TSエルフさんの普通な一日

「ふぁあ~あ……オーロラが嬉々としてわさびチューブ吸う夢見た……」


 朝7時、スマホから流れるアラーム音で俺の一日が始まる。夢は見る方だが、内容は基本覚えてないんだが、今日の夢はインパクトが強すぎた。妙に実現しそうな夢だったな。オーロラがわさびを使う時は注意しておこう。


「――。――。」


 当のオーロラだが、未だに夢の中だ。よだれを垂らしていることから何か美味しいものを食べている夢も見ているんだろう。その美味しいものがわさびじゃないことを切に祈るよ。

 オーロラが寝ている寝具だが、敷布団はちょっと厚めのハンカチ、掛け布団は薄めのハンカチ。枕は固めが好きとのことで、段ボールの中に合ったバラ緩衝材を使っている。本人が満足してるのならいいのか……?いや、ちゃんとしたの買ってあげねば。

 さて、オーロラが起きるまで少し時間があるから日課の筋トレでもするか。


「98、99、100っと」


 男の時からやっている筋トレ。今は上体起こしをやり切ったところだが、明らかにスピードが上がっている。回数増やした方がいいのかもしれない。次はプランクだな。もしかしてこれも楽になっちゃってるんじゃ……?


「あっやっぱキツイ……っ!」


 プランクは辛いまんまだった!いや、筋トレをしている以上、辛いぐらいがいいんだけれども。ぬおおお、変な呻き声が出るぅ……!


「――?」


 おっと、そうこうしているうちにもうオーロラが起きる時間になっていたのか。プランク中だから顔を向けることは出来ないが、俺のこの状況見て「何してんの?」くらい言っているのだろう。そして何を思ったか、あろうことかプランク中の俺の背中に乗ってきやがったよこの子!


「――!」


 楽しそうな声が聞こえるが、君割とえげつない事やってるからね?――まぁ、言うてオーロラ軽いから負担0なんだけどね?はいはい、もう少しで終わるからね。そしたら朝食にしようねぇ



 今日の朝ご飯はトーストと目玉焼き。食欲が人間と変わらないオーロラは勿論俺と同じ、ハーフではなく丸々一枚だ。今彼女はニッコニコでトーストにイチゴジャムを塗りたくっている。あの、オーロラさん。ジャムも有限だからね?

 ちなみに目玉焼きだが、俺もオーロラも半熟でメインがトーストの場合は塩コショウ派だ。ご飯の場合は醤油をかける。


「オーロラ、美味しいか?」

「――!」


 お気に召した様子で何より。でもなぁ、この前ふっと何の気なしに妖精について調べてみたのよ。この世に妖精と共に暮らしている人はそれなりにいる。Twitterやインスタで画像や動画をアップしている人もちらほら見掛けるのだが……見かける妖精、どの子も水しか摂取してないみたいなんですけど?セレブリティな人は1本5000円のミネラルウォーターを1日に1本与えているらしい。

 この子らとオーロラを比べると……明らかに異質だよね。いまだって目玉焼きの下に敷いてるベーコンに齧り付いてるよ?ワイルド過ぎない?まぁどんなにワイルドで酒のみでもうちの大事な子だから別にいいんだけどね。


「ほら、オーロラ。黄身が口元についてる」

「――?」



 朝食を終え、オーロラと共にお掃除。オーロラにはマ〇イ棒を持たせて隙間を綺麗にしてもらっている。何でもかんでも楽しいみたいで、鼻歌を歌いながら掃除してくれる。知らない間に家の掃除をしてくれる妖精と言えばブラウニーやシルキーだっけ?オーロラもいつかそんな風になるのだろうか。


「――♪」


 さて、俺はフローリングワイパーで床の埃を拭き取ったら今度は掃除機の番だ。すると、オーロラが待ってましたとばかりに本体部分に乗りドライブ気分を楽しむ。結構な騒音なはずなんだけど平気みたいだ。俺も気を付けるけど転がり落ちないでね?



 本来であれば、これくらいの時間になったらダンジョンに行くんだけれども、晒しがあったばかりだからねぇ。武道さんにも「今は外出ん方がえぇで」と言われている。なんでも行きつけの山ダンジョンの方に「エルフいますか?」と問い合わせしてくる輩が割といるらしい。ヒェッ

 なので今はネットサーフィンをしている。見ているのはAmazon。オーロラ用の家具を探しているのだ。


「――!」

「オーロラさん、確かにそれは美味しそうだけど今は君用の家具をだね?」

「――!」

「え?バニア欲しいの?いいけども、家具先に見ようよ」

「――!!」

「あぁ、妖精用のコップね。え?マグカップじゃなくて酒用のグラスが欲しい?グラスも重要だもんね、どれがいい?」

「――!」

 

 聞いてみると水を得た魚のようにオーロラは次々と画面に映るグラスを指さしていく。え?ビアグラス?ビールジョッキ?御猪口?升?ロックグラス?ワイングラス?ちょちょちょ、待ちなさいよオーロラさん。貴女、酒によってグラス変えるつもり?俺もそうしてるけど、その域に達してるの?

 ただ残念なことに妖精サイズの各種グラスは存在しなかった。強いて言うなら御猪口がちょっと大きい盃になるくらいかな?少々不満そうなオーロラだが、その御猪口がカートに入ると途端に嬉しそうにした。その後の家具や服選びは割とスムーズにいった。……高かったけど


「え?このカレー激辛だぞ?いいのか?」

「――!」


 昼ご飯はレトルトなカレー。カレーはストロングスタイルでは辛かろうなので、キッチンの引き出しにあった、紙スプーンをさらに半分に切って渡してあげた。

 わさびがイケるとはいえ、カレーはまた違うタイプの辛さを持つ。ダメかと思い、子供用のプリティーなキュアが描かれたカレーを用意したら俺用の辛さ10倍カレーに興味を持ってきた。

 そんな気はしていたのでとりあえずスプーン一口分差し出すと……はい、汗ダラダラにかきながらも、要求してきたよ。でも今日はダメ。折角甘口カレー準備したんだからそっちを食べなさいと言ったら素直にそちらを満足そうに食べてくれた。


 その後は今日の配信で使う予定の質問箱の確認だ。昨日の配信が終わって半日は経っているが、相当な数の質問が来ていた。が、まー予想通りと言うか何というか、住所とかスリーサイズとかアウトすぎる質問が多かった。彼氏彼女いますかなんて質問もあった。喧嘩売ってる?

 しかしそんな中でもありがたいことにまともな質問もあるからどんどんピックアップしていこう。いやでも、ネタ用に失礼な質問も入れておくべきか?悩むなぁ。

 そんな俺の横でオーロラは細かく砕かれたポテチを食べながらようつべで動画を見てた。やめなさい!頑張って作業している隣で2分でホットサンドメーカーを使って飯テロ動画を見るのは止めなさい!欲しくなっちゃうじゃないか!あぁもう、それが食べたいの!?今度作ったげるから!


 そうこうしているうちにもう日が暮れてきた。そろそろ、配信で食べる用の料理を作り始めますか。えーっと、昨日は刺身だったから肉かな。よし、ワイルドに木々鹿のスペアリブだ!

 む、匂いに釣られてオーロラがやって来た。こらこら、つまみ食いはダメだぞ。それは作った俺の特権!


 料理を机にセットしてパソコンよし!カメラよし!酒よし!オーロラよし!


「――!」

「そのヨシのポーズはその服には合わないからやめなさい。……はい、ジョージの酒飲み配信にようこそー」

『開幕現場猫ポーズしてるオーロラちゃそ』

『何でそんなドヤ顔なの?w』

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