっていた。こいつも相当苦戦する相手のはずだったが、そこはオーロラ隊員の力で永遠の眠りに落ちていただきました。南無三!
「いやぁ、狩り申した狩り申した。でっかいシイタケも見つけたしいいこと尽くめだ!しいたけステーキもいいかも知れん!」
「――!」
「あぁ勿論猪肉も食べなきゃな!牡丹鍋……うーん唆る!」
俺もオーロラも今日の戦果にほっくほくだ。まさかあんなところでシイタケの群生地を見つけるとは。何年も潜っておいて見つけられなかったことが恥ずかしい!そんな羞恥心もしいたけを食べれば吹っ飛ぶだろう。いやぁ自然と足がスキップをしてしま――
「あ」
「……あ?」
何、今の「あ」は?オーロラは喋れないから違うし勿論俺では無いよ?嫌な予感を覚え、首がギギギという音を出しそうなほどにロボット的な動きをし「あ」が聞こえたほうに向く。
いますね。こっち見てポカーンて口開けた冒険者風の女性が。あ、あっちもギギギと錆びたロボットみたいにぎこちない動きをしてポケットに手を伸ばしてるよ!あっ!そのポケットから覗くのは――スマホだなぁ!?……逃げるぞ!
「オーロラっ!」
「――!」
「え、ちょ!」
何やら女性が言いかけたがお前、そのスマホで写真撮るつもりだっただろう!そうはいかんからな!オーロラに声を掛けると、彼女は俺の意を汲んでくれたようで名前を呼んだだけで頷いた。分かってくれて何よりだ。それでは……逃!
地面を強く蹴り、俺は走った。撮られまいとその一心で――ただ駆けた。って待って!速ない?思った何倍ものスピードが出ている。しかも、こんなにも木々が生え揃っている森で木にぶつかることなく無駄のない動きで避けている。何だこれは本当に俺の体か!?
そこで俺はある一つの事実に思い至った。そう言えば、エルフになってから全力で走ったことなかったなって。え?俺こんなに速かったの?えーっと、なんだ。こう考えている間にも俺の体は地を掛け、時に木に登り、そのまま枝から他の木の枝へ駆け、跳んで駆けて滑って転んで、また走って――
「ハッアハハハハ!何だこれ!あほか!めっちゃ楽しいなぁ!」
「――♪」
あまりにも可笑しくて、楽しくて、笑ってしまった。すぐ隣を飛ぶオーロラも楽しそうな音を出す。あぁ、俺はどれくらいまで走れるのだろうか。その限界の先には何があるのだろうか。
……その前にここがどこか俺迷ってないかなぁ!?
「あのぉ!待って!待ってくださぁい!」
「んん!?」
声が聞こえた。かなり後ろの方だが、確かに俺に向けたその声は走り出す原因となった女性の物だ。嘘、追いついてきたの!?やっべ、もっと加速しなければ!トランz――
「待ってぇ!私!ファンなんです!私、ネッコシーって言いますぅ!」
ん?
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